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009 悪役キャラは手本を見せる

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 『勇者と五人の聖剣乙女』の主人公、その名をアレンと言う。
 幼少期をバルザ村で過ごし、紆余曲折あって復讐のために戦うことを決意し、最終的には聖剣に選ばれた少女達と共に魔王を倒す伝説の勇者だ。

 その幼少期バージョンが、目の前にいる。

「あ? 誰だ、お前? 見ない顔だな? 随分と高そうな服着てっけど……」
「はじめまして。エルゼ・フォン・ムーンライトです」
「ムーンライト? どっかで聞いたことがあるような……」

 アレン、自分の住んでる村がどこの貴族の領地か知らないのか? 日本で言えば自分が住んでる都道府県知らないようなもんだぞ、それ……。

「アレン!! ムーンライトっていうのは領主様の家名でしょっ!!」
「ん? 領主? げ、じゃあお前貴族なのかよ?」

 メイルが怒鳴る。
 そしてアレンは俺を見て露骨に嫌そうな顔を見せた。

「貴族ってあれだろ? 毎日美味いもんばっか食って偉そうにしてるやつらだろ?」
「ちょっ、バカ!!」

 アレン君、それは下手したら不敬罪に問われる発言だぞ。
 いや気にしないから良いけど。
 多少の失礼な物言いでも許してやるのが大人の余裕というやつだ。

「メイル嬢、大丈夫ですよ」
「えっ? でも……」
「俺は気にしてませんし、ここまではっきり言われると清々しいですから」

 たしかにムカつくけどね。
 前世でも近所のクソガキ共に悪戯されてイライラしたこともあったが、そのイライラはクソガキの母姉妹に責任を取ってもらった。

 どこの家のガキか調べて、苦情を言う呈で自宅を訪ねるのだ。美人が出てきたら即レイプ。女家族もまとめてレイプして性奴隷にしてやったもんだぜ。
 このアレンの無礼も母親の身体で許してやろうじゃないか。

 良かったな、アレン。弟か妹が出来るぞ。

「まぁいいや。お前も仲間に入れてやるよ」
「それはそれは、光栄ですね」

 白々しい言葉が出たのだが、アレンは素直に受け取ったのか、へへっと鼻を鳴らした。

「なぁ、お前エルゼだっけ? 森に行こうぜ!! オレが森での遊び方ってもんを教えてやる!!」
「ちょっとアレン!! 森は危ないから行くなっていつも言われてるでしょ!!」
「あん? なんだ? 怖いのか?」
「は、はぁ? べ、別に怖くなんかないし!!」

 あっ、森が怖いのか、メイル……。

「じゃあ決まりだな!! 行くぞ!!」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!!」

 駆け出すアレンとそれを追うメイル。平和な日常って感じがするね。
 俺も二人を追おうとしたところで、護衛の兵士に待ったをかけられた。

「エルゼ様、あまり危険な場所には行ってもらいたくないのですが……」
「ふふ、ちょっとだけです。危ないと思ったらすぐに戻りますよ」
「我々も行きます。子供だけで遊ぶのに大人が混じるのは良くないと思います」
「えぇ……」
「大丈夫です。俺は強いですから」
「それは知ってますけど、万が一のことがあれば我々は公爵様に首を跳ねられます……」
「大丈夫です」
「我々が大丈夫じゃないって言ってるのに……」

 呆れる護衛を無視して、俺は二人を追いかけた。







 バルザ村は自然が豊かだ。
 四方が森に囲まれており、整備された街道は一本しかない。しかし土は肥沃で、畑には栄養価の高い野菜が生える。ついでに言えば森には薬草などが自生しており、それもまた村の収入になっていた。

 森の中をズカズカと進むアレン。
 俺は途中で珍しい薬草を採取しつつ、それに付いて歩く。
 そして、メイルはそんな俺を興味深そうにじーっと見てくる。

「あの、なにか?」
「あっ、ごめん。どうして薬草なんて集めてるのかなって思っちゃって……」
「新鮮な薬草は滅多に手に入りませんから。色々と使い道はあるんですよ。これは軟膏にすると良いですし、こっちは胃もたれに効く薬草です」
「詳しいんだね」
「けっこう勉強してますから」

 メイルに微笑みかけると、彼女は頬を赤く染めて明後日の方を向いた。
 先程の不意打ちキスが効いているのかも知れない。アレンがいなければもう襲ってるんだが、仕方ないな。

「おーい、何してんだよ!! 早くこっち来いよー!!」
「はーい、今行きますよー」

 少し不貞腐れたよう表情のアレンが大声を出す。幼馴染みと俺が仲良くしていることに嫉妬でもしたのかな?

 それにしても、どんどん森の中を進んでいるが、一体どこに向かっているのだろうか。

「へへへ、あと少しでオレの作った秘密基地に到着するぞ!!」
「秘密基地、ですか?」
「ああ!! 見たらびっくりするぞ!!」

 前世の俺も子供の頃に作ったなー。
 近所の空き地に秘密基地を作って、女の子を連れ込んでいた。え? ナニをしてたのかだって? はっはっはっ。言わなくても分かるだろ、セックスだよ。

 そうだ、良いこと思い付いた。
 アレンに黙ってアレンが作った秘密基地でアレンの幼馴染みを犯す、どうだ? 想像しただけで興奮するぜ。

 そんなことを考えながら森を進むと、アレンは洞窟の前で足を止めた。

「ここが秘密基地ですか?」
「へへっ。中を見てみろよっ」

 言われるがままに足を踏み入れる。
 そしてしばらく進んだところで、俺は思わず感嘆の声を漏らした。

「これは……凄いですね……」
「綺麗……」
「だろ?」

 メイルも俺の隣でその光景に見惚れ、アレンはちょっとムカつくどや顔をした。

 洞窟は鍾乳洞のように刺が天井から生えており、しかしそれら全てが青白く発光していたのだ。松明など必要ないくらい明るい。
 右を見ても左を見ても美しいその光景に、俺はただ驚いた。

「これ、全部魔石ですね」
「ませき?」
「ん? なんだよエルゼ、この石知ってんの?」
「はい。魔力を帯びている石ですよ」

 洞窟の中全体が魔力で満ち溢れている。それが石を魔石に変質させたのだろう。

 魔石には色々な使い道がある。
 特に俺が趣味で行っている魔導具開発には魔石が必須だ。需要はあまりないので高価というわけではないが、数が少ない。

 欲しいな。

「アレン、ここの魔石を少し譲ってもらえませんか?」
「あ? 別に良いけど何に使うんだ? ただの綺麗な石だろ?」
「ははは……」

 笑って誤魔化す。
 この三人だけの秘密の場所にしておけば、俺が公爵になってから奪えるかも知れない。

 魔石は正しく使えば文明を発展させることが出来る。
 剣やら槍やら振り回すような世界観を無視して、現代兵器を再現することだって可能だと俺は見立てているのだ。

 だからこの洞窟は欲しい。

「ここは俺達三人の秘密の場所ですね」
「おっ、その響き良いな!! エルゼ、メイル、ここのことは秘密だぞ!!」

 アレンが馬鹿で助かる。
 俺は少々の魔石を回収して帰路に着く。しかし、突然の雨に見舞われた。それもかなりの大雨だ。遠方からは雷の音も聞こえる。

 近くにあった大きな木の下で雨宿りをしたが、かなりズブ濡れになってしまった。

「あぅ……びしょびしょになっちゃった」
「メイル嬢、俺の上着をどうぞ」
「え? こ、こんな高そうなの借りたら悪いよ!!」
「お気になさらず。メイル嬢の……その、服が濡れて……」
「っ!! あ、ありがと……」

 顔を真っ赤にして上着を羽織るメイル。
 チッ。二人きりならむしろその服をひん剥いてぶち犯してやるんだが……。
 アレンがいる前で俺の女になる予定のメイルの裸は見せたくないな。完全に堕としてから目の前でセックスするなら良いが。

 そんなことを考えながら雨が止むのを待っていると……。

――ピカッ!! ゴロゴロゴロ……。

 突然、少し近くに雷が落ちた。

「きゃっ」
「メイル嬢、大丈夫ですか?」
「はぇ? あ、ありがと……」

 雷にびっくりしたらしいメイルの身体を支えてやった。するとアレンがメイルを小馬鹿にした様子で笑い飛ばす。

「メイル、お前七歳にもなって雷なんか怖がってるのかよっ。ぎゃはははっ」
「う、うるさい!! 怖いものは怖いんだから仕方ないじゃない!!」

 アレンは女の扱い方が分かってないな。
 これが将来は五人の美少女を侍らせるだなんて全く信じられない。

 俺が手本を見せてやろう。

「メイル嬢も雷が怖いんですね」
「え? も?」
「はい。俺も雷が苦手で……ふふ、メイル嬢と一緒ですね」
「あぅ、そ、そう、だね……」

 メイルが俺の貸した上着で赤くなった顔を隠す。
 あー、チョロいわー。
 流石は一番楽に攻略出来るヒロイン。
 ちょっと微笑んだだけでこれとかマジで笑えてくる。

 その横で少しムッとした顔のアレンが俺とメイルへ視線を向けてくる辺りがまた堪らない。

 しばらくして、雨が止んだ。
 どうやらゲリラ豪雨だったらしい。早めに戻らないと父が心配するだろうし、良かった良かった。

「止んだみたいだな。あっ、おい、みんなびしょ濡れなんだし、うちの風呂入ってけよ」

 おいおい、なんだその最高な誘いは。
 俺とメイルへのやり取りへ対抗心を燃やしたのかも知れないが、それは好都合。

「いいのですか?」
「おう!! この時間なら母ちゃんが美味いお菓子作ってくれてるぞ!!」
「ホント!? おばさんのお菓子!?」

 飛んで跳ねるメイルを尻目に、俺はニヤリと笑みを溢す。

 主人公の母親を犯すチャンスがこんなにも早くやって来るとは思わなかったな。
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