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「クロスさん、少し正門にいる人集りが増えているような気がしませんか?」

 皇居に戻ってから二日が経ったある日のこと、彼女は執務室から見える正門の様子に違和感を覚えた。今日まで確かに人の数に増減はあった。雨の日は少なくなり、快晴の日には多くなる。しかし、これほどまでに増えていることなんてなかった。

「確かにそうだな。何かあったのだろうか」

 彼もまた現場を見るとその違和感に気づき、何か起きたのかと疑った。

「クロスさん、あれ」
「うん、どれだ?」
「あの一番左から少しズレたところにいる白い紙を持っている人です」
「ああ、あれか」
「はい。あの人の紙に何か書いていませんか?」
「いつものように公爵をやめろと書いているんじゃないか?」
「いえ、何か違うような気がするのです」
「少し待て。双眼鏡で見る」

 彼は引き出しから双眼鏡を取り出し、彼女が言ったところにピントを合わせる。それは確かにいつもの髪ではなく、色合い的に新しく書いたものであった。

「『聖女を奪った愚か者め。シライアの属国となれ』。そう書かれているな」
「そうですか」

 紙に書かれたことを読み上げたクロス。それを聞いた彼女は少し残念がった。

「あの人の仕業ですね」

 話し合いの末、立場が不利になったからと怒鳴りながらその場を後にしたというのに、このような狡い手を使うのはシライアの公爵も落ちるところまで落ちてしまったなと思う。それくらい聖女を取り戻すことに必死なのだろうが、狡い手を使ってきたことを残念に思う。

「もう一度、あの方を呼んで説得しましょう。私は奪われた立場ではないことを」
「そうしたいのは山々だが、あの民衆を見るに元凶である彼を説得するのは困難だろうな」
「そうですよね」

 彼らは感情任せである。説明したところでどうせ言わされているとあらぬ憶測を勝手に事実のように扱って神経を逆撫でさせてしまうというのは目に見えている。であるのなら、無視してしまったほうがいいのかもしれない。幸い、抗議をするだけして特に悪事を働いているわけではないのだから、ひとまずは無視しておくべきだろう。

「次はこの地区だが、他の三地区のように上手くは行かないだろうな」
「だいぶ嫌われていますもんね」
「そうだな。直接私が赴けば公務を妨害されかねない」
「何か策を講じないといけませんね。私が一人行くのはどうでしょうか?地味目な格好をすれば案外気がつかれないかもしれません」
「いや、あの民衆を見るにシライアの公爵がまだこの国に残っている可能性が高い。街で偶然会ったら強引にでも連れて行くかもしれない」
「確かにそうですね。でしたら、二人で共に行動したほうがいいかもしれません」
「見せしめも兼ねて共に堂々と行動したほうがいいかもしれんな」
「そうですね。それといつもより距離を近づけば、嫌っていないと分かるかもしれません」
「そうしたほうがいいかもしれん」

 着実にどうするべきか話をつけてようやく決まったところで二人は最後の地区の問題解決をすることにした。
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