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Act.10 いざ、敵の本拠地へ
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関所から商店街に歩くまで、フィオベルハム兵の大声に驚いてまんまるぼわぼわ状態で固まってしまったパッセルを、クリストファー様の掌に移す。流石に哀れに思ったらしく、撫でて落ち着かせてくれている。
貨幣屋でオーレンダル貨幣をフィオベルハム貨幣に両替し、その後道具屋でフィオベルハム国内の地図を買う。
昼食に腸詰めと生食できる葉物野菜を薄焼きパンで包んだものを買い、二人と一羽で地図を覗き込みながら食べる。
ちなみに、もうパッセルのぼわぼわは落ち着いていた。
「……マナ・ユリエ教会の総本山街〝ノルディス〟までは、乗合馬車を乗り継いで十数日……ってところかな」
「うん……」
「……大丈夫、もうオーレンダルに入ったあたりから追っ手が来なくなっただろ。俺たちの家だって無尽蔵に裕福なわけじゃない。もう国を幾つもまたいだんだ。傭兵や冒険者達に払う金を捻出するのも限界があるさ」
「……うん、そうだね」
……他人の目があるところでは、ずっとこの設定での芝居をしないといけないのが辛い。
なにしろ、実態と設定がかけ離れてるのがなぁ……。
「ともかく、移動手段を考えないとな」
「そうだね」
食べ終わって地図を畳む。食事兼休憩に使っていた軒先から離れ、クリストファー様と手を繋いだ。腕同士が密着するぐらいぴったりとくっついてくる。
……俺たちはカップル、俺たちはカップル……。不敬とか、恥ずかしいとか思っちゃいけない……!!
『……シルフ。徐々に俺たちの気配を消していってくれ』
『お安いご用です』
歩き始めると同時に、俺は念話でシルフに指示を出す。
フィオベルハム側の街の出入り口に着く頃には、もう俺たちの気配はよほどの猛者でも読めない程に薄くなっていたようだ。
声もかけずに素通りしたのに、門番の兵士が何か言ってくることも、視線を向けてくることすらなかった。
しばらく歩いたところで、林が見えてきた。俺たちはするりと街道を外れる。
林の中に深く立ち入ったところで、俺たちは再びシルフによって天高く打ち上げられた。
思わずため息をついてしまった。俺は文字通り、地面に足が付いていないとダメなタイプなのかもしれない。
【転移魔法】で行ければ一番いいのだが、人間の【転移魔法】は、術者が行った場所でなければ座標を具体的にイメージ出来ないため、危険が伴う。
具体的に言うと、<魔法素>の流れで肉体がバラバラになる危険性を秘めているのだ。
なら精霊達に連れて行ってもらえばいいじゃないか、という考えも浮かぶのだが、にべもなく断られた。
曰く、『手前ェらを過剰に甘やかして、こっちに何か益があンのか?』『小僧の面倒もまとめて見てやっているのは、ユグドラシル様とリアン様のご心情を慮った上での、わらわたちの恩情じゃ。それをよぉく有り難がることじゃな』……だそうで。
まあ仕方ない。こっちも堕落するのはよくないからな。
……それはそれとして、【飛翔魔法】の地に足つかなさは一生慣れそうにない……。
「ウフフ、役得役得~」
……クリストファー様はこの状況を楽しんでるし……。
『ディランくん』
「うわなんですかシルフ」
びっくりした。急に話しかけるんだもんな。
『怖がることはありませんよ。空を自由に飛び回るのはこれ以上にない至福なのですから』
『ちゅん!』
……そりゃあ、風属性の大精霊と妖精はそうでしょうねえ……。
俺の気持ちを分かってくれるのは、飛行中一切喋らず、仮の姿のねずみ姿で俺のシャツの胸ポケットに収まっているノームくらいだよ……。
……まあ、こうしてノルディス手前までは送ってもらえる算段を了承してくれただけ、本当に有り難いんだよな。
普通に歩きと乗合馬車で行くと、ハイマー辺境領からノルディスまで、まっすぐ行っても2、30日は確実にかかる。
それが俺たちは【飛翔魔法】ショートカットでたった一日で、ノルディスの一つ手前の宿場町に宿泊出来る算段がつくんだから。感謝しかない。
……感謝しかない、んだが。
「ぅ……」
「ディラン、大丈夫?」
「……だい、じょうぶ……です……」
……やっぱり、酔ったんだよなぁ……。
宿場町近くの林の中に降りてもらった。のはいいんだが、降りて早々俺は地面に蹲ってしまった。
クリストファー様が俺の背中をさすってくれている。うぅ……、情けない……。
うぐぁ!? 頭の上に急に何か熱っぽいものが乗ってきた!
『おいおいおいおい小僧、しっかりしやがれってんだ! 空中を猛スピードでカッ飛んだ程度で音ェ上げやがって! そんなんで本当にリアン様を助けられるんだろうなァ? えぇ!?』
……人が飛行酔いと戦ってるときに、頭ぺちんぺちん叩いてきながら大声出しやがって……。
いくら四大精霊とはいえ、いくら高次存在とはいえさぁ……!!
貨幣屋でオーレンダル貨幣をフィオベルハム貨幣に両替し、その後道具屋でフィオベルハム国内の地図を買う。
昼食に腸詰めと生食できる葉物野菜を薄焼きパンで包んだものを買い、二人と一羽で地図を覗き込みながら食べる。
ちなみに、もうパッセルのぼわぼわは落ち着いていた。
「……マナ・ユリエ教会の総本山街〝ノルディス〟までは、乗合馬車を乗り継いで十数日……ってところかな」
「うん……」
「……大丈夫、もうオーレンダルに入ったあたりから追っ手が来なくなっただろ。俺たちの家だって無尽蔵に裕福なわけじゃない。もう国を幾つもまたいだんだ。傭兵や冒険者達に払う金を捻出するのも限界があるさ」
「……うん、そうだね」
……他人の目があるところでは、ずっとこの設定での芝居をしないといけないのが辛い。
なにしろ、実態と設定がかけ離れてるのがなぁ……。
「ともかく、移動手段を考えないとな」
「そうだね」
食べ終わって地図を畳む。食事兼休憩に使っていた軒先から離れ、クリストファー様と手を繋いだ。腕同士が密着するぐらいぴったりとくっついてくる。
……俺たちはカップル、俺たちはカップル……。不敬とか、恥ずかしいとか思っちゃいけない……!!
『……シルフ。徐々に俺たちの気配を消していってくれ』
『お安いご用です』
歩き始めると同時に、俺は念話でシルフに指示を出す。
フィオベルハム側の街の出入り口に着く頃には、もう俺たちの気配はよほどの猛者でも読めない程に薄くなっていたようだ。
声もかけずに素通りしたのに、門番の兵士が何か言ってくることも、視線を向けてくることすらなかった。
しばらく歩いたところで、林が見えてきた。俺たちはするりと街道を外れる。
林の中に深く立ち入ったところで、俺たちは再びシルフによって天高く打ち上げられた。
思わずため息をついてしまった。俺は文字通り、地面に足が付いていないとダメなタイプなのかもしれない。
【転移魔法】で行ければ一番いいのだが、人間の【転移魔法】は、術者が行った場所でなければ座標を具体的にイメージ出来ないため、危険が伴う。
具体的に言うと、<魔法素>の流れで肉体がバラバラになる危険性を秘めているのだ。
なら精霊達に連れて行ってもらえばいいじゃないか、という考えも浮かぶのだが、にべもなく断られた。
曰く、『手前ェらを過剰に甘やかして、こっちに何か益があンのか?』『小僧の面倒もまとめて見てやっているのは、ユグドラシル様とリアン様のご心情を慮った上での、わらわたちの恩情じゃ。それをよぉく有り難がることじゃな』……だそうで。
まあ仕方ない。こっちも堕落するのはよくないからな。
……それはそれとして、【飛翔魔法】の地に足つかなさは一生慣れそうにない……。
「ウフフ、役得役得~」
……クリストファー様はこの状況を楽しんでるし……。
『ディランくん』
「うわなんですかシルフ」
びっくりした。急に話しかけるんだもんな。
『怖がることはありませんよ。空を自由に飛び回るのはこれ以上にない至福なのですから』
『ちゅん!』
……そりゃあ、風属性の大精霊と妖精はそうでしょうねえ……。
俺の気持ちを分かってくれるのは、飛行中一切喋らず、仮の姿のねずみ姿で俺のシャツの胸ポケットに収まっているノームくらいだよ……。
……まあ、こうしてノルディス手前までは送ってもらえる算段を了承してくれただけ、本当に有り難いんだよな。
普通に歩きと乗合馬車で行くと、ハイマー辺境領からノルディスまで、まっすぐ行っても2、30日は確実にかかる。
それが俺たちは【飛翔魔法】ショートカットでたった一日で、ノルディスの一つ手前の宿場町に宿泊出来る算段がつくんだから。感謝しかない。
……感謝しかない、んだが。
「ぅ……」
「ディラン、大丈夫?」
「……だい、じょうぶ……です……」
……やっぱり、酔ったんだよなぁ……。
宿場町近くの林の中に降りてもらった。のはいいんだが、降りて早々俺は地面に蹲ってしまった。
クリストファー様が俺の背中をさすってくれている。うぅ……、情けない……。
うぐぁ!? 頭の上に急に何か熱っぽいものが乗ってきた!
『おいおいおいおい小僧、しっかりしやがれってんだ! 空中を猛スピードでカッ飛んだ程度で音ェ上げやがって! そんなんで本当にリアン様を助けられるんだろうなァ? えぇ!?』
……人が飛行酔いと戦ってるときに、頭ぺちんぺちん叩いてきながら大声出しやがって……。
いくら四大精霊とはいえ、いくら高次存在とはいえさぁ……!!
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