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西の塔2
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グレイ騎士が雑巾を持って上がってくるまでに、埃でも払っとこうかな、とあたしは目線をベッドの方へ向けた。
……嘘だ。これは夢だ。
だってだって、窓から入る日差しの向こうに透き通った女が見える。
ベッドの上に立ってる格好でその透き通った女は、あたしを見た。
古ぼけたドレスを着ていて、胸元が赤茶色に染まっている。
カリナ様は服毒自殺をしたと聞いたので、あの胸のシミは……
俯いていた女が顔を上げて、あたしの方を見た。
青白い顔に、血で汚れた口元、がりがりに痩せて、豊かだっただろう黒髪は白くなってざんばらになってしまっている。
これが国王妃だったカリナ様の姿だろうか。
いくら療養中でも、こんなみすぼらしい姿になってたなんて。
カリナ様はあたしを見て、にこっと笑った。
いや、怖いからその笑顔……
さらにカリナ様は、(真理亜じゃーん! 久しぶりぃ)と片手を上げてあたしに言った。
軽っ!
「あの……カリナ様ですか? いや、果梨奈先輩?」
(あん? そうそう! 懐かしいねぇ)
幽霊のカリナ様はどすんとベッドの上に座ってあぐらをかいた。
「先輩!! なんでこんな所に!! あたし、仲間とずいぶん探したんですよ!! あのろくでなしと別れてから急にいなくなって!」
あたしも埃だらけのベッドにどすんと座った。
目の前に幽霊の果梨奈先輩がいた。
うっすらとしか見えないし、ドレスはぼろいし、顔も汚れてるし、痩せて貧相になってるし、でも、笑顔は果梨奈先輩だった。
「みんな、どんだけ心配したと思ってるんですかぁ!!」
(ごめんごめん……赤ちゃん、亡くしたじゃん? それで何もかも嫌になってね、知り合いのスナックとかで毎晩飲んだくれてて、でさ、気がついたらこの世界にいたの。死んだんじゃないかな。あんま覚えてないけど)
「先輩……」
(真理亜……ごめんね。あんたを巻き込むつもりはなかったのに、あんたまでこの世界に来ちゃったね)
「え? どういう意味ですか?」
(あたし、リベルタに殺されたんだよ)
「!」
がたっと音がした瞬間、果梨奈先輩の姿は消えた。
入り口にバケツを下げたグレイ騎士が立っていた。
「マリア様、どうかなされましたか?」
「いいえ」
あたしは先輩のベッドから立ち上がった。
「では何故泣いておられるのです」
「何でもありませんわ」
くっそ、こいつが来なかったら、もっと先輩と話せたのに!
あたしは袖で涙をぬぐって、
「さあ、お掃除してしまいましょうか」
と言った。
一刻も早く掃除して綺麗にして、果梨奈先輩ともっと話したい。
あれ? グレイ騎士には見えないのかな? そういう家系って言ってなかったっけ。
「マリア様! あなたはカリナ様と面識もないはず、何故、あの方の為に泣くのです」
「このような暗い場所で苦しい思いをなさっておられた前王妃様を偲んでいるだけですわ。お優しく気高い前王妃様……さぞや無念でしたでしょう」
そう言いながらあたしはグレイ騎士の方へ振り返っ……
果梨奈先輩がグレイ騎士の肩に顎を乗せて「生首ぃ」とか言ってる。
「ぶっ!!」
「マリア様?」
「い、いいえ、何でも。さ、お掃除しましょうか」
……嘘だ。これは夢だ。
だってだって、窓から入る日差しの向こうに透き通った女が見える。
ベッドの上に立ってる格好でその透き通った女は、あたしを見た。
古ぼけたドレスを着ていて、胸元が赤茶色に染まっている。
カリナ様は服毒自殺をしたと聞いたので、あの胸のシミは……
俯いていた女が顔を上げて、あたしの方を見た。
青白い顔に、血で汚れた口元、がりがりに痩せて、豊かだっただろう黒髪は白くなってざんばらになってしまっている。
これが国王妃だったカリナ様の姿だろうか。
いくら療養中でも、こんなみすぼらしい姿になってたなんて。
カリナ様はあたしを見て、にこっと笑った。
いや、怖いからその笑顔……
さらにカリナ様は、(真理亜じゃーん! 久しぶりぃ)と片手を上げてあたしに言った。
軽っ!
「あの……カリナ様ですか? いや、果梨奈先輩?」
(あん? そうそう! 懐かしいねぇ)
幽霊のカリナ様はどすんとベッドの上に座ってあぐらをかいた。
「先輩!! なんでこんな所に!! あたし、仲間とずいぶん探したんですよ!! あのろくでなしと別れてから急にいなくなって!」
あたしも埃だらけのベッドにどすんと座った。
目の前に幽霊の果梨奈先輩がいた。
うっすらとしか見えないし、ドレスはぼろいし、顔も汚れてるし、痩せて貧相になってるし、でも、笑顔は果梨奈先輩だった。
「みんな、どんだけ心配したと思ってるんですかぁ!!」
(ごめんごめん……赤ちゃん、亡くしたじゃん? それで何もかも嫌になってね、知り合いのスナックとかで毎晩飲んだくれてて、でさ、気がついたらこの世界にいたの。死んだんじゃないかな。あんま覚えてないけど)
「先輩……」
(真理亜……ごめんね。あんたを巻き込むつもりはなかったのに、あんたまでこの世界に来ちゃったね)
「え? どういう意味ですか?」
(あたし、リベルタに殺されたんだよ)
「!」
がたっと音がした瞬間、果梨奈先輩の姿は消えた。
入り口にバケツを下げたグレイ騎士が立っていた。
「マリア様、どうかなされましたか?」
「いいえ」
あたしは先輩のベッドから立ち上がった。
「では何故泣いておられるのです」
「何でもありませんわ」
くっそ、こいつが来なかったら、もっと先輩と話せたのに!
あたしは袖で涙をぬぐって、
「さあ、お掃除してしまいましょうか」
と言った。
一刻も早く掃除して綺麗にして、果梨奈先輩ともっと話したい。
あれ? グレイ騎士には見えないのかな? そういう家系って言ってなかったっけ。
「マリア様! あなたはカリナ様と面識もないはず、何故、あの方の為に泣くのです」
「このような暗い場所で苦しい思いをなさっておられた前王妃様を偲んでいるだけですわ。お優しく気高い前王妃様……さぞや無念でしたでしょう」
そう言いながらあたしはグレイ騎士の方へ振り返っ……
果梨奈先輩がグレイ騎士の肩に顎を乗せて「生首ぃ」とか言ってる。
「ぶっ!!」
「マリア様?」
「い、いいえ、何でも。さ、お掃除しましょうか」
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