流星物語

雪那 由多

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星屑物語 63

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 薄暗い王都の石畳の道は人であふれかえっていた。
 両側に並ぶ露店の明かりに普段よりも王都が眩く見え、そして城門から城壁の壁門までまっすぐ突き抜ける正面通りを馬車の通行を禁止しているせいか人がひしめき合っている。
 この日ばかりはこの正面通りは夕方から馬車が進入禁止となり普段馬車が通る道路には机も置かれてワインやエールを浴びるように飲む人達がそこらじゅうで笑いあっている。
 一応店の中でも食べれるのだけど、年に一度のトージ祭にわざわざ店の中で食べるもの好きは居ない。
 普段できない事なので机がなくても木箱に座ったり、樽を机に使ったりとある物はみんな利用してしまう様に道は陽気な声が響き渡っていた。
 そんな一角もあれば

「みて!この髪飾り可愛いと思いません?」
「ああ、シェリーよく似合ってる。店主、これを包んでくれ」
「ノア!ありがとう!」

 美しいレースとベルベットのリボンが複雑に絡み合って織り成す華のような髪飾りを包むのはやめてもらってそのままシェリーに髪に飾る。
 ステキと言う様にフィリーネがうっとりとその様子を見ていれば

「フィリーネ」

 婚約者のニールの呼ぶ声に振り向けば

「僕からはこちらをプレゼントだ」

 既に用意してあったと言うようにそっとポケットから取り出して襟元にコサージュを付けてくれた。
 レースとサテンの華やかなコサージュには小さい物の宝石と言うにはお粗末だが綺麗な石が付いていた。

「こ、このような素敵な物を!」

 顔を真っ赤にしてニールにコサージュを付けてもらう様子をアリアーネは不思議そうな顔で眺めていた。
 アクセサリーと言うにはルードからもらったブローチに比べたら比べようのない程度の物。だけど二人ともそれ以上に喜んでいる。
 一体これはどう言う事だろうかと思えば

「やっぱりアリーは知らなかったようだね?」

 クスリと笑いながら雑踏の人込みを誰にもぶつからない様にエスコートしてくれる旦那様を見上げれば

「トージ祭はね、手作りの物を贈ると仲が深まって過ごせるって言う逸話があるんだよ」
「逸話ですか?」

 それはどう言った商戦だと聞けば

「まぁ、この露店を見てもらえばわかるだろうけどどれもが店を持つようなレベルじゃない」

 エルの言葉にアリーも思わずと言う様に頷くも、周囲のどこか突き刺さるような視線に思わず違うと言う様に頭を横に振る。
 その頭をエルは大丈夫だからと撫でるようにして落ち着かせてやりながら

「これは開国当時の話しにまでさかのぼる。
 当時貧困に喘いでいたこの国ではおしゃれをするのも難しかったんだ。
 美しく着飾れるのは本当にほんのわずか。靴を用立てる事さえ難しかったんだ。
 だけど誰だって綺麗に飾りたい、綺麗に着飾った愛する人の笑顔が見たいって思うだろ?
 だから男達はほんのわずかな布でこうやって髪飾りやコサージュを作って愛を囁いたと言うのがこのトージ祭の贈り物の習慣になっている」
「開国当時の貧困の話はそれは酷い物だと聞いてましたが、その中でのこう言った逸話は知りませんでした」
「案外今日の日の為にあえて教えなかったんじゃないかな?
 だってルードは知っていただろ?」

 出かける前にろくに顔を合わせた事もないのにみんなにもお揃いでプレゼントしてくれたブローチやピンバッチを思い出して複雑な顔をすれば

「みんなアリーに先入観なしに楽しんでもらいたかったんだよ」
「それならいいのですけどね」

 どう考えてもそれをネタに楽しんでいると言う事しか想像できなくってこっそりコノヤロウと握り拳を作ってしまう。

「今では店を持てない人達が何時か店を持つ為にとか、こう言った飾り物を作る人が子育ての合間にとか、見習いのお針子さん達の小遣い稼ぎじゃないけど空いた時間で作ってみたりとかそう言った楽しみの中で作られる事が大きくなって、男性はその中から女性にプレゼントすると言う風に裕福になるにつれて変わってしまったけど、でも喜んでもらえるのなら嬉しいじゃないか」
「そうですね」
「だから、俺からは髪飾りのプレゼントだ」

 言いながら柔らかな花の髪飾りを見せてくれた。
 
「ひょっとしてエル様が作られたのですか?」

 お針子さん達が作るには縫い目が見えたりする所から想像を付ければ

「アリーの初めてのトージ祭だから学友と一緒に作ったんだ。
 なにぶん侯爵家の二男としてはこう言うのは関係ないと思ってたけど、学友の母君に作り方を教えてもらいながらの苦戦の作だ」

 苦笑いするエル様の心遣いに危うく髪飾りを握りしめてしまうほど感動してしまう所だったがその前にエル様が髪飾りを救出して

「後ろ向いて」

 言われるままにエル様の優しさと緊張にぎこちない動きで背中を向ければエル様の手がそっと髪に触れ、肩にかかる一房をそっと直してくれた。
 一つに結い上げられた髪には縁に金の刺繍が施された淡いピンク色のリボンが付いているだけ。
 マリエルが言うにはこれぐらいが下級貴族のお嬢様がせい一杯背伸びをしておしゃれをしている程度だと言ったが、寧ろこの髪飾りを知っての組み合わせではなかろうかと思うくらいに少し大きめな髪飾りとバランスがあっていた。

「うん。良く似あってる」
「あ、ありがとう、ございます」

 ほっとするかのようなエル様にアリーは柄にもなく恥ずかしくなって俯いてしまう。今顔を上げたら真っ赤なのだろう顔は隠してみるも既に耳まで赤くなってしまったアリーを愛しむ様にエルが見ているなんて気づかないくらいいっぱいいっぱいで。
 そんなアリーの手をエルは繋ぐ。

「そろそろ皆と距離が開いてしまったから行こうか」

 ゆっくりと手を引かれれば素直について行ってしまうアリーはただただ繋がる手を見つめていた。

 ファウエルの大きな手。
 剣を握る癖のある手。
 柔らかくもない硬い働き者の手。
 暖かで守られてると言う安らぎを与えてくれる手。

 まるで父のような手だと思うも父ではない手から視線が外せない。
 手から次第に視線を上げれば一歩先を進む顔が見える。
 顔を見てまたなんて言えばいいか判らないようなもどかしい感情が再び顔を俯かせてやっと気が付いた。
 たぶんきっとこの今の気持ちをそう言うのだろう。

 私エル様の事が好き、なんだ……

 勉強や剣、魔法はたくさん教えてもらい学んできたけどこう言った事なんて誰も教えてくれなくて。
 今更ながら理解できた気持ちの抑え方何て手が付けようがないし対応何て判らない。
 
「アリー、込んできたから失礼するよ」

 繋がる手では人ごみの中では離れそうになるからかとエル様は私の腰に手を回して

「これなら離れない」

 露店のランプに照らされて微笑むエル様に思わずと見とれてしまえば不意に影が落ちた。

 何度か瞬きしながらこんな周りに人がたくさんいる街中で……と次第に理解してリンゴのように真っ赤になって行く私を照れながら見つめるエル様とあのパーティよりも近づいてしまった距離にもうこのトージ祭を楽しむ余裕なんてどこにもなくって、少ししてみんなと合流したけどエル様が人ごみに酔ったから先に失礼するよ、ヒューリーに後を頼むと一足先に帰る事にしたけど、家に帰っても誰も迎えに来なく屋敷の中はみんなもトージ祭に出かけたのかしんと静まり返っていた。
 その静まり返った屋敷の中で今日はもう休もうとベットルームへと向かう。
 エル様の手はいまだ腰に回り、寄りそう体温はこの冷たい空気の中どこまでも温かい。
 離れたくない、そんな思いがいつの間にかエル様の上着を握りしめていて部屋の扉を閉ざした途端エル様と視線が重なり、さっき触れたように重なった熱よりももっと深く重なり合って……



 軽くひかれた腕が導くままに胸の中に飛び込み、後は身をゆだねるだけと言えばそれまでなのだが、この気持ちが確かな物だと確認するには十分な痛みを甘さに変る濃厚な二人だけの初めての時間を過ごすのだった。








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