流星物語

雪那 由多

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星屑物語 66

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 名前を呼ばれて社交会場へと足を踏み出す。
 最後に呼ばれた私達は既に皆さん和気藹々と歓談を深めていて注目する数も少ない物の

「アリー、今日も素敵なドレスです!」
「お揃いの指輪何て羨ましいです!」
「ここで待っていて正解でしたね」
 
 真っ先にフェリーネとシェリーとレーシャが文字通り駆け寄ってきてくれた。エル様と一緒だから大丈夫と言うおまじないとこんな風に駆け寄ってくれる友達の優しさに感涙としそうになる。
 さらには追いかけてくるようにすぐ側には彼女達の婚約者と

「兄上、父上もお待ちしております」
「ラウイありがとう。父上は?」
「あちらの雛壇の方です」

 指が指し示す方にはひときわ大きな輪が出来ていて、そこには見知った顔ぶれが並んでいた。

「そうか。まずは挨拶に伺わないといけないんだな」
「良かったら一緒について行くだけでもついて行かせてくれ。
 話しをしたいとか混ぜてほしいとかではなく、ただ一緒に背後にいるだけでいいんだ」

 まだ名を売るには実力不足、だけど顔ぐらいは覚えていて欲しいと背景でいいから一緒に居たいと言った所だろう。

「良ければ周囲の方達からの壁と思って私達を使ってもらって構わないよ」

 レーシャの言う所では取りまきと言うのだろうか。
 確かに家格の関係から言えば侍女を連れて入城する事の叶わないこの場で彼女達は友人と言う関係から自らその役を買うと言ってきてくれているのだ。

「ですが、皆様宜しいのでしょうか?」

 本日は公爵モードなので美しい象牙の扇子で口元を隠して少し心配げに目を伏せて伺えばノア辺りが驚きにあからさまに目を見開いて驚いて見せるも直ぐになんでもないと言う様に焦って違うと言い

「普段のアリーと違うから驚いたと言うか……」
「そうなると普段みたいにアリーって呼ぶよりアリアーネ様って呼ぶのが無難だろう。もちろん俺達はグレゴール様だな。
 意識の切り替えの為にもそう呼ぼう」

 ノアのフォローではないがニールの提案にはファウエルも賛成をする。やはり家族でもないのに他所の男に妻の名前を呼ばれると言うのはいささか気分がよくないが、俺がまだ芽生えてない感情の時に交わされた許しなのだから、俺が文句を言うのも筋違いだ。

「ここからは上げ足取りの世界だ。
 誰もが家格の上の家に取り入れてもらおうと躍起になる。
 言葉の端端まで注意を促しながら発言をする、もしくは何も話さない、笑顔で誤魔化すのが一番の対処法だ」

 ファウエルの注意になるほどと全員小さく頷いた後父の待つこの会場のいくつかある大きな輪の一つへと足を運ぶのだった。

 が

「やあアリー、議会のデビューおめでとう!」

 行く手を塞ぐようにブランク法務大臣が大きな輪を引き攣れるようにしてやってきた。

「あら、ブランクの叔父様ごきげんよう。皆様もごきげんよう」

 背後からヒッと言う悲鳴の声が聞こえるくらいの有名人に向かって平然と叔父様と呼ぶアリーの大胆さにどうした物かと思うも

「こうやってファウエル君を連れ立っているのを見るとアリーも立派に大人になった物だと思うよ」
「叔父様ったら、本音ではまだまだ子供だなって思っている癖に」
「それを言わないから大人なんだよ」

 茶目っ気たっぷりにウインクをしてから笑う城では絶対見せないブランク法務大臣の姿にその背後にいるブライトナー侯爵、ヒークス侯爵、ザックス侯爵ヒークス侯爵、ミハイロフ伯爵当主達は年寄りがやってもかわいくないぞとヤジを飛ばしている。
 そしてアリーの友人同様眩暈を起こしたくなるような名前と格式のある方達が同じように背景となって無言でこのやり取りを見守っていた。
 ああ、いつかの食事会の悪夢がパワーアップをした……と思いながらふと視線を父の方へと向けてしまえば、真っ青な顔をしてこっちに連れて来るなと口パクをしているものの

「そう言えばアリー、ファウエル君の父君にご挨拶は?」
「まだですね。今着いたばかりなのでご挨拶に伺おうとした所ですが……」
「なになに、我々の方に来させればいい。
 アリーはもう筆頭公爵なのだからもっと優雅に待ち構えていればいいんだよ」

 その会話にファウエルは父の方に視線を向けて「挨拶に来てください」と口パク。
 親と妻と言う関係とは言え筆頭公爵がたかだか侯爵に出向いて挨拶何て騒動の元だからと早く来てくれと願う前に父は周囲の方達に何やらにこやかに挨拶をして輪の中心にいたのにもかかわらず輪の中から出て来てくれた。
 良かったとほっとする間にも

「皆様ごきげんよう、本日の議会は盛り上がりましたな」

 そうアプローチをとって

「アリーも議会のデビューおめでとう。
 なかなか普段見ない光景だから新鮮だっただろう」

 グラスを片手にシャンパンを揺らしながらやってきた父の顔は何処か引き攣っている。
 だけどアリーはそんな事気に留める事もなく

「あんなにもタバコで煙るなんて想像してませんでした。
 何か燻されてスモークされた気分です」
「ははは、それもまた洗礼」
「いや、陛下も煙たがっていたからいっその事煙草を禁止にするのも一つの議題かも知れないぞ?」
「いやいや、煙草がないと集中力が」
「吸わない儂から言わせてもらうとあんなもの必要ない、ないと集中できないような軟弱な集中力なら鍛え直してやる」
「ヒークスよ、それは勘弁してくれ」

 はははと笑う重鎮達に周囲はちらちらとこちらを注視している。
 これだけの人物の輪の中にアリーみたいなこの冬社交界にデビューしたばかりの女の子が中心にいるのだ。気にならないわけがないというものだ。

「そうそう、妻が先日のトージ祭の時のドレスは魔物の返り血で染まってしまっただろうからと新しいドレスをプレゼントしたいと言ってな、近くお針子達が行くと思うから少し付き合ってくれ」
「まあ!それは楽しみです!」

 顔の前で両手を合わせて嬉しいと言わんばかりに頬を染めて笑う様は王都生まれの王都育ちの令嬢そのものの姿。
 俺はアリーに向かって良かったねと言いながらも俺もドレスを贈らないといけないのか?と腰に手を回して仲の良い夫婦をアピールしながら今着ているアリーのドレスが幾ら位なのかと内心焦りながら計算をしていたものの傍らに立つ父がそっと俺だけに耳打ち、「それぐらい気にするな」と……
 甲斐性がなくて済みませんと心の中で頭を下げるもしょうがない。これが兄が家を継いだら一人独立して自分の力で自分を養わなくてはいけない二男の立場と資本力なのだ。セルグラードの家の財は総て継承していく兄に与えられる物。それでも俺は親の立場を利用して魔導騎士団に入れるくらいの環境を整えてもらえたのだ。十分なはずなのに、背丈に合わない家に嫁ぐと苦労するのは何も女性だけに限った話ではないと言う所だ。

「さあ、そろそろ陛下もお目見えだ。
 背後のアリーのお友達かな?よかったらこれからもアリーの世話を頼むよ」

 そう言って背中を向けて玉座付近へと足を運ぶ。
 ブランク侯爵もアリーの友達についておいでと目配せしながら立ち位置もあるんだよと言う様に案内して陛下の一番近い場所へと向かって足を止める。友人一度は動転している姿が年寄りには可愛らしく映ったようでからかうかのように何やら話しかけていた。かんべんしてくれ……
 既に待機している近衛兵達のお前も大変だなと言う失笑には目礼だけをして置いて

 この日一番の歓声が沸く中陛下は王妃と王子二人を連れて玉座に並び高らかな声で本日の夜会の開催宣言をするのだった。

 

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みんなの感想(13件)

エルモ
2021.09.09 エルモ

きっと、いつかは続きを書いてくださると、信じています…(*_ _)人

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真義あさひ
2021.01.07 真義あさひ

こちらのシリーズをうちの隊長〜より先に拝見していたので、再びこちらに戻ってきて登場したルードの正体に気づいて大爆笑しました笑
ヴォーグ大好きだったので、無双してる若いルードにほっこりです。

アリーたちの物語、続き楽しみにしております。

雪那 由多
2021.01.07 雪那 由多

真義咲慧様
感想ありがとうございます。
十代のヴォーグがやりたい放題しております。
自重もせず伸び伸びとしている様子をお楽しみください!
まだまだ色々しでかす予定なのでヴォーグロス(?)のおりには覗いてみてください。
楽しんでいただけてありがとうございました。

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タチアオイ
2020.05.13 タチアオイ

やっとエルとアリーが心身ともに結ばれて、エルの心情も聞けて(相変わらずルードに嫉妬でおいしい)一歩進みましたね。
アリーはまだまだ初心漂わせてますが、これからもっとラブラブになるのか楽しみ。

ルード、ラグナーさん居るけど据え膳は食う派です?(時系列がわかってなくてすみません)

雪那 由多
2020.05.14 雪那 由多

タチアオイ様

感想ありがとうございます。
やっとアリーが自覚してくれてエルが努力(忍耐?)が報われました。
それでもルードへの嫉妬(エルの思い込み)は暫く収まらないようなので生暖かい目で見守ってください。
アリーは恋愛初心者なので暫くエルを楽しませてくれるはずです!

ラグナーと出会った時のルードは25歳でして、今は17歳でいろいろ興味津々のお年頃です(笑)
据え膳はちゃんと頂く派ですが、どちらかというとナタリーさん(22歳)に頂かれる派です(哀)
そしてナタリーとアリーによって知らない所で悪い虫は駆除されているのでそれなりにモテていると言う事実をしりません。
ありがとうございました。

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