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うちの隊長は豪華さのあまり食べ物を零したらどうしようと考えながらもしっかりと食べてます

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 天藍の間は豪奢な最上級の客室の一つだった。
 公爵家以上に割り振りあてられる区画にあり部屋の前には騎士団が常に警護に当たっている騎士団にいた時でも近寄らせてもらえないくらい警護の硬い場所で当然通りかかったら空いていたからお借りしますなんて事が許されない区画だ。
 ちなみに天藍の間は大公が使う為の部屋。
 四家しかない公爵家とたった一つの大公家。
 そもそもこの通路には五つしか部屋はなく、この通路に入る入り口にも当然ながら警護が立っている。
 長い事使われなかった天藍の間を使うと言う事前の宣言に最奥の突き当たりの部屋の前には騎士団の他に宮廷騎士までたっている始末。
 こんなにも警備は必要かぁ?と思いつつも無かったらなかったでも問題だなとなんとなく過剰な警備に心の中で失笑していた。

 真っ白な室内に黄金の装飾、そしてカーペットやソファと言った備品が深い青の大公色。
 天藍と言う色から成り立つこの部屋は歴代が女主人だった為にどこか柔らかな印象の強い部屋となっていた。
 中央に置かれた机を囲むようにソファが並べられ、それでは足りない為に窓際にもテーブルが設置されていた。
 それでも狭さを感じる事のない室内はどれだけ広いんだと呆れる所だが、それでも全員が椅子に着いているあたりじゅうぶんだと思うことにした。
 ホルガー達が大層居心地悪そうにそわそわとしているのはあまりにも眩いばかりに豪華すぎる室内のインテリアが原因で、俺達はサーブされるシャンパンや軽食を頂いて時間を潰している。
 今夜のパーティの入場は既に始まっている。
 既にホルガー達この部屋にいる面々は入場した後になっているが俺はヴォーグの入場に合わせている為に一応まだだけど、こちらで待ち合わせと言う事で宮廷騎士の式典用の華やかな服を着て待機している。
 むっつりとしたホルガーをほかって置いてマイヤ達と昼間の事を話ししたり、暫く会っていなかったお互いの状況を説明したりやたらと絡んでくるユハの話しを聞いたりとそれなりに時間を過ごしていれば

「お待たせ。みんなまだ揃って……ないか。
 さすがにリオネルはすぐにこれないか」

 俺達が出入りした扉とは違う扉からヴォーグがやってきた。
 見た事も無い、どこかあの時の戦闘服にも似たぞろぞろとした服装だった。
 だけど動けば光沢がうねり、品の良い黒の刺繍がシックに施され、幅の広いベルトに美しい宝石をこんな風に使うのかと思わず見惚れてしまう。
 今回はアルホルンの徽章ではなくバックストロムの剣の徽章と大公殿下という身分を表すサッシュをかけていた。
 後ろに黙って従う老齢と言うには早いがハイラほどの年齢の人がすぐ後ろで何や大切に箱を抱えながら近くの侍女達に指示を出していた。
 あまり見ない顔だな?と思っていれば

「彼はヴェナブルズの家令のワイズだ。
 俺付きの執事は一年ほど前に解雇してしまったから見ての通りの歳なのに苦労させている。
 ワイズ、紹介は今更かも知れないが彼がラグナーだ。
 何かあった時はラグナーを守れ」
「承りました。
 ラグナー様初めまして、ヴェナブルズ家の家令を務めさせていただきますルース・ワイズです。どうぞワイズとお呼びください」

 慇懃に頭を下げるように見えるのは長年公爵家に務めた結果の貫録だろう。
 ハイラにも似たような感じだが、ハイラよりももっと纏う空気は真面目だ。
 
「ラグナーです。よろしくお願いします」

 最初なので丁寧にあいさつをすればワイズさんは首を横に振って

「使用人にそのような挨拶は不要です。今後はヴェナブルズ家の者にも不要でお願いいたします」
「はあ……」

 既にヴェナブルズの家の者としての教育でも始まったかと思うも

「所で旦那様、いつヴェナブルズの屋敷にラグナー様をお招きしてくれるのです?
 てっきり昨夜の内にお連れになっていただけるものだと思って一同首を長くして待ってましたが?」
「えー……
 役所に届けたのは夕方なのに、その情報何所から集めたんだよ……」

 いくらなんでも早すぎるのではと言う目でワイズを見る視線に

「それはアヴェリオからです。
 ラグナー様がアルホルンに向かうので何があっても良いように準備をするようにとの指示が届きましたので」
「むしろその何があっても良いようにの中味が気になるな」

 あいつの仕業かと唸っていれば廊下の外が賑やかになった。
 騒がしいと言うか、テンションの高い声がどんどん近づいてきてノックの後に開いた扉から

「たいちょー!
 ああ、今日も麗しいお顔です!
 そのゴミを見るような目が溜まりません!」
「たいちょう!
 ああ、既にいい感じに仕上がっていて、ヴォーグ相変らずいい仕事するわね!!!」

 テンション高い声のコンビはおなじみランダーとイリスティーナ。
 そしてその後ろに頭の痛そうなアレクと……

「元団とリオネルだ」
「まぁ、こんなもんだろう」
「じゃなくって元団はやめろと何度言ったらわかるんだ」
「いや、すっかり俺の中じゃ定着してしまいまして」
「元団良いね。
 フレッド、今じゃラグナーもお前が仕える相手だ。
 それぐらいで一々小言を言うな」
「……ハイ」

 物凄く不満そうな返事に誰もがそっと顔を背けて笑ってしまうも

「それよりワイズ、時間がないからリオネルをそれに着替えさせろ」

 ワイズがずっと抱えている箱はどうやら服が入っているらしい。
 
「この服では失礼でしたか?」

 ドレスコードを守り、マリーに着飾らせてもらったのだろうが

「お前はデビューがまだだったはずだ。 
 ここで国王に顔を売りに行く」
「へー、やっぱり店長さんお貴族様だったんだ」

 テレサがケーキを頬張りながらの質問にそうだよと返事をして

「お前をデビューさせないと主の沽券に係わる。
 俺がどうこう言われるのは好きにしろだが、今はラグナーもいる。
 ラグナーに矛先が向けられるのは嫌だから」

 リオネルは自分のデビューの事を気にしてくれた事に一瞬喜びを浮かべるもそれは俺が理由だという一言でその瞳が揺らいでいた。

「それにお前には今後いろいろ手伝ってほしいからな。
 ある程度の環境は整えないといけない」

 浮かれずに覚悟しろと言うヴォーグの言葉を最後にワイズは侍女に着替えるのを手伝わせに行かせた。

「で、次に俺だ」

 その一言と共にぶわりと室内中が森の匂いに包まれた。
 初めて見る者、二度目となる者、幼い頃から見守って来た者。
 驚きに動けずにいる者を他所に次の支度に取り掛かる者はまるで何事も無かったかのように問題を前にする。

「ランダーさん、イリスティーナさん、前に行ってた事間に受けまして申し訳ありませんがこの頭どうにかしてください」
「え?ええと?」
「その為に呼ばれたとか?」

 ハイと頷くのはこの髪のややこしさを知るワイズとフレッド。
 
「とりあえず向こうにいた時に使ってた髪止めとかいろいろあるので時間はあまりないのですが何とかしてもらえますか?」
「あとからしっかり報酬は貰うからね?」

 この頭を何とかってどうするんだというも既にスタイリストモードに突入しているランダーはやっぱりヴォーグの事を今も新人の補佐官ぐらいにしか見ていないぐらいに適当な扱いにイリスティーナも本当にそれで良いのランダー?と言わんばかりに溜息を零して付き合う事にしてくれた。

 





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