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3章 結婚式

最悪な出会い

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「互いに生涯愛し合い、良き夫婦となることを誓いますか?」
「「誓います。」」

 誓いを終えると、チラリとレオ様の方を見ます。その姿は凛々しくて、まさに王族。自分がウェディングドレスを着ていることもあまり実感が湧きません。




 レオ様ことレオナルド・グレシアナ王太子殿下との出会いは十年ほど昔のことです。第一印象は本当に、本当に最悪でした。

「こんな平民が僕の婚約者なのか!?ありえないぞ、卑しい人間は帰れ!!」

 小さな村から突然連れ出され、慣れないことだらけの生活を強いられて、一週間馬車に揺られてやって来た王宮。そうして引き合わされた、将来結婚するという相手の第一声ば暴言でした。
 神々しさを感じる金の髪と海のように深い青色の瞳。身に纏うのは全てが王室御用達であろう、一流の品々。見目だけはまさに絵本に出てくる王子様そのもの。

 だというのに、です。



 目の前にいる同い年の少年は、王子様どころか村の男の子達より意地汚く、わがままな存在に思えました。そしてこんな人と結婚しなければいけないのか、と幼いながらにとてもショックを受けたのを覚えています。

 わがまま放題な王太子を見て、この国の未来を憂いている大人たちはたくさんいました。今の彼と比べると信じられないですよね。

 劇的な環境の変化を飲み込めないまま、私は様々な肩書きが追加されていきました。

「聖女」
「王太子の婚約者」
「次期王妃」
「教皇の養女」

 と、一介の平民として生きていた時からは想像もできないほど、重々しいものを背負うことになってしまったのです。



 そして始まったのは淑女教育や妃教育という名の拷問に近い日々でした。

 まず言葉遣いから矯正され、教師の方からは期待や何やらが入り交じった無言の圧力をかけられながら、机に縛り付けられました。今まで過ごした十年を全て否定されるような貴族のしきたりは当時の私にとって複雑難解厳格なもの。お辞儀の角度が僅かにズレていただけでもため息をつかれ、私は心身ともに疲れきっていました。

 それでも辞めなかったのは、村の皆の期待に応えるためです。

 私の生まれ育った村は、数年に一度は洪水に襲われていました。とても暮らしは裕福とは言えず、皆で必死に日々の生活を守るような、そんな村でした。領主様と呼ばれていた方は真剣に取り合ってはくれず、状況は悪化するばかり。そんな中、私が聖女として王都に連れていかれました。

 聖女を育てた村には報奨金が渡されました。しかし、結果としては少しだけ洪水でやって来る水の量が減っただけ。
 父が水に呑まれて亡くなったのは、聖女になって一年もしない時でした。


 そして決意したのです、力をつけて必ずや村を救ってみせると。
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