私、女王にならなくてもいいの？

11.動き出す時間

「あの令嬢はどうなるんですか？」

王族用の控室に入った後、痛む足の手当てをされ、
バルコニーのソファに座らされていた。
温かいお茶で一息ついてほっとしたけど、先ほどの騒ぎが心に残っていた。

「反省するまで牢で過してもらって、辺境に帰ってもらうよ。
　ああ、もう2度と辺境から出ないように制約はつけるけど。」

「身ごもっているのに牢に入れて大丈夫ですか？」

「貴族牢だからね。
　外に出れないだけで、客室にいるのとたいして変わらないよ。」

「そうですか…。」

それなら大丈夫かしら。さすがにお腹の子が心配で、聞いてしまった。


「優しいね。あんな嘘つくような令嬢に。」

「…どうして、あんな嘘をつくんでしょう？」

「ルヴィは知らないだろうが、ああいう令嬢は多いよ。
　むこうにいる時にも、あの手の令嬢を排除するのにとても苦労した。」

「排除？相手はしないの？」

「…ルヴィ。俺はそういうことはしないよ。」

そんな悲しい顔されても、叔父様は大人の男性で。そういうこともあるでしょう？
子ども相手だと思っているのかもしれないけど、誤魔化されるのだけは嫌だった。

「ああいう令嬢はほとんど俺のところに来る前に、
　部下たちが排除してくれるんだけど、
　あの令嬢は一応は辺境伯令嬢という身分があるだろう？
　貴族じゃない部下たちには扱いにくかった。
　それで2年前、警備をすりぬけて、俺の部屋に夜着姿で忍び込んできたんだ。」

男性の私室に夜着姿で！？
それは自分の身をどうされても文句は言えない。
あれ？それが目的で忍び込んできたってことかしら？

「もちろん、俺は中に入らず、部下たちに辺境伯を呼びに行かせた。
　その間、逃げる場所を探して、祈りの塔に入った。
　あそこなら王族しか入れないから。」

祈りの塔は、ここ王宮に1つ。東西の辺境地に１つずつある。
叔父様が入ったのは東の祈りの塔だろう。

「そのまま仮眠していたら、朝になって起こされた。
　ルヴィの声がしたんだ。」

「え？」

「俺がいない間、ずっと祈りの塔で祈ってたんだろう？早朝の時間に。
　祈りの塔の声は、東西の塔に届き、力を発揮するんだ。」

「…聞こえてた？」

「うん、それから毎朝、行ける時は塔に行って、ルヴィの声を聞いていた。」

あれを聞かれていた？心の中で祈っていたことを？？
気が付いて、顔に熱が集まる。絶対に真っ赤になってるはず。
叔父様に見られないように、顔をそむけた。

「俺はお前に嫌われたんだと思ってた。
　5年前、急に避けられるようになって、話も出来なくて。
　そのまま王宮にいるのも辛くなって、戦争に逃げた。」

私が避けていたせいで戦争に行ったっていうの？
でも、確かに王弟が辺境地まで戦争に行く理由なんて、無い？

「…私のせい？」

「そうじゃない。
　あのまま側にいたら16歳になる前に、
　俺が我慢できずにルヴィを襲っていたかもしれない。」

「え？」

「そういう気持ちが知られて、気持ち悪がられても仕方ない、そう思った。
　だけど、祈りの声が聞こえて、
　もしかしたら嫌われていないのかもしれないと思い直した。
　ルヴィはいつも最後に、ジルが無事に帰ってきますように、って。」

…やっぱり聞かれてた。
恥ずかしくて、もう顔を合わせたくない。

「ルヴィ、まだ急がない。ゆっくりでいい。
　でも、嫌われてない、そう思っていいんだろう？」

仕方なくうなずいた。その瞬間に後ろから抱きしめられた。
昔みたいに、すっぽりと包みこまれて、変わらないジルの匂いがした。

「ありがとう。ルヴィが落ち着くまで、このままでいようか。」

このままでいたら真っ赤になった顔は、
ちっとも落ち着かないんじゃないかと思ったけど、
久しぶりのジルの腕の中は暖かくて振りほどけなかった。