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聖女の世界

10.一花

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ようやく一花に会いに行けたのは、律と会ってから四日後だった。
思ったよりも疲れていた気持ちは、キリルが一緒にいてもなかなか戻らなかった。

それでも、律ほどじゃないにしても一花も周りを困らせていると聞いている。
早く私から説明して、一花の心配は無駄だとあきらめさせる必要があった。


「そんなに気をつかわなくても、隊員たちも仕事だから、
 女性が一人騒いでいるくらいでは何ともないよ?」

「うん…そうだけど、私が気になるの。
 嫌なことはさっさと終わらせておきたいし。」

「あぁ、まぁ、それはそうかも。
 嫌なことはさっさと終わらせるか…そうだな。
 よし、終わったら、またのんびりしよう。
 あとちょっとだけ、頑張れるな?」

「うん、頑張る。」

それでもまだ心配そうな顔しているキリルに手をつながれたまま歩く。
会ったばかりの時はキリルの腕に軽く手を乗せるだけのエスコートだったのに、
一緒にいることに慣れた今ではこうして手をつないで歩くようになっていた。

何しろ、キリルとは寝る時まで一緒なのだから。
手をつなぐくらいでは動揺しなくなってしまった。

目が覚めた最初の日、キリルに同じベッドで寝ると言われた時は焦ったし、
どうしようか迷った結果断ってしまった。
キリルは私が断るのも想定していたようですんなり納得してくれた。
だけど、それじゃ違うベッドで寝るねと言われてキリルが離れた瞬間、
言いようのない不安に襲われた。

まるで誰もいない場所に一人で置いていかれるような気分に、
はらはらと涙が止まらなかった。

キリルが私の異常に気が付いてベッドに戻ってきてくれたけれど、
どう説明していいかわからなくて、でもキリルの手を離せなくて。
最終的には泣き疲れてそのまま一緒に眠ったようだった。

朝起きた時に隣にキリルが寝ていることに驚いたけれど、
同時にものすごく安心してしまって、もう一度眠りについた。

それからというもの、ほとんどの時間を手をつないで過ごしている。



ふかふかの絨毯や森の小道は歩きにくく、抱き上げようかと聞かれる。
身体の調子がまだ良くない私をあまり歩かせたくないようだ。
たしかに、手をつないでいても転びそうになっているのだから、
心配してくれていると思うと文句は言えない。
何度も大丈夫だと伝えて、ようやく王宮へとたどり着いた。

一花のいるエリアは王宮内でも豪華に造られているようで、
律がいた貴族牢のあたりとは全く違って見えた。


「ここだよ。」

「なんだかホテルの部屋みたいだね。」

「王宮の客室だから、普通は他国の大使とか王族とかが使う部屋だ。」

「うわ。それじゃ…豪華なのも当たり前だよね。」


中に入ると、奥のソファに一花が座らされていた。両脇に隊員が二人いる。
立ち上がろうとした一花は、両肩を押さえられて、もう一度座った。
苦しそうな表情をした後、私を見て驚いた顔になる。


「悠里!その髪と目はどうしたの!?まさか何か変なことされた!?」


さすがにおしゃれ女子の一花は私の外見の変化に気が付いたようだ。
一花を見ると赤のワンピースを着ていて、黒髪と赤い唇…
その可憐な様子は白雪姫のように見える。
少し疲れた顔をしているが、可愛らしさは相変わらずだ。


「久しぶりだね、一花。ここの暮らしはどう?」

「綺麗な部屋だし、悪くないけど…悠里がいなくてさみしかった。
 でも、もう大丈夫なんだよね?早く帰ろう?」

ぱぁぁっと笑顔に変わる一花に苦笑いしてしまう。
この子はどのくらい状況を把握しているんだろう。

「一花、ここは地球じゃないの。違う世界、異世界なの。」

「何言ってるの?悠里、誰かに騙されたの?
 ほら、やっぱり私たちがいないと悠里はすぐにダメになっちゃうんだから。」

呆れたように決めつけ私を責める一花に悪気が無いのはわかっている。
だけど…一花は私の気持ちを考えてくれない。
イライラするのをおさえ、自分を落ち着かせるように説明を続ける。


「律と一花は私に付いてきちゃっただけ。
 ここは私が生まれるはずだった世界なんだよ。
 二人とは違って、私はこの世界の住人なの。
 その証拠に、この髪はウィッグじゃないし、目もカラコンじゃないの。
 これがこの世界での私の身体。」

「…何言ってるの?そんなわけないじゃない。」


きょとんとした顔で首をかしげてる一花は、
どうやらここが異世界だってことに全く気が付いていない。
ここに来てからもう二週間近くになる。
少しくらい違和感を持ってもおかしくないと思うけど、
誰からも情報を与えられていなかったのかもしれない。


「一花は気が付かなかったみたいだけど、
 ここが異世界なのは事実だよ。
 この部屋は王宮の客室なんだって…王族とか泊まるんだって。

 あの世界とは何もかも違うんだよ。
 私は、律と一花とは違う世界の住人なんだ。
 だから、もう一緒にいることはできない。」

「嫌よ!何よ、それ。
 悠里が異世界人だっていうなら、それで構わないわ。
 この世界で三人一緒になればいいじゃない。」

また涙目で三人一緒だと訴えてくる一花は予想通りではあったけれど、
その先の言葉は予想外だった。

「…そうよ、ここ日本じゃないんでしょ。
 だったら、私たち三人で結婚できるじゃない。
 良かった!これで問題なく一緒に居られるね!」

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