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聖女の世界

15.本当の姿

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「お茶飲んだらちょっと見て欲しいものがあるんだ。」

「ん?見て欲しいもの?」

食後のお茶を飲み終わってソファでまったりしていた私を、
キリルが両手を取って立ち上がらせる。

どこに行くのかと思っていたら、浴室の脱衣所の奥に扉があった。
その扉を開けると中は思ったよりも広く、壁際にたくさんの服がかけられている。

「ここは?」

「ここは衣裳部屋。
 いつもここからユウリの服を選んでいるんだけど、
 見て欲しいのは服じゃない。」

衣裳部屋の窓際に大きな鏡が立てかけられていた。
壁に立てかける鏡としては大きすぎるんじゃないかと思うけど、
ドレス着て全身を見るのにはこれくらい必要なのかもしれない。
縦横2mずつくらいありそう。

ここで服を着替えた時に見るんだろうけど、
わざわざ私を鏡にの前に連れてきたのはどうしてなのかな。

「ユウリ、自分の姿を確認してくれる?」

「あ。色が変わっているんだよね。髪と目の。
 そういえば確認してなかった。」

神の住処で身体を作り変えてもらったけれど、
それから一度も自分の姿を確認していなかった。

前の自分の身体にも思い入れはなかったし、
必要が無いのに鏡を見るような習慣もなかった。
自分の身体が変化したのはわかっていたけど、
そこまで変わらないと言われたのもあってあまり興味を持てなかった。

何の取り柄もない顔、どこにでもいるような女の子。
平均と変わらない身長に、長くも短くもない手足。それが、私だ。
がっかりするほどでもないけれど、鏡を見ても面白くない。

でも、一度くらいはちゃんと確認しておかないとダメか。
そのためにここに連れ来られたんだろうし。

ゆっくりと大きな鏡に近づくと、少しずつ自分の姿が見えてくる。
プラチナブロンドの髪が腰まで伸びていて…あれ。
わたし…こんな顔してた?変化してもあまり変わらないんじゃなかった?

「うそ…。」

「嘘じゃない。今見えているのが真実。
 鏡の中にいるのは、ちゃんとユウリだよ。」

「だって、これじゃ…。」

綺麗すぎるという言葉は何とか飲み込んだ。
自分で自分のことを綺麗すぎるだなんて言ったら頭がおかしいと思われる。
だけど、どうしてこんなにも違うの?

「これが寄生されていた弊害だよ。」

「弊害?」

「二人がユウリの魔力を吸い上げてたせいで、
 ユウリは普通の人間よりも力が足りない状態だったんだ。

 力っていうのは、魅力でもある。
 ユウリの魅力をあの二人が奪っていたせいで、
 ユウリはずっとパッとしないように見えてたはずだ。」

「力…が無いせいで?」

「そう。同じ顔、同じ表情でも、外に向けられている力、
 魅力があるか無いかで評価は変わるものだから。

 ユウリが変わったんじゃない。
 もとからユウリは綺麗だったんだ。

 ただ、力が無いせいでそのことに気が付かなかった。
 力を奪っていた律と一花はユウリの綺麗さに気が付いていただろうけど。
 その力に魅かれて奪い続けていたんだから。」

「…変化したから顔が変わったわけじゃないの?」

「違うよ。髪と目の色が違うから印象は大きく違うだろうけどね、
 顔のつくりや体型はそれほど変わらないはずだよ。」

「そんな…。」

もう一度鏡の中にいる自分を見る。
光るような髪はさらっさらで、前髪があごのあたりで内側に軽くカールしている。
頬に髪がかかっている顔は小さくて、ぱっちりとした大きい目は緑色。
鼻筋はとおっているし、唇なんてメイクもしてないのに桃色でぷるんとしている。
眉毛も整っているし、まつげも長くてハーフの子みたい。
真っ白い肌は変わらないように見えるけど、こんなに透明感ある感じじゃなかった。
もっとくすんだ感じの肌に見えていたし、目の下のクマも無くなってる。

身体のほうも手足が細く見えるし、何より胸が大きく見える。
緑色のシンプルなドレスを着ているけれど、それがまたよく似合っている。
…だから、今日はワンピースじゃなくてドレスだったんだ。

「寄生されている二人から切り離して、
 力を戻してあげないうちに見ても多分ダメだったんだ。
 きっと向こうにいる時と同じように自分は平凡な顔だって感じたはずだよ。
 おそらく自分自身の力を感じることも難しかっただろうから。

 力が満ちてようやくユウリは自分のことをちゃんと感じられる。
 その姿が本当のユウリの姿なんだ。」

「…鏡の中にいるのが自分だっていうのはわかったんだけど、
 まだ信じられない…だって、自分は平凡なんだってずっと思ってた。
 律と一花と比べられて、どうして自分だけ平凡なんだろうって。
 それも最近ではあまり考えなくなるくらい、それが当たり前だったから。」

「わかってる。急に意識を変えるのは難しいって。
 だから、ゆっくりでいい。慣れていこう?
 明日からは一緒にここに来て、一緒に服を選ぼう。
 それで鏡の前で確認する時間を作ろう。…いつか違和感なく見れる日が来るよ。」

「うん…ありがとう。」

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