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聖女の準備

2.修行が始まる

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朝ごはんを食べ終えた後、ようやく聖女の修行を始めることになって、
キリルに連れられてきた場所は森の中だった。
王宮へと続く小道とは逆方向に森の中を歩いていると、開けた場所に出た。

森の中ぽっかりと空いたような平地にそれはあった。

ギリシャ神話とかに出てきそうな、
真っ白い石でできた柱がいくつもそびえたっている。
よく見ると柱はぐるりと囲むようにたっていて、
その中心は真っ白い石で丸いステージのようになっている。

ステージと言っても、地面よりも数センチ高くなっているだけで、
土の中に白い円形の石が埋められているようだ。
その上にキリルが立って、引き寄せられるようにして私も立つ。

あまりにも白い石が綺麗すぎて、土の上を歩いてきた靴で上がっていいのかと迷う。
慌てて靴の裏を確認したら何もついておらず、まるで新品のような綺麗さだった。
どうやら石に上がるときにキリルが綺麗にしてくれたらしい。

「綺麗なところだけど、ここで修行するの?」

「そうだよ。この石床の中央に立って…始めるよ。」

白い石床の中央に立つと、少しだけひんやりした空気を感じる。
石の柱の隙間を縫うように風が通っているらしい。

「ここって、何かの遺跡とか?」

「……修行がある程度終わったら教えるよ。
 今は修行に集中しようか。」

「…今は教えられないってこと?
 そっか…わかった。集中する。
 何をすればいいの?」

石の上に立ってみたが、これから何をするかは説明されていない。
修行って言うくらいだから大変なんじゃないかとか、少し怖いとか、
そんなことを考えていたけれど、頭を切り替えて集中する。

「ゆっくりと俺の魔力をユウリに流す。
 その魔力を受け取って、俺に流し返して。」

「やってみる。」

キリルと両手をつないで向かい合っていると、
右手のほうからじわじわと暖かくなっていく。
これがキリルの魔力なんだろうか。

今までも受け取っているはずなのに魔力というものを感じたことは無い。
もしかして、体温だと思っていたものが魔力だったのかな。

意識してキリルの熱を感じるようにすると、急に熱量が増えたように感じる。
熱いと感じるのは受け取っている右腕だけで、
身体の中心にまで来ると熱は冷やされていく。

「キリル…熱く感じているのがキリルの魔力だと思うんだけど、
 私の中心にまで行くと冷たくなっちゃう。」

「それでいいんだよ。
 冷たい魔力になったのがユウリの魔力だから。
 それをそのまま左手から俺に渡すようにしてみて。」

あぁ、この冷たくなったというのが私の魔力に変換されたってことなんだ。
そして、そのままキリルに渡すんだから…。
キリルの右手を冷やすイメージでいいのかな。

キリルはいつも体温が高いから、私の冷えた手で冷たくしてあげるように。
熱を冷ますイメージで…いけるかな。

「あぁ、来てる。戻ってきてる。
 すごいな。こんなに早くうまくいくとは思わなかった。」

「できてる?良かった。
 これって難しいんだね?」

「忘れないうちにもう一度やるよ?」

繰り返し何度もキリルの魔力が伝わってきて、そして送り返す。
最初は考えながら送っていたのが、慣れてくると何も考えずに流し返せる。
そうやっていると、気が付かないうちに時間が過ぎていた。

「あぁ、もうそろそろ神官宮に戻らないと。」

「え?もう暗くなってきてる。夕方になるの早いね。
 あっという間だった~。」

魔力を送り返すだけで一日が終わってしまっていた。
昼食の時間を忘れるくらい修行していたことに驚いてしまう。

「今日はこれだけで終わっちゃったけど、大丈夫?」

「いや、かなり優秀だよ。
 あまりにもスムーズだから休憩挟むの忘れてた。」
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