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聖女の準備

9.悠里のその後

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連れてこられた部屋は私たちがいる部屋から離れていない場所にあった。
ジェシカさんの先導でカインさんが美里を抱き上げて連れて行く。
その後から私とキリルがついていく。

部屋に入ると、私たちがいる部屋とあまり変わらない部屋だった。
絨毯とカーテンの色が違うくらいで、後は同じに見える。

カインさんがゆっくりと美里をソファに降ろし座らせると、
その隣にそのまま座る。
私とキリルは向かい側のソファへと座った。

「お茶を運んでくるわ。話していて?」

そう言ってジェシカさんが部屋から出ていく。
どうやらキリルがお茶を淹れるわけではないみたい。

「…悠里、どうしてそっち側に座るの?」

「え?」

向かい側のソファから美里の恨みがましい目で責められると、
私が答える前にカインさんが悲しそうな顔して美里をのぞきこんだ。

「…俺が隣ではダメか?」

「えっ!…いや…ダメじゃない…です…。」

ものすごい美形のカインさんに間近で問われて、美里の顔が真っ赤になる。
美里がそんな顔するのを見るのは初めてで驚いた。
そういえば、お互いに恋愛ごとに興味が無かったせいか、
ちゃんとした恋バナはしたことがない。
美里の好みのタイプってカインさんのような男性なのかもしれない。

顔が整っているだけじゃなく、雰囲気も華やかで大人の色気があって。
そんなカインさんに手を取られ、そばに居たいだなんて言われて…。
それは真っ赤になるかもしれない。

ふと隣を見るとキリルに「ん?」と聞かれて、「ううん」と答える。
カインさんは素敵だと思うし、キリルが尊敬できるくらいすごい人だとしても、
穏やかに静かに笑うキリルのほうが素敵だと思う。
やっぱり私はキリルのほうが好みだな…なんて思ってしまい、
自分の考えを焦って打ち消す。

いやいや。何を考えてるんだ私。
キリルとは聖女としてのパートナー。
よこしまな考えは持っちゃいけないよね。清いままでいなきゃダメなんだし。


「あら、まだ話始めてなかったの?」

お茶の用意がされたワゴンを押しながらジェシカさんが戻ってきて、
お茶を皆の前に置いてくれる。
なぜか四人分しかないと思ったら、
ジェシカさんはお茶を置いたらまた部屋から出て行ってしまった。

「さて、お茶も来たし、飲んだら話を始めようか。
 あぁ、最初は落ち着かないだろうし、ユウリが話をする?
 気になるんじゃないか?」

「え、いいの?じゃあ、美里。
 私がいなくなった後、向こうではどうなってたの?
 ここに来るまでのこと教えてくれない?」

確かに気になっていたけど、それは美里が落ち着いてから聞こうと思っていた。
だけど、いきなり聖女の話をするよりも、
ある程度違う話をしてからのほうがいいのかもしれない。
カインさんがそういうなら遠慮なく聞かせてもらう。

「…あの日、悠里を朝見送ったでしょう?
 大丈夫かなって心配してたけど、悠里から電話は来なかった。
 それで、どうしたのかと思ってたんだけど…。
 三日くらいして、やっと電話が来たと思ったら警察からだった。
 悠里が行方不明になったって。」

「あぁ、警察沙汰になってたんだ…。
 それは驚いたよね…ごめん。」

「警察から電話が来るなんて初めてだし、
 どうやら悠里が律と一花と三人で消えたらしいって聞いて、
 心臓止まるかと思うくらいびっくりした。
 警察も悠里が律と一花と揉めてたところまではわかってて、
 それを聞いて悠里がもしかしたら疑われてるんじゃないかって思って…。」

「え!っちょっと待って。なんで私が疑われているの?」

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