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聖女の準備

10.行方不明

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「え!っちょっと待って。なんで私が疑われているの?」

「…だって、他から見たら、悠里の彼を一花が取った感じでしょ?
 律と一花を殺して悠里も自殺して…
 なんて思われてるんじゃないかと思って。
 普通、行方不明なくらいじゃ電話で聞き込みなんてしてこないって。
 行方不明なんてめずらしくないんだし。」

「そうなの?行方不明なら警察が探すんじゃないの?」

「ほとんど探したりしないって聞いた。
 書類受理して終わりだって。
 同じ大学の子が進学早々家出した時にそうだったって聞いてる。」

「知らなかった…そうなんだ。
 で、私が疑われてるのはわかったけど、どうなったの?」

さすがに私が律と一花を殺して心中したと思われているのは嫌すぎる。
もう二度と向こうには戻らないけれど、そんな終わり方は嫌だ。

「あぁ、うん。悠里の状況をちゃんと説明して、
 どちらかといえば律と一花のほうがストーカー気質で、
 悠里を監禁している可能性のほうが高いですって話したの。
 警察も悠里が律と一花から逃げてたのは確認してたみたいで、
 すごく納得してた。」

良かった…警察が聞いてくれた相手が美里で。
話を聞いて納得してくれたなら大丈夫かも。

「安心した…さすがに勝手に殺人犯にされているのは嫌すぎる…。」

「まぁ、その警察の電話で悠里がいなくなったのを知って、
 その週末はもしかしたら家に来るんじゃないかと思って待ってたんだ。
 悠里のことだから逃げ出して隠れているんじゃないかと思って。
 でも、来なくて。
 さすがに次の週末は落ち着いていられなくて地元に帰った。」

「…あれ。美里って、実家に帰りたくないとか言ってなかった?」

理由までは詳しく聞かなかったけれど、
たしか他県に進学する時にそう言ってた気がする。
他県に行かなくても女子大はたくさんあるのに、どうして他県にまで行くのかって。
実家と折り合いがつかなくて、進学を認めてもらえなかった。
だから特待生の試験を受けて学費免除の女子大に入学して、
奨学金と家庭教師のバイトで生活しているって。
実家には卒業しても帰らないかもって言ってたのに、
地元に帰って大丈夫だったのかな。

「帰りたくはなかったけど、悠里がどこにいるのか気になって。
 高校とか大学の周りで行きそうな場所を手あたり次第探して…。
 全く手掛かりはなかったけどね。」

「そこまでして探してくれてたんだ…ありがとう。」

「ううん。私が気になって探してだたけだから。
 …で、実家に帰ったのは金曜日だったんだけど、
 土曜日に悠里を探し歩いて家に帰ったら…従兄がいたの。」

「従兄?」

「…うん。私が家と仲が悪くなった原因の従兄。
 9歳年上なんだけど、私が産まれた時から嫁にするって決めていて…。」

「嫁ぇ?何それ。産まれた時って9歳の子どもが?」

「うん。とても優秀で運動もできて性格も穏やかで…
 見た目は爽やかな従兄なんだけど。
 私はどうしても気持ち悪くて…ずっと冗談だとしても嫌で断っていて。
 それなのに、高校に進学せずに嫁がせるだなんて話を親からされて。」

「は?高校に進学せずに!?いつの時代の話なのよ!
 信じられない。しかも結婚するじゃなくて、嫁がせる?」

「そう。
 従兄が私が十六になったらすぐに結婚したいって言ってたみたいで、
 それなら高校いかなくてもいいだろうって。
 従兄は有名企業に就職していたから、専業主婦になればいいって。

 もう…絶対に従兄と結婚するのだけは嫌で断っているのに、
 両親たちが勝手に話を進めていて…。
 中学の同級生たちも最初はアリエナイって言ってくれてたのに、
 従兄が学校に迎えに来るようになったら手のひら返されて。
 何それ、自慢なの?自慢ならはっきり言えばいいじゃないって。
 誰も私が本気で嫌がってると思ってくれなかった。」

「美里…そんなことがあったんだ。」

「悠里に話してなくてごめん。
 だけど、悠里にも相談して、もし同じように言われたら…。
 もう立ち直れないかもしれないと思ったら怖くて話せなかった。」


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