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聖女の準備

13.見送る

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「で、兄さん、どうするの?
 ミサトはいつ連れて行くんだ?」

「うーん。ミサト次第かな。ミサトはどう思う?」

「…悠里、そこに行ったら私も信じると思う?」

カインさんに聞かれた美里が私へと聞いてくる。
神の住処の話題を出した途端、カインさんもキリルも表情が硬くなる。
周りの雰囲気が変わったことで美里も真面目に考えようと思ったのかもしれない。

「思うよ。信じるしかなくなると思う。
 ここで悩むくらいなら、行ってみたほうが早くない?
 話だけ聞いていても信じられないんでしょ?」

「うん、そうだね。じゃあ行きます。
 …あぁ、でも、歩けるようになったら行けばいい?」

行く気にはなったみたいだけど、立とうとしてあきらめる。
どうやらまだ力が抜けたままらしい。でも、まてよ。歩く…?

「カインさん、さっきみたいに抱っこして連れて行ったほうがいいと思う。」

「ええぇ?悠里、なんで?」

「いや、そこに行くとき、急に下に落ちるから。
 すごい怖くて、途中からキリルに抱きかかえてもらったんだけど、
 しがみついても怖すぎて悲鳴上げられないくらいだった。
 だから、最初からカインさんに抱き上げてもらって行ったら、
 少しは怖くなくなるんじゃないかと思ったんだけど…。」

「え…そんな怖いところに行くの?」

「うーん…落ちるよって言われてから落ちたら、
 そこまでじゃないかもしれないけれど。どう思う?」

キリルに聞いたら、めずらしくキリルがしょんぼりした顔をしている。

「そんなに怖がらせたなんて思ってなかった。
 ごめん…こちらの人間はあれに慣れちゃってるから。」

「ユウリに先に聞いといてよかったよ。
 俺もミサトに同じことしちゃうとこだったよ。
 わかった、気を付けて降りることにする。
 ゆっくり降ろせばいいんだろう?
 それなら行けそうか?ミサト」
 
「…わかりました。頑張ります。」

「よし、じゃあ、行ってこようか。」

ソファに座る美里を軽く抱き上げると、
そのままカインさんは部屋から出ていこうとする。
その後ろ姿にキリルが声をかけた。

「あ、兄さん、俺たちは部屋に戻るから。
 何かあれば呼んで。」

「あぁ、わかった。」

「美里、いってらっしゃーい。」

「うん、行ってくるね。」

二人が出て行ったのを見送って、私たちは部屋へと戻った。
まだ興奮しているのか、気持ちがふわふわしている。

「美里、びっくりするだろうなぁ。」

「ユウリはそんなにびっくりしたんだ?」

「うん、綺麗で怖くて、何か途轍もなく大きな存在にふれたみたいで。
 いろんな価値観とか、常識とか、吹っ飛んじゃった感じだった。」

「なるほどね…だからミサトにも早く行くように言ったのか。
 やっぱりユウリに立ち会ってもらってよかったよ。」

「そう?」

私たちの部屋に戻ると、すぐにキリルが甘いお茶を淹れてくれる。
一口飲んでほぅっと息をついたら、後ろから抱きかかえられた。
そのままキリルのひざの上に乗せられるけれど、重くないんだろうか。

「めずらしい抱きかかえ方するね?重くない?」

「うん、全然重くない。
 ユウリを抱きしめたいけど、お茶も飲んでほしいから、
 このほうがいいかなって。
 さっきユウリがミサトの話を聞いてくれたから、
 俺たちが聞きたかった事大体わかったよ。」

「聞きたかった事?」

「四年半前、何があって兄さんの隊長印が消えたのか。
 それなのに、どうして戻ってこれたのか。」

「あぁ、そうだったね。」

四年半前…私と美里が中三の頃?

「あぁ、従兄との婚約!」

「多分ね、そうだと思う。
 ミサトは従兄との結婚が嫌で逃げ出したいと願ったんだと思う。
 だから兄さんの隊長印が出た。
 そのまま逃げたいと願い続けていたら、こちらに戻ってきたと思う。

 だけど、ミサトは途中であきらめてしまった。
 両親や周りの説得に負けてしまったんだろう。
 そして、高校卒業後に結婚する約束までしてしまった。

 …その時点で兄さんの隊長印が消えてしまったんだと思う。」

「そっか。あきらめたらダメになるんだ。
 でもそうだよね…望んでない結婚を受け入れるだなんて…。
 心を殺してしまわなければ生きていけないよ。」

だから、魂が曇ったんだろうとキリルが言う。
もし、私もあのまま向こうにいて、あの二人とずっとそばに居て、
律と結婚しなければいけない状況になってしまったとしたら。

それは…受け入れた時点でもう私じゃない気がする。
美里の魂が曇ったと、その言葉にも納得する。



「ユウリのおかげだよ。」

「え?」

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