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神の力

8.めんどくさい令嬢

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「知っている人?」

「うーん…カイン兄さんの婚約者候補だった人。」

「え?婚約者じゃなくて、候補だった人?」

キリルとカインさんが貴族のようだというのは何となく理解している。
キリルには元婚約者がいたし、カインさんにいてもおかしくない。

それでも、婚約者の候補って何?
それって、何人かいて選べる立場にいたってこと?カインさん何者?

「うん。ちょっと理由があって、兄さんは婚約しなかった。
 候補だって言っても、向こうが勝手に言ってただけだったし。
 ただ…普通の令嬢は二十歳前に結婚するんだけど…
 あの令嬢は兄さんと結婚するって言って、
 ニ十歳こえても結婚せずにいるんだ。」

あぁ、なんだ。カインさんの追っかけなんだ。
確かに素晴らしい美形なだけじゃなく、頼りがいあって優しいし、
美里への態度を見るともてるのも無理はないと思う。

どこから見ても理想の王子様、そんな感じがする。
たいていの女の子なら好きになってしまうに違いない。

あの令嬢もカインさんのことが好きであきらめきれないんだろうな。
だけど…結婚しないで待つって…。
カインさんにその気が無かったら、ずっと待つことになるよね。

自分であきらめられるまで待つのかな。
この世界で結婚せずに一人で生きるとかはどうなんだろう?
なんとなく独身で働き続けるとかは許されない世界のような気がしている。

きっと、そのうち親からでも言われて、
無理にでも結婚することになるのかな。

そう思うと少しだけ同情する。
黒い感情を持つのも…少しなら仕方ないかな。
…美里に何かするようなら許さないけど。

「二十歳前で結婚…まぁ、貴族ならそうなのかな?
 で、カインさんと結婚するために行き遅れでも待っていると…。
 それって…かなりめんどくさい人?」

「うん…かなり。」

「私たちが行ったらよけいまずい?」

心配だから近くに行きたい気持ちはあるけれど、
私たちまで巻き込まれたら大変なことになる。
キリルも気になっているのか、腰が浮きかけているけれど、
自分がそこに行くわけにはいかないのはわかっている。

「まずいね。…隊員たちも呼べばすぐに来れるところに待機している。
 何かあればすぐに止めに入れると思うから、ちょっと待とうか。」

「…美里、大丈夫かなぁ。」

見える位置ではあるけれど、離れているために会話は聞こえない。
ただ…その令嬢の表情が険しくなっていくのが見えて、ハラハラしてしまう。
カインさん、なんだか令嬢を怒らせてないかな?


その時、王子の入場を知らせる声が響き渡った。

「王子?」

「…第二王子、ダニエル。
 王妃の産んだ王子だ。
 ダニエルが次の国王になるんじゃないかと言われている。」

「第二王子だけど、王妃様の子だから?」

「あ、王妃にも様をつけないで。」

「そうだった。気を付けるね。」

第二王子…本物の王子様はどんな人だろう。
ちょっとだけ期待してみたら、金髪碧眼は王子様らしかったけれど、
体つきが貧相なのと、顔だちが平凡だった。

…この世界、みんなイケメンってわけじゃなかったんだ。
よく見てみれば、その辺にいる貴族の人たちも衣装はキラキラしているけれど、
顔立ちはそこまででもない。

期待しただけ、なんだかがっかり。
そう思ってもう一度見て、凍り付いた。


ダニエル王子が手を引いて連れてきた令嬢は一花だった。

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