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聖女としての働き

7.謁見室

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王宮の謁見室の大きな扉の前に立つと、
幼いころカイン兄さんと二人で忍び込んで父上に叱られたのを思い出す。
父上が領地に引きこもってしまってからは、王宮に来る用事もなくなった。

謁見室前の衛兵に名前を告げると、すぐさま扉は開かれる。
神官宮から連れてきた隊員たちには扉の外で待つように指示をする。
いつもの護衛よりも多く連れてきたのは、これから起こることを予測したものだ。


「キリル…。」

「指示通り、国王だけで待っていてくれてよかった。
 ここで王妃が待ち構えているようなら、
 問答無用で強制権を発動させなきゃいけないところだった。」

「すまない…。」

父上よりも五歳年上の国王は、その年齢以上に老けて見えた。
王族らしい金髪はパサついて、深く刻まれたしわ、弱弱しい声。
二十年近く会っていなかったが、これほどまで衰えていたとは思わなかった。

「すべては王妃の指示か?」

「そうだ。王妃はアイ様が来た時は産まれていなかった。
 話に聞いただけの聖女様がちやほやされているのが許せないと言っていた。」

あぁ、そんなくだらない理由だったか。
聖女がちやほやされる、そのことがどうしてなのか考えもしない。

「六か国条約については?」

「説明したが、聞く耳もたん。
 王妃なのだから、ですべてが許されると思っている。」

やはり何も考えていなかったのか。王妃の愚かさにため息が出る。
国王がその王妃にずっと振り回されていたのは知っていた。
泣きわめけば全てわがままが通ると思っている王妃。
側妃がおとなしく何も言わないこともあって、増長したのだろう。

「夜会での無礼、貴族教育の欠如、
 ダニエル王子の教育の失敗、そして今回のことも?」

「先日、ユハエル国から大使が来たんだが、
 王妃へと土産を持ってきていた。
 大粒の宝石がついたネックレスだ。
 それを受け取った王妃が大使の要望を聞いて安請け合いした。
 聖女を一人派遣すると。」

頭が痛い。一国の王妃がそのようなできもしないことを約束するなど。
ユハエル国も六か国条約に違反するというのに、なぜそのような真似を。

「聖女が二人戻ってきた時は、瘴気の大規模発生が予測される。
 瘴気が多いのか、箇所が増えるのか、強くなるのか、
 実際におきてみなければわからない。

 聖女が二人いるというのは、聖女が二人いなければならないということだ。
 二人いるのだから一人派遣するというわけにはいかない。」

「…わかっている。」

「一度派遣したとなれば、他の四国からも望まれるだろう。
 そうなればいつ戻ってこれるかもわからない。
 ついでにいえば、主はユウリと俺だ。
 派遣するとなれば行くのはミサトとカインになる。
 …カインが第一王子だということを忘れているんじゃないのか?
 この国の王族は許可なく他国へは行けないだろう。」

他の五国からの承諾がないと国王になれないということもあって、
王族が許可なく他国へ行くことも禁じられている。
これは過去に王弟が自分を王に推してくれと他国を回ったことがあるからだ。

カイン兄さんは公爵家で預かってはいるが、王族であることには変わらない。
王位継承順位が低くても、いや、低いからこそ他国に行く許可は下りない。
簒奪を疑われる行為だからだ。

いや、俺自身も王族ではないけれど、王位継承権はある。
どちらにしても他国に行く許可は下りないだろうけれど。

「忘れてはない。今でもカインは俺の息子だ。
 …だが、王妃の暴走を止める力が私には無い…。」

「それはどういうことなのか理解しているんだな?」

「あぁ、もう疲れた。
 神官宮に、いや、神官隊長の指示に従います。」

「わかった。」

会話している間も、扉の向こうが騒がしい。
予測通りではあるが、こうも相手が愚かだと気が滅入る。
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