浮気された聖女は幼馴染との切れない縁をなんとかしたい！

聖女としての働き

19.誰のせい

「俺は言ったよな。イチカを外に連れ出すなと。
　その意味がわからなかったのか？」

「幽閉しているから連れ出すなって言われたのはわかっていた。
　だけど、イチカは別に何もしていないじゃないか。
　ただ聖女についてきてしまっただけなんだろう？」

「はぁぁ。まだお前そんなこと言ってるのか。
　だから、魔力をイチカに吸われているのにも気が付かないんだ。」

「…吸われている？どういうことなんだ？」

ダニエル王子が一花に魔力を吸われている？
私から魔力を取れなくなったから、
代わりにダニエル王子から奪っているってこと？
それとも手あたり次第、いろんな人から奪っている？

「イチカは寄生して生きている。
　この世界に来るまではユウリから力を奪って生きていたんだ。
　誤解しないように言っておくが、別に魔力が無くてもイチカは生きていける。
　それなのに、イチカはお前から魔力を奪い、周りを魅了して好き勝手している。
　だから、イチカに誰も会わないように幽閉していたんだ。」

「でも、別に俺は魔力を吸われても何ともないぞ？」

「すぐに影響出るような量ではないが、
　そのせいで他のものが魅了されて、結果迷惑になっている。
　ここまではわかるか？」

「だけど、外にも出れないのはかわいそうだ。」

確かにずっと幽閉しているのがかわいそうというのはわかる。
でも、この前の話を聞く限り、この世界を嫌ってくれたほうがいいような気がする。
誰にも会わないでいたら、そのうち向こうに戻ったんじゃないかと思うし。

下手にダニエル王子が楽しいことに連れ出していたら、
いつまでたっても帰らないと思う。

「そうやって人目につく場所に連れて行ったから誘拐されたんだ。
　イチカは、見てすぐに異世界人だとわかる。
　どういう目的でさらったのか、心当たりが多すぎてわからないほどだ。」

「心当たりって、なんだよ。」

「まずは、聖女だと誤解されている可能性が高い。
　お前が夜会に白いドレス着させて連れてくるから、
　聖女は三人いるという噂が流れてしまっている。
　イチカも聖女だと誤解されたのだとしたら、
　どの国に連れて行かれたのかわからない。」

「っ！」

「あとは、異世界人の女性がめずらしいという理由でほしがるものもいるだろう。
　個人的に欲しいもの、娼館に高く売るためにさらうものもいるだろう。」

「娼館だと…？」

「金目のものが目的なら、お前もさらわれているだろう。
　そうじゃないのなら、イチカだけが必要だったってことだろう。
　…おそらくは聖女だと思われて連れて行かれたんだと思うがな。
　お前を連れて行ったり殺さなかったのは、軍が出てくるとまずいと思っているからだ。」

「…っ！そう、それ！イチカを探してくれって軍に頼んだら断られたんだ！」

「当たり前だ。イチカはこの国の人間じゃない。何の権利も無いんだぞ。
　だからこそ、幽閉することで守られてもいたのに。
　…お前が何も考えずに危険にさらしたんだ。」

「…俺が…。」

がっくりと崩れ落ちそうになりながら、ダニエル王子はキリルに縋りついた。

「頼む…神官宮なら、国中に神官宮があるだろう！
　もう、キリルに頼むしかないんだ。お願いだ！」

「無理だ。」

「どうしてだよ！」

「お前は本当にこの国の王族なのか？
　今、この国は、この世界は、どういう状況なのかわからないのか？
　もうすぐ瘴気の発生がおこる。
　国中の神官宮の者は、その発生をいち早く見つけて、
　被害を少なくしようと命がけで仕事をしている。
　それを、イチカを探すために人員をさけると思っているのか？」

「…だけど！だけど、お願いだ！」

「軍を動かせない理由も言われたはずだし、
　ここでもイチカを探せない理由を今聞いたよな。
　それでも、イチカを探せというのなら、お前は今すぐ王子をやめろ。
　イチカを探しに行くなら、一人でも探しに行け。」

「…そんな。」

「おい、ダニエルを王宮まで連れて行け。」

「「「はっ！」」」

待機していた神官宮の隊員たちが三人がかりでダニエル王子を引きずっていく。
それでもしつこく叫んでいたけれど、キリルはもうダニエル王子を見もしなかった。

「……戻るよ。」

こそっとカインさんがつぶやいたのを聞いて、私と美里は戻ることにした。
キリルはまだ隊員さんと話があるみたいで面会室から出ようとしない。
最後にもう一度振り向いたらジェシカさんが面会室に入ってくるのが見えた。

「さ、早く訓練場に戻らないと。
　キリルが走って戻ったら、追い越されてしまう。」

「確かに。」