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聖女の旅立ち
11.それぞれのテント
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そこは何もない原っぱが広がっていた。
小さな運動場くらいの平地があり、その周りは木々に囲まれている。
道が奥まで続いているようだったけれど、暗くて何も見えなかった。
キリルとカインさんがポイっと何か投げると、ポンとそれは広がって、
まるで遊牧民族のゲルのようなものに変化した。
「え!」
「また何か出てきた!」
「このテントで生活するよ。」
同じような真っ白いテントが二つ。
結構な大きさがあるように見えるけれど、これも二つなんだ。
「テントは二つなの?」
「うん、一応はね、周りから見られた時の対策?
馬車が豪華だったり、テントが特別仕様で聖女様ごとに用意されているのは、
ちゃんと敬うべき対象なんですよ、って知らせていることになる。
二人はそんなつもりないだろうけど、
王族よりも偉いんだってことをちゃんと知らせておかないと、
自分のほうが偉いんだと勘違いしてしまう馬鹿が出てくるからね。」
「あぁ、そういうためのものなんだ。」
「確かに…私たちが見下されて何かされたとしたら、
その人を処罰しなきゃいけなくなるんでしょ?
だったら、最初から余計なことはするなよって威嚇するくらいがいいのかも?」
昔何かの本で読んだことがあるなぁ。
貴族と平民が違う服装をしているのは、平民が相手が貴族だとわかるようにだと。
もし万が一にでも失礼なことがあれば処刑されかねない。
その前に貴族ですよ~ってことをわかってもらうためだとかなんとか。
きっと私たちが聖女だってことを貴族たちにわかってもらわないと、
貴族たちが困ることになるんだろうな。
「まぁ、見た目が派手になるのはあきらめてよ。
中はいつも通りな感じになっているから。
さぁ、中に入って休もうか。
明日から忙しくなるから、今のうちにゆっくり休もう。」
まだ周りの隊員さんたちは慌ただしく動いていたけれど、
私たちがいても何も役に立たないどころか邪魔にしかならない。
言われるままに各自テントの中へと入った。
「あ、ホントだ。いつも通りな感じ。」
テントの中に入ると、王宮の私室や馬車の中とほとんど変わらなかった。
どこにいても部屋の内装が変わらないのは落ち着けていい。
いつも通りにソファに座ると、キリルも隣に座る。
「まだ寝なくていいの?」
「そうだね。早く寝たほうがいいんだよね。」
「落ち着かないなら何か飲み物淹れてこようか?」
「うん。」
キッチンから戻ってきたキリルが手にしていたのはホットミルクだった。
キリルは飲まないのか、私の分だけ持ってきたようだ。
受け取って一口飲むとほんのりとハチミツの甘さを感じる。
「やっぱり、緊張してるんだろうね。」
後ろから抱きこまれるようにされ、肩にキリルのあごが乗せられる。
重さを感じないくらいそっと置いているような感じだけど、
そんなことをされたら耳元でささやかれているようだ。
「……キリルはホットミルク飲まないの?」
「うん。俺はこうやってユウリにくっついているだけでいい。
こうしていたら落ち着くから。」
「そっか。」
落ち着くのは魔力の関係なんだろうと思うけれど、
こうしていると不安が消えていくのは私も同じだった。
このままこうしていたい。
ずっと抱きしめていてほしい。
そうしたら……何も怖くないのになぁ。
「ユウリ、怖い?」
「……うん。」
「こうしていたら怖くない?」
「…うん。」
「じゃあ、今日はずっとこうしたままで寝よう。」
飲み干したカップを取り上げられ、抱きかかえられて寝室へと運ばれる。
ベッドの上に降ろされたら、すでに着替えが終わっていた。
二人ともベッドに入ると部屋の明かりは薄暗くなる。
後ろから抱きしめられたまま横になり、目を閉じる。
私が眠るまでキリルが見守ってくれているような気がして、
もう怖くなくなっていた。
小さな運動場くらいの平地があり、その周りは木々に囲まれている。
道が奥まで続いているようだったけれど、暗くて何も見えなかった。
キリルとカインさんがポイっと何か投げると、ポンとそれは広がって、
まるで遊牧民族のゲルのようなものに変化した。
「え!」
「また何か出てきた!」
「このテントで生活するよ。」
同じような真っ白いテントが二つ。
結構な大きさがあるように見えるけれど、これも二つなんだ。
「テントは二つなの?」
「うん、一応はね、周りから見られた時の対策?
馬車が豪華だったり、テントが特別仕様で聖女様ごとに用意されているのは、
ちゃんと敬うべき対象なんですよ、って知らせていることになる。
二人はそんなつもりないだろうけど、
王族よりも偉いんだってことをちゃんと知らせておかないと、
自分のほうが偉いんだと勘違いしてしまう馬鹿が出てくるからね。」
「あぁ、そういうためのものなんだ。」
「確かに…私たちが見下されて何かされたとしたら、
その人を処罰しなきゃいけなくなるんでしょ?
だったら、最初から余計なことはするなよって威嚇するくらいがいいのかも?」
昔何かの本で読んだことがあるなぁ。
貴族と平民が違う服装をしているのは、平民が相手が貴族だとわかるようにだと。
もし万が一にでも失礼なことがあれば処刑されかねない。
その前に貴族ですよ~ってことをわかってもらうためだとかなんとか。
きっと私たちが聖女だってことを貴族たちにわかってもらわないと、
貴族たちが困ることになるんだろうな。
「まぁ、見た目が派手になるのはあきらめてよ。
中はいつも通りな感じになっているから。
さぁ、中に入って休もうか。
明日から忙しくなるから、今のうちにゆっくり休もう。」
まだ周りの隊員さんたちは慌ただしく動いていたけれど、
私たちがいても何も役に立たないどころか邪魔にしかならない。
言われるままに各自テントの中へと入った。
「あ、ホントだ。いつも通りな感じ。」
テントの中に入ると、王宮の私室や馬車の中とほとんど変わらなかった。
どこにいても部屋の内装が変わらないのは落ち着けていい。
いつも通りにソファに座ると、キリルも隣に座る。
「まだ寝なくていいの?」
「そうだね。早く寝たほうがいいんだよね。」
「落ち着かないなら何か飲み物淹れてこようか?」
「うん。」
キッチンから戻ってきたキリルが手にしていたのはホットミルクだった。
キリルは飲まないのか、私の分だけ持ってきたようだ。
受け取って一口飲むとほんのりとハチミツの甘さを感じる。
「やっぱり、緊張してるんだろうね。」
後ろから抱きこまれるようにされ、肩にキリルのあごが乗せられる。
重さを感じないくらいそっと置いているような感じだけど、
そんなことをされたら耳元でささやかれているようだ。
「……キリルはホットミルク飲まないの?」
「うん。俺はこうやってユウリにくっついているだけでいい。
こうしていたら落ち着くから。」
「そっか。」
落ち着くのは魔力の関係なんだろうと思うけれど、
こうしていると不安が消えていくのは私も同じだった。
このままこうしていたい。
ずっと抱きしめていてほしい。
そうしたら……何も怖くないのになぁ。
「ユウリ、怖い?」
「……うん。」
「こうしていたら怖くない?」
「…うん。」
「じゃあ、今日はずっとこうしたままで寝よう。」
飲み干したカップを取り上げられ、抱きかかえられて寝室へと運ばれる。
ベッドの上に降ろされたら、すでに着替えが終わっていた。
二人ともベッドに入ると部屋の明かりは薄暗くなる。
後ろから抱きしめられたまま横になり、目を閉じる。
私が眠るまでキリルが見守ってくれているような気がして、
もう怖くなくなっていた。
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