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三十七、穏やかな実家暮らし1

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玄関を一歩ふみだすと、豪華な王宮の馬車が待っていた。

「こんな馬車、今の私には晴れがましすぎるわ」 

馬車の前でとまどっていると、空からルークが舞い降りてきて肩にとまる。

「なにをグズクズしてるんだ。
はやくのれ。
アイリスが悪いことをしたワケじゃないんたぞ。
堂々と、実家へ戻るんだ」

「また鷲さんにお説教されちゃたわ」

「バカいうな。
鷲じゃなくて、優秀な使い魔だろ」

口調ばかりか、すねる様子まで王子にそっくりで、つい吹き出してしまう。

「こら。ここは笑うところじゃない」

ルークは不満そうな声をだす。

けど、あれこれ話している間に、さっきまでの戸惑いも薄れていったようだ。

「わかりました。
おおせの通りにいたします。
なんなら王妃様のように、馬車の窓からお手ふりをしようかしら」

「それはちょっとやり過ぎだろ」

冗談を本気にとったルークが、困ったように首をひねる。

「ふふふ。ちょっとからかっただけよ」

笑いながら馬車にのりこむと、ルークはフンと大きく鼻をならして飛んでいった。

「では、出発いたします」

御者が、不思議そうな顔をしてこちらを
振り向く。

魔力のない者には、ルークはただの鷲にしか見えないはずだ。

鷲とボソボソと話している私は、イタイ女にうつっていたのだろう。 
  
「お願いいたします」

頭を下げると、ゆるやかに馬車は走り始めた。

これからは、人前でルークと話すのはやめよう。

窓から街並みを眺めながら、反省をする。

そうしている間に、馬車は実家の前に到着した。

「お父様はどう思ってるかしら」

ゴットン達が悪いとはいえ、嫁が婚家をおとしめたのだ。

古風なお父様なら、激怒しているかもしれない。

馬車が帰ってゆく音を聞きながら、不安な気持ちで玄関に足をふみいれた。
 
「やはり、迎えの者は誰もいないのね」

そう言ってうつむいた時だった。

長い廊下の向こうから、両手をひろげてお父様が歩いてきたのだ。

「イエルから全部話はきいた。
私が軽率にアイリスの結婚を決めたのが、悪かったのだ。 
すまない。許してくれ」

お父様に抱きしめられたのは、成人して初めてだ。

「お父様のせいじゃないわ。
私がうまく立ち回れなかったのが、悪いのよ」

「それは違うぞ。
まずは食事をしてから、ゆっくりと話をきかせておくれ」

お父様は私が持っていたトランクを、自分で持ち大広間へとむかう。

「何か催しでもあるのかしら。
悪いけど、私は出席する気分じゃないわ」

「まあ。そうつれないことをいうな。
疲れているだろうけど、少しだけつきあってくれ。
皆が会いたがっているし」

大広間の前に立つお父様の頬が、ゆるんでいる。

ひょっとしたら、お父様再婚するのかしら。 

皆って、新しい家族のことなの。

緊張して、そうっと分厚い扉を開く。
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