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脇役剣聖、検証する

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「『抜刀ばっとう』」

 冥狼斬月を抜刀───……俺の身体は灰銀の鎧に包まれる。
 鎧というか、服みたいだ。柔軟性があり、硬いっちゃ硬いが、一部は指で押してもベコベコ凹んでは元に戻る。妙な素材だな……まあいいけど。
 顔に触れると、やはり兜に包まれている。というか、一切の露出がない。
 すると、俺の『尾』がふわりと浮かんだ。

『……ふぁぁ、なんだいこんな真夜中に』
「よ、ルプスレクス」

 現在、深夜。
 みんな寝静まった時間、俺は村から出て、近くの森に来ていた。
 この森、よく精神鍛錬や修行で使う森で、静かだから昼寝するのも最適だ。
 俺はルプスレクスに言う。

「この『夜叉神鎧武やしゃじんがいむ』のこと、もっと知っておこうと思ってな。それに、お前に聞きたいこともある」
『なんだい、聞きたいことって』
「……お前、魔王の腕食ったんだよな」
『ああ、まあね。魔界を脱する時、かなりの数の追っ手を向けられたよ。全部倒した後、魔王が向かってきたから腕を噛み千切ったんだ……そのあとだったかな、僕の首輪が暴走したの』
「……ビンズイから聞いたけど、お前って魔王より強かったのか?」
『さあ。自分の強さとかどうでもよかったし。まあ、きみと戦った時は全然本気じゃなかったよ』
「……それ聴いてマジで安心してるよ。それと、アザトースってやつのことだけど」
『息子でしょ? それくらいしか知らない』
「…………」

 ルプスレクス、こいつ……あんまり魔界に関心がないように見えるな。
 まあいいや。聞きたいことがあったら、おいおい聞こう。

「よし、さっそく力の検証するか」
『検証って、何をするんだい?』
「この鎧を纏ってできること、できないことの検証だよ。多分だけど、他の七大魔将と戦うことになる気がするしな……お前、他の七大魔将のこと、知ってるか?」
『一応はね。でも正直、僕の敵じゃないよ……まあ、今はわからないけど』
「お前、生身はどれくらい強かったんだよ……」

 とりあえず、今できることを確認するか。

 ◇◇◇◇◇◇

 まず俺は、連続で『閃牙』を繰り出したり、『飛燕』を連射。
 身体を限界まで追い込もうとしたが……不思議なことに、全く疲労がない。

「全然疲れない……すごいな、この鎧」
『鎧というより、キミの動きを補佐したり、疲労を吸収する効果があるからね。逆に、防御力は鉄の鎧以下だから気を付けて……まあ、きみの『眼』があれば、攻撃が当たることはないと思うけど』
「回避特化の鎧か。しかも、お前のサポートもある」

 尾、『狼尾刀ろうびとう』が動く。
 俺は木を蹴ると、落ち葉が大量に降ってくる……が、狼尾刀が全ての葉を切り落とした。

『飛び道具なら、完璧に防御する。でも……僕の意識は、一日に何度も出ないから気を付けてね。この姿だと疲労が大きいんだ』
「わかったよ。それと、領域だけど」
『あ、やめた方がいい。領域を使うと、丸一日は鎧が使えないよ』
「そうなのか……まさに切り札だな」

 鎧を解除……つまりこいつは『疲れない服』みたいなもんだ。
 普段は俺のままで戦えばいいが、上級魔族や七大魔将相手にはもってこいの装備だな。

「いいもん使わせてくれる。ありがとな、ルプスレクス」
『気にしなくていい……じゃあ、寝る。おやすみ……』

 冥狼斬月から声が聞こえなくなった……寝たのだろう。
 俺は近くの木陰に座り、大きく伸びをした。

「さぁて……明日からサティたちの修行だ。頑張りますかね」

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 早朝、屋敷裏で俺は、木剣を持ちフルーレと対峙していた。

「はぁぁぁぁ!!」
「おいおい、それで本気なのかー?」

 フルーレは真剣、俺は木剣だ。
 フルーレの連続突きを俺は全て回避、受け流し、木剣の先で叩き落とす。
 修行だが、フルーレには『殺すつもりでこい』と言っている。能力なしで、ただの剣技で。
 修行は、剣技とスキルを交互に鍛えている。今日は剣技のみだ。

「このっ……ちょこまかと!!」
「避けるのだけは、七大剣聖で最強だぞ?」

 フルーレは闇雲に突くのをやめ、呼吸を整えステップを踏む。
 いいね……緩急を付けたステップで惑わし、四方から攻撃するのか。

「『四方八方突きシャン・ジェ・バッテ』!!」

 ステップに緩急を付けることで、タイミングをずらした連続突き。さらにステップ移動で正面、側面、背後と死角からの攻撃にも対応している。
 リュングベイル流細剣技……エドワド爺さん仕込みの件は、サティやエミネムよりも練度が高い。剣技だけだったら、サティもエミネムもフルーレの足元にも及ばないだろう。
 だけど、それだけじゃだめだ。

「まあまあ、かな」
「っ!?」

 俺は死角から突きだされた突きに合わせて木刀を出し、切っ先に突き刺す。
 そして、木刀に刺さったフルーレの剣を引き、フルーレから剣を取り上げた。

「あっ!?」
「はい、おしまい」

 そのままフルーレに足払い。フルーレは地面を転がった……が。

「シッ!!」

 すぐに態勢を立て直し、なんとハイキックを放ってきた。
 そう、これなんだ……七大剣聖はあきらめない。たとえ剣を失っても戦える。
 俺はフルーレの足を掴み、再び足払い。今度は木刀を首元に突きつけた。

「くっ……」
「最後まで諦めないのは満点。でも、まだまだだな。剣が素直すぎてどこをどう狙うか手に取るようにわかる……エドワド爺さんにも言われなかったか?」
「……なんで知ってるの」
「わかるさ。でも、それは仕方がない。どんなに剣技を磨いても、実戦経験を重ねない限り、『嫌らしさ』ってのは出せないもんだ」
「……嫌らしさ」
「ああ。相手が嫌がるようなことだな。まあ、あと数年もすれば嫌でも身に付く」
「教えて。今の私は、どのくらい強い?」
「はっきり言うと、サティ、エミネムよりは強い。でも、サティとエミネムが同時に掛かれば対処できるくらいだな」

 一対一では負けないが、二対一では負ける。
 つまり、サティとエミネムが成長しているってことだ。
 フルーレは立ち上がり、剣を回収する。

「なら、突き放さないとね。ラスティス、もっと厳しい訓練をお願い……私はもう『枷』が外れている。スキルを伸ばす訓練、剣技、もっと厳しく……上級魔族を一人で相手できるくらい、強く」
「焦るなよ。焦って鍛えてもいいことはないぞ」
「…………ええ」

 フルーレは頷き、ベンチへ向かう。
 そして、サティとエミネムが俺の元へ。

「師匠、次は私が!!」
「私もお願いします!!」
「いいぞ。二人同時にだ。サティは双剣、エミネムは槍を持て。得意武器を使え」
「わかりました!! 師匠、殺す気で行きます!!」
「私もです……行きます!!」

 殺す気で来い、それは俺がいつも言ってること。
 手加減してたら強くなれない。
 今は、七大魔将とはいかないが……せめて、上級魔族をタイマンで倒せるくらい強くなってもらわないとな。
 ラストワン、アナスタシアも何やら始めたみたいだし、俺も新しい力を得たからってサボるつもりはない。もっともっと強くなっておかないとな。

 ◇◇◇◇◇◇

 修行を終え、サティたちは風呂へ……俺は休む間もなく仕事を開始。
 着替えて執務室に行くと、なんとケインくんが来ていた。

「お久しぶりです、ラスティスさん」
「ケインくん!! いやあ、忙しいみたいで……仕事、まかせっきりで悪いね」

 ケインくんは、ギルハドレット領地の鉱山開拓を任せている。アナスタシアの代わりである秘書官と一緒に、鉱山近くに作った町で生活してるみたいだ。

「忙しいといっても、ボクは指示だけですから。それに、開拓も順調に進んでいますからご安心ください。ちょっと予定外なことがありまして……」
「予定外?」

 俺は自分の仕事用椅子に座ると、ギルガが言う。

「鉱山近くに街を作ったのは聞いたな?」
「ああ、臨時の町だろ? 開拓の間、開拓員たちが生活する場所だっけ」
「そうだ。実はその街に……王都から来た商会が、露店を開き始めたんだ」
「露店?」

 椅子から立ち上がり、サイドテーブルにあるお茶セットで紅茶を淹れる。
 ケインくんのはギルガが淹れたのかね。こいつ、ゴツイおっさんのくせに紅茶淹れるの上手いんだよな……繊細な味がどうとかウンチク垂れてたし。

「そうなんです。どうやら、ギルハドレットの鉱山が儲かると、王都で噂になっているようで……ボクが町の責任者だと言うと、営業許可証を押し付けて営業を始めちゃうんですよ。一応、場所代の請求はしましたけど、領主じゃないボクに取り締まる権限もないので……」
「一応、フローネに行かせたが……」
「いやー、あいつはダメだろ。儲かるってわかれば許可するぞ」
「その通り……営業許可をあっさり出し、帰って来た。臨時の町なのだが、もう村以上の規模になっているし、建物の建築も始まった」
「じゃあ、普通に町でいいだろ」
「お前な……町を作るとなると、それなりに決まりがだな」
「とりあえず、問題は起きてないんだろ? ギルハドレットから文官を派遣して統治させておけばいい。ケインくん、問題起きたらそっちで対処していいから」
「い、いいんですか? ボク、商人ってだけで、領地とは無関係ですけど……」
「気にすんなって。な、ギルガ」
「……現状では、ケイン殿に任せるのがベストだな。文官といっても、そう簡単には……ああ、フローネとホッジが教育している文官がいたな。そいつに任せてみるか……」

 なんとかなりそうだ。というか、新しい街とかすごいな……。
 そしてもう一つ、ケインくんから。

「あと、これは提案なんですけど……お祭り、やりませんか?」
「「お祭り?」」

 俺とギルガの声が被った……なんか気持ち悪いな。

「ええ。開拓がはじまり、作業員たちも増えました。ハドの村の住人も増えましたし、ギルハドレットの街も移住希望が増えているようですね」
「……ああ。相当数な」
「そ、そうなのか?」
「お前が王都にいる間、大変だったんだぞ」
「あのな、俺だって七大魔将と戦って死にそうになったんだぞ」
「え、えっと……それで、やはりその、問題といいますか……住人同士のトラブルとかがありまして」
「あー……喧嘩とか?」
「はい。人が増えるとどうしても……なので、一度お祭りでも開催して、みんなで楽しくお酒を飲もう!! なーんて、どうでしょうか?」
「いいね……うん、俺は賛成。サティたちも訓練ばかりじゃ気が滅入るしな。気分転換にちょうどいい」
「……いいだろう。明日、フローネたちに伝える」
「じゃあ決まりですね。ボクは明日、鉱山の街に行って、露店を経営している商会たちを集めて報告します。きっと協力してくれますよ」
「祭りか……美味いもん食ったり、酒飲んだり、歌ったりするのかな」
「そうですね。楽団とか呼んで、歌や踊りを楽しむのもいいですね……そういえば『フィルハモニカ楽団』って、王都で有名な楽団があるんですけど……呼びましょうか?」
「え、呼べるのか?」
「ええ。楽団長と知り合いなので」
「いいね。じゃあ頼むわ」

 と……俺は思い出した。
 
「そういや、ミルキィちゃんだっけ……あの子の歌、けっこうよかったな」

 強制的に聞かされたミルキィちゃんの歌を思い出しながら、仕事を再開するのだった。
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