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脇役剣聖、仕事が忙しい
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「あ~……仕事、多すぎだろ」
ある日、俺は執務室で死にそうになっていた……そう、あまりの仕事量に血を吐きそうになっていたのである。
そりゃ、俺が王都に行って、七大魔将と戦っている間にも時間は流れていたさ……ギルハドレット領地の開拓が進んでいたのも知っている。でも、領主である俺が確認しなくちゃいけないことが、あまりにも多すぎるよ……死ぬ。
「あの、ラスティス様。こっちの書類、確認終わりました」
「ありがとな、エミネム……本当に助かってる」
エミネムは、俺の秘書として働いてくれている。
本来はギルガの役目なんだが、エミネムが見かねて手伝いをすると言ってくれたのだ。おかげで、ギルガは俺の代役として領地内をあちこち飛んで行ける。
エミネムも、サティたちと一緒に自主訓練したいだろうに……こうして手伝ってくれている。
「エミネム、本当に助かる。でも、いいのか? サティたちは自主訓練しているけど」
「いいんです。強くなることも大事ですけど……その、ラスティス様のお手伝いをするのも、同じくらい大事ですから」
「……いい子だ。よし、今夜空いてるか?」
「え!?」
「サティたちに内緒で、秘密訓練をしてやろう」
「…………はい、ありがとうございます」
あれ、なんかテンション下がったな……なんでだろう?
というか、夜は俺の訓練もある。それに同行させるのもいいな。
「それと、『臨解』の枷……まだ決意はできないか?」
「……申し訳ございません。まだ、少し」
「まあ、焦らないでいい。枷を外すとなると、大変だからな」
「あの……枷を外すと暴走するんですよね? どうやって鎮めるんですか?」
エミネムが首を傾げた。そういえば、ちゃんと説明してなかったな。
「枷を外すのはそう難しくない。問題は、身体から飛び出す《神》を何とかしなくちゃいけないんだ。この場合は……斬る」
「え……き、斬る?」
「ああ。サティの時は見てなかったか? 俺が飛び出して、あいつに宿っていた《神》を斬ったんだ」
「じゃあ、やっぱり神スキルに、神様が宿っている……?」
「さぁな。形ある何かが飛び出すのは確定してる。スキルによって、その形状は異なるけどな」
「なるほど……あの、『臨解』って、一度枷を外すと、再び解放できるんですよね?」
「ああ。神スキルに宿る『神』を、一時的に顕現させて戦える……でも、俺の知る限り、『臨解』状態でまともに戦えるのは団長だけだ」
「……お父様が」
「ああ。『臨解』状態の団長は、俺でも太刀打ちできない」
はっきり言って、あの状態の団長なら、ビャッコを倒せたかも……ただし、持続時間は数分で、それを過ぎると団長でさえ動けなくなる。
「お前の中にいる『神風』は、どんな形をしているんだろうな」
「…………」
エミネムは胸に手を当て、どこか不安そうに俯いていた。
◇◇◇◇◇◇
とりあえず、今日の分の仕事を終えて、エミネムと外へ出る。
「あ~……外の空気は美味いな」
「はい。ずっと書類仕事だと、肩が凝っちゃいますね」
「ははは、確かに。さて、少し散歩でもするか」
「は、はい!!」
なぜか嬉しそうなエミネム。
二人で村を歩く……やっぱり人の通りも増えたし、建物も、店も増えた。
もう街といっていいかもな。
「ここはもう街だな……ハドの街に改名した方がいいかな」
「確かに、人も建物も増えましたね」
「人は開拓の職人たち、建物は王都から来た商会たちのだけどな」
アナスタシア、ケインくんの商会だけじゃなく、王都からいくつもの商会が『ぜひ出店させてくれ』とあいさつに来た。発展するのはいいことなので、フローネに任せて出店させている。
ハドの村だけじゃなく、ギルハドレットの街も発展しているとか。
すると、商人と何かを話しながらケインくんが歩いて来た。後ろには護衛のマルセイくんもいる。
「あれ。ラスティスさんにエミネムじゃないですか」
「や、ケインくん。忙しそうだね」
「ええ、まあ……鉱山関係は落ち着いたんですけど、今度は出店関係で……ラスティスさん、どうやらギルハドレットは宝の山どころか、宝の海です……本当にとんでもないところだ」
「そ、そんなにかい?」
「ええ。実は……」
ケインくん、鉱山だけじゃなく、森や平原なども少しずつ調査をしていたらしい。
その結果、ギルハドレットには大きな湖や、薬草がいっぱい生えた大森林、よくわからん遺跡やダンジョンなど、調査に向かうたびに何かしらの発見があった。
ちなみに、ビンズイの『鳥』も調査協力している。おかげで、調査の速度は段違いとか。
「本当に、調査するたびに何かしら発見があります。正直、ボクとアナスタシアさんの商会だけじゃ手に負えなくて、信頼できる商会に声をかけたんですけど……どこからか情報が洩れて、いろんな商会が集まってきたんです。なんとか今は押さえていますし、フローネさん、ギルガさんに対応もしてもらっています……申し訳ございません。ボクのミスでこんな」
「いやいや、いいことだって。そもそも、俺がもっとまじめに開拓に手を出していれば、こんなことにはならなかったんだし」
ほんと、ダラダラしてないで真面目に開拓すればよかった。
すると、ケインくんの視線はエミネムへ。
「ああ、エミネム。ラスティスさんと稽古か? 悪いけど、今は領主の仕事が……」
「……今は休憩です。それと、私は秘書なので、お仕事も手伝いますから」
「秘書? お前、そんなことできるのか?」
「騎士団の第一部隊で、予算の算出や経理報告書などは私が書いていました。なので、問題はありません。ご心配なく」
「ふーん。まあいいや。すみませんラスティスさん、報告書、執務室に届けておきますんで」
「あ、ああ……」
つまり、また仕事が増えるってことだ。
ははは……マジで忙しいぞこれ。サティたちの修行、付き合えるかな。
「ボクも、しばらくはこちらに滞在します。どうやら、ボクの人生始まって以来、最高の大仕事になりそうですよ」
「そ、そうかい……頑張ってくれ」
「はい。あ、そうだ……ラスティスさん、アナスタシアさんに連絡取れないんですが、何かご存じですか?」
「アナスタシア? いや、知らんけど……あいつ、何かあったのかな」
特別任務とか受けたのかね? まあ、連絡取ってみるか。
◇◇◇◇◇◇
散歩を終え、執務室に戻って夕方まで仕事をした。
そして、夕飯を食べしばし休憩。
リビングでくつろいでいると、二階の階段からサティ、フルーレが降りてきた。
サティ、フルーレは言う。
「よし!! 師匠、お風呂行ってきます!!」
「別に言わんでもいいぞ。好きに行け」
「……覗かないでよ」
「見ない見ない。ほれほれ、行った行った」
サティ、フルーレが風呂へ。すると、エミネムが入れ替わるようにリビングに来た。
「ラスティス様。準備できました」
「よし、あいつら風呂行ったし……行くか」
「はい」
俺とエミネムは外に出る。
そして、屋敷の裏から続く道を通り村を出た。向かうのは屋敷から十五分ほど歩いた森。
森に入ると、やや開けた場所に来た。
「わあ……ここ、ラスティス様の修行場ですか?」
「ああ。ずっとここで訓練している。さて……やるか」
俺は『冥狼斬月』の柄に手を添える。
エミネムは、背負っていた包みを風の力で吹き飛ばす。
包みが外れ、中から六本の槍が現れた。
槍は回転しながら風によって浮かび、エミネムはそのうちの二本を両手でつかむ。
「六本の槍、そして四本を風で制御か……」
「ずっと考えていたんです。私の戦闘スタイル……風の力で物を浮かせることができるなら、槍を浮かべて手数を増やせるんじゃないかって」
「サティから聞いたけど、上級魔族戦で使ったんだって?」
「はい……でも、未熟なので通用しませんでした」
「でも、いいセンスだ」
四本の槍は、小さな竜巻によって真っすぐ浮かんでいる。エミネムは両手の槍を回転させ、俺に向かって突きつける。
「私は剣を捨て、槍を極めます。ラスティス様……お付き合い、願います!!」
「ああ、全力で───……殺すつもりで来い」
俺はエミネムに殺気を飛ばす。
エミネムは一瞬たじろいだが、すぐに気を引き締めた……以前だったら動けず、へたり込んでいただろうな。ちゃんと成長している。
「『旋風六槍流』───……参ります!!」
風が舞い、エミネムの槍が俺に向かって突き出された。
ある日、俺は執務室で死にそうになっていた……そう、あまりの仕事量に血を吐きそうになっていたのである。
そりゃ、俺が王都に行って、七大魔将と戦っている間にも時間は流れていたさ……ギルハドレット領地の開拓が進んでいたのも知っている。でも、領主である俺が確認しなくちゃいけないことが、あまりにも多すぎるよ……死ぬ。
「あの、ラスティス様。こっちの書類、確認終わりました」
「ありがとな、エミネム……本当に助かってる」
エミネムは、俺の秘書として働いてくれている。
本来はギルガの役目なんだが、エミネムが見かねて手伝いをすると言ってくれたのだ。おかげで、ギルガは俺の代役として領地内をあちこち飛んで行ける。
エミネムも、サティたちと一緒に自主訓練したいだろうに……こうして手伝ってくれている。
「エミネム、本当に助かる。でも、いいのか? サティたちは自主訓練しているけど」
「いいんです。強くなることも大事ですけど……その、ラスティス様のお手伝いをするのも、同じくらい大事ですから」
「……いい子だ。よし、今夜空いてるか?」
「え!?」
「サティたちに内緒で、秘密訓練をしてやろう」
「…………はい、ありがとうございます」
あれ、なんかテンション下がったな……なんでだろう?
というか、夜は俺の訓練もある。それに同行させるのもいいな。
「それと、『臨解』の枷……まだ決意はできないか?」
「……申し訳ございません。まだ、少し」
「まあ、焦らないでいい。枷を外すとなると、大変だからな」
「あの……枷を外すと暴走するんですよね? どうやって鎮めるんですか?」
エミネムが首を傾げた。そういえば、ちゃんと説明してなかったな。
「枷を外すのはそう難しくない。問題は、身体から飛び出す《神》を何とかしなくちゃいけないんだ。この場合は……斬る」
「え……き、斬る?」
「ああ。サティの時は見てなかったか? 俺が飛び出して、あいつに宿っていた《神》を斬ったんだ」
「じゃあ、やっぱり神スキルに、神様が宿っている……?」
「さぁな。形ある何かが飛び出すのは確定してる。スキルによって、その形状は異なるけどな」
「なるほど……あの、『臨解』って、一度枷を外すと、再び解放できるんですよね?」
「ああ。神スキルに宿る『神』を、一時的に顕現させて戦える……でも、俺の知る限り、『臨解』状態でまともに戦えるのは団長だけだ」
「……お父様が」
「ああ。『臨解』状態の団長は、俺でも太刀打ちできない」
はっきり言って、あの状態の団長なら、ビャッコを倒せたかも……ただし、持続時間は数分で、それを過ぎると団長でさえ動けなくなる。
「お前の中にいる『神風』は、どんな形をしているんだろうな」
「…………」
エミネムは胸に手を当て、どこか不安そうに俯いていた。
◇◇◇◇◇◇
とりあえず、今日の分の仕事を終えて、エミネムと外へ出る。
「あ~……外の空気は美味いな」
「はい。ずっと書類仕事だと、肩が凝っちゃいますね」
「ははは、確かに。さて、少し散歩でもするか」
「は、はい!!」
なぜか嬉しそうなエミネム。
二人で村を歩く……やっぱり人の通りも増えたし、建物も、店も増えた。
もう街といっていいかもな。
「ここはもう街だな……ハドの街に改名した方がいいかな」
「確かに、人も建物も増えましたね」
「人は開拓の職人たち、建物は王都から来た商会たちのだけどな」
アナスタシア、ケインくんの商会だけじゃなく、王都からいくつもの商会が『ぜひ出店させてくれ』とあいさつに来た。発展するのはいいことなので、フローネに任せて出店させている。
ハドの村だけじゃなく、ギルハドレットの街も発展しているとか。
すると、商人と何かを話しながらケインくんが歩いて来た。後ろには護衛のマルセイくんもいる。
「あれ。ラスティスさんにエミネムじゃないですか」
「や、ケインくん。忙しそうだね」
「ええ、まあ……鉱山関係は落ち着いたんですけど、今度は出店関係で……ラスティスさん、どうやらギルハドレットは宝の山どころか、宝の海です……本当にとんでもないところだ」
「そ、そんなにかい?」
「ええ。実は……」
ケインくん、鉱山だけじゃなく、森や平原なども少しずつ調査をしていたらしい。
その結果、ギルハドレットには大きな湖や、薬草がいっぱい生えた大森林、よくわからん遺跡やダンジョンなど、調査に向かうたびに何かしらの発見があった。
ちなみに、ビンズイの『鳥』も調査協力している。おかげで、調査の速度は段違いとか。
「本当に、調査するたびに何かしら発見があります。正直、ボクとアナスタシアさんの商会だけじゃ手に負えなくて、信頼できる商会に声をかけたんですけど……どこからか情報が洩れて、いろんな商会が集まってきたんです。なんとか今は押さえていますし、フローネさん、ギルガさんに対応もしてもらっています……申し訳ございません。ボクのミスでこんな」
「いやいや、いいことだって。そもそも、俺がもっとまじめに開拓に手を出していれば、こんなことにはならなかったんだし」
ほんと、ダラダラしてないで真面目に開拓すればよかった。
すると、ケインくんの視線はエミネムへ。
「ああ、エミネム。ラスティスさんと稽古か? 悪いけど、今は領主の仕事が……」
「……今は休憩です。それと、私は秘書なので、お仕事も手伝いますから」
「秘書? お前、そんなことできるのか?」
「騎士団の第一部隊で、予算の算出や経理報告書などは私が書いていました。なので、問題はありません。ご心配なく」
「ふーん。まあいいや。すみませんラスティスさん、報告書、執務室に届けておきますんで」
「あ、ああ……」
つまり、また仕事が増えるってことだ。
ははは……マジで忙しいぞこれ。サティたちの修行、付き合えるかな。
「ボクも、しばらくはこちらに滞在します。どうやら、ボクの人生始まって以来、最高の大仕事になりそうですよ」
「そ、そうかい……頑張ってくれ」
「はい。あ、そうだ……ラスティスさん、アナスタシアさんに連絡取れないんですが、何かご存じですか?」
「アナスタシア? いや、知らんけど……あいつ、何かあったのかな」
特別任務とか受けたのかね? まあ、連絡取ってみるか。
◇◇◇◇◇◇
散歩を終え、執務室に戻って夕方まで仕事をした。
そして、夕飯を食べしばし休憩。
リビングでくつろいでいると、二階の階段からサティ、フルーレが降りてきた。
サティ、フルーレは言う。
「よし!! 師匠、お風呂行ってきます!!」
「別に言わんでもいいぞ。好きに行け」
「……覗かないでよ」
「見ない見ない。ほれほれ、行った行った」
サティ、フルーレが風呂へ。すると、エミネムが入れ替わるようにリビングに来た。
「ラスティス様。準備できました」
「よし、あいつら風呂行ったし……行くか」
「はい」
俺とエミネムは外に出る。
そして、屋敷の裏から続く道を通り村を出た。向かうのは屋敷から十五分ほど歩いた森。
森に入ると、やや開けた場所に来た。
「わあ……ここ、ラスティス様の修行場ですか?」
「ああ。ずっとここで訓練している。さて……やるか」
俺は『冥狼斬月』の柄に手を添える。
エミネムは、背負っていた包みを風の力で吹き飛ばす。
包みが外れ、中から六本の槍が現れた。
槍は回転しながら風によって浮かび、エミネムはそのうちの二本を両手でつかむ。
「六本の槍、そして四本を風で制御か……」
「ずっと考えていたんです。私の戦闘スタイル……風の力で物を浮かせることができるなら、槍を浮かべて手数を増やせるんじゃないかって」
「サティから聞いたけど、上級魔族戦で使ったんだって?」
「はい……でも、未熟なので通用しませんでした」
「でも、いいセンスだ」
四本の槍は、小さな竜巻によって真っすぐ浮かんでいる。エミネムは両手の槍を回転させ、俺に向かって突きつける。
「私は剣を捨て、槍を極めます。ラスティス様……お付き合い、願います!!」
「ああ、全力で───……殺すつもりで来い」
俺はエミネムに殺気を飛ばす。
エミネムは一瞬たじろいだが、すぐに気を引き締めた……以前だったら動けず、へたり込んでいただろうな。ちゃんと成長している。
「『旋風六槍流』───……参ります!!」
風が舞い、エミネムの槍が俺に向かって突き出された。
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