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3章(元)アークス国は占いの国
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ルドルクの叫びは誰にも理解されず、またルーベルト、ネムリンの二人の占いの続きが開始される。
「ラッキーアイテムはクッキーですね」
「クッキー?確かにあれはよく眠れたからな。ラッキーアイテムかもしれない」
「ら、ラヴィン公爵様、それは何か違う気がします」
「そうか?」
(意外に普通に話せてないか?この二人)
一人、国名について今だ悩んでいるルドルクは二人の様子を見て距離が縮まった気がしていた。それもそのはず、ルドルクは知らないのだ。この三度目の逢瀬のはずの二人がもう既に何度も会って少し打ち解けていることを。
ルーベルトは仕事の合間にほぼ毎日トワーニ家に通い、ネムリンと打ち解ける努力をしてきていた。たかが数分であり表情は相変わらずネムリンの前だと固くとも、さすがのネムリンもルーベルトの言葉が直球なのもあったが、毎回お花を渡され通いつめられたことにより自覚したわけだ。
『私もしかして、本当に好意を抱かれているのでしょうか?』と。その好意が恋や愛とまでは思わない辺りはネムリンの性格なだけあってまだまだ時間はかかりそうだ。
しかし、嫌われているわけでも嫌がらせをされているわけでもないと、疑う隙間もなくなるほど理解してからはネムリンは言葉に詰まろうがルーベルトと話すのに躊躇いはなくなるくらいにはなっていた。
相性が微妙と判断されたのはルーベルト次第でよくも悪くもなり、ネムリンがルーベルトに愛される存在であることを理解し自信を持つかどうかで変わるというもの。
どちらに転がってもおかしくないから相性微妙という占いは当たっているというべきだろう。
「よく眠れる………というのはよくわかりませんが、ラッキーアイテムのクッキーはただのクッキーじゃなく、トワーニ伯爵令嬢が作ったクッキーがいいようです」
「私の作ったクッキー………ですか?」
「ネムリンのクッキーなら次こそ俺もごちそうになりたい」
一人称が俺になる辺り、ネムリンとの打ち解け具合がわかるというもの。それよりも何故ネムリンの手作りクッキーがラッキーアイテムなのか、ネムリンも、それを耳にしていたルドルクも疑問が浮かぶ。ルーベルトはただ食べたいなと深くは考えていない。
ルーベルト自体ネムリンの手作りクッキーというだけで既に幸せなラッキーボーイだからだ。
「そのクッキーは世界を変えると出ています」
「世界を変える………?」
「ネムリン嬢のクッキーに一体何が………?」
「さすがだな」
「ルーベルト、いい加減ネムリン嬢を神化して見るのやめなよ。普通に疑問持とう?」
「神化………?」
「ネムリン嬢は気にしなくていいよ」
結局、二人の占いを黙って見られないルドルク。突っ込みどころがありすぎて国名についていじける時間さえ与えてもらえない。
ルドルクは理解している。ルーベルトがネムリンのことになるとバカになることを。それでも言わずにいられないのはルドルクの内に備わる不憫力がそうさせるのだろうか。
「取り合えずクッキーは何枚か持ち歩くのをおすすめします。何故かと聞かれるとそこまではわからないのですが………」
「う、占いでそうでるならそうします。でも大量となるとまた力がついちゃいます………はぁ」
「え?」
困ったようにため息をつくネムリンに疑問が宿るのはサギーシとルドルク。
「力がつく?クッキーを持つだけで?」
当然と言えば当然の疑問である。
「ネムリンの作ったクッキーは重いからな」
それに対して身を持って知っているルーベルトが疑問に答えたが………
「クッキーが………重い?」
当然理解できるはずもない。
「一枚で10キロくらいはある重さと感じた」
「意味がわからない」
ルドルクとそれを見守るサギーシがそれを聞いてひきつった顔になる。
「あ、惜しいです。9.9キロでした」
ルーベルトに対し、自分から言葉を出すのに慣れたネムリンからの訂正が入る。
「すまない、ネムリンのクッキーの重さを間違うとは………!」
心の底から懺悔するかのようにネムリンの前で珍しくルーベルトの表情が歪む。
「ねぇ、よくわからないけど訂正する必要あったかな?」
訂正の必要は絶対なかったと言わない辺りがルドルクの優しさか。
「ど、どんなクッキーかまでは存じませんが無事結婚したいと願うなら持ち歩くことがいいと占いの結果に出ています。後は互いを知ることでお二方はどんな困難も乗り越えられるでしょう。ひとつ注意するのは勘違いですかね」
埒があかないと感じたサギーシが会話の締めに入る。
「勘違い?」
なんだそれはとばかりに表情を歪めていたルーベルトがサギーシに訪ねる。
「どんなものかまでは占いではわかりませんが、勘違いを拗らせると幸せから遠退くと出ておりましたので」
「サギーシ、それ……僕は巻き込まれないよね?」
「…………では、お二方が幸せな結婚をできる未来をお祈りしております」
「サギーシ!?」
王家に仕えているはずのサギーシは、まるでルドルクの声が聞こえていないとばかりに去っていった。それが答えですと言わんばかりに…………。
「さっそくクッキーを作りに帰ります。その、ラヴィン公爵様お仕事、頑張ってください………。差し入れにクッキーまた持ってきますので」
「それは楽しみだ」
そんなルドルクを他所に、婚約者同士の二人の会話が響く。そんな中でルーベルトはネムリンの励ましに思わずふっと笑みが零れた。
「わら………」
「ネムリン?」
「い、いえ!ではまた後程!ラヴィン公爵様、殿下、失礼します!」
そのルーベルトの笑みに顔を真っ赤にさせて走り去るように帰るネムリン。この二人が両想いになる日は近いかもしれない。
後日、ネムリンの差し入れクッキーをもらったルーベルトだがいくら口に入れてもくだけないクッキーを食べることは叶わず皿に入れて飾ることにした。
それを見ていたルドルクの一言。
「食べられない無傷なクッキーは果たしてクッキーなのだろうか」
ネムリンの手作りクッキーの謎は深まるばかりである。
「ラッキーアイテムはクッキーですね」
「クッキー?確かにあれはよく眠れたからな。ラッキーアイテムかもしれない」
「ら、ラヴィン公爵様、それは何か違う気がします」
「そうか?」
(意外に普通に話せてないか?この二人)
一人、国名について今だ悩んでいるルドルクは二人の様子を見て距離が縮まった気がしていた。それもそのはず、ルドルクは知らないのだ。この三度目の逢瀬のはずの二人がもう既に何度も会って少し打ち解けていることを。
ルーベルトは仕事の合間にほぼ毎日トワーニ家に通い、ネムリンと打ち解ける努力をしてきていた。たかが数分であり表情は相変わらずネムリンの前だと固くとも、さすがのネムリンもルーベルトの言葉が直球なのもあったが、毎回お花を渡され通いつめられたことにより自覚したわけだ。
『私もしかして、本当に好意を抱かれているのでしょうか?』と。その好意が恋や愛とまでは思わない辺りはネムリンの性格なだけあってまだまだ時間はかかりそうだ。
しかし、嫌われているわけでも嫌がらせをされているわけでもないと、疑う隙間もなくなるほど理解してからはネムリンは言葉に詰まろうがルーベルトと話すのに躊躇いはなくなるくらいにはなっていた。
相性が微妙と判断されたのはルーベルト次第でよくも悪くもなり、ネムリンがルーベルトに愛される存在であることを理解し自信を持つかどうかで変わるというもの。
どちらに転がってもおかしくないから相性微妙という占いは当たっているというべきだろう。
「よく眠れる………というのはよくわかりませんが、ラッキーアイテムのクッキーはただのクッキーじゃなく、トワーニ伯爵令嬢が作ったクッキーがいいようです」
「私の作ったクッキー………ですか?」
「ネムリンのクッキーなら次こそ俺もごちそうになりたい」
一人称が俺になる辺り、ネムリンとの打ち解け具合がわかるというもの。それよりも何故ネムリンの手作りクッキーがラッキーアイテムなのか、ネムリンも、それを耳にしていたルドルクも疑問が浮かぶ。ルーベルトはただ食べたいなと深くは考えていない。
ルーベルト自体ネムリンの手作りクッキーというだけで既に幸せなラッキーボーイだからだ。
「そのクッキーは世界を変えると出ています」
「世界を変える………?」
「ネムリン嬢のクッキーに一体何が………?」
「さすがだな」
「ルーベルト、いい加減ネムリン嬢を神化して見るのやめなよ。普通に疑問持とう?」
「神化………?」
「ネムリン嬢は気にしなくていいよ」
結局、二人の占いを黙って見られないルドルク。突っ込みどころがありすぎて国名についていじける時間さえ与えてもらえない。
ルドルクは理解している。ルーベルトがネムリンのことになるとバカになることを。それでも言わずにいられないのはルドルクの内に備わる不憫力がそうさせるのだろうか。
「取り合えずクッキーは何枚か持ち歩くのをおすすめします。何故かと聞かれるとそこまではわからないのですが………」
「う、占いでそうでるならそうします。でも大量となるとまた力がついちゃいます………はぁ」
「え?」
困ったようにため息をつくネムリンに疑問が宿るのはサギーシとルドルク。
「力がつく?クッキーを持つだけで?」
当然と言えば当然の疑問である。
「ネムリンの作ったクッキーは重いからな」
それに対して身を持って知っているルーベルトが疑問に答えたが………
「クッキーが………重い?」
当然理解できるはずもない。
「一枚で10キロくらいはある重さと感じた」
「意味がわからない」
ルドルクとそれを見守るサギーシがそれを聞いてひきつった顔になる。
「あ、惜しいです。9.9キロでした」
ルーベルトに対し、自分から言葉を出すのに慣れたネムリンからの訂正が入る。
「すまない、ネムリンのクッキーの重さを間違うとは………!」
心の底から懺悔するかのようにネムリンの前で珍しくルーベルトの表情が歪む。
「ねぇ、よくわからないけど訂正する必要あったかな?」
訂正の必要は絶対なかったと言わない辺りがルドルクの優しさか。
「ど、どんなクッキーかまでは存じませんが無事結婚したいと願うなら持ち歩くことがいいと占いの結果に出ています。後は互いを知ることでお二方はどんな困難も乗り越えられるでしょう。ひとつ注意するのは勘違いですかね」
埒があかないと感じたサギーシが会話の締めに入る。
「勘違い?」
なんだそれはとばかりに表情を歪めていたルーベルトがサギーシに訪ねる。
「どんなものかまでは占いではわかりませんが、勘違いを拗らせると幸せから遠退くと出ておりましたので」
「サギーシ、それ……僕は巻き込まれないよね?」
「…………では、お二方が幸せな結婚をできる未来をお祈りしております」
「サギーシ!?」
王家に仕えているはずのサギーシは、まるでルドルクの声が聞こえていないとばかりに去っていった。それが答えですと言わんばかりに…………。
「さっそくクッキーを作りに帰ります。その、ラヴィン公爵様お仕事、頑張ってください………。差し入れにクッキーまた持ってきますので」
「それは楽しみだ」
そんなルドルクを他所に、婚約者同士の二人の会話が響く。そんな中でルーベルトはネムリンの励ましに思わずふっと笑みが零れた。
「わら………」
「ネムリン?」
「い、いえ!ではまた後程!ラヴィン公爵様、殿下、失礼します!」
そのルーベルトの笑みに顔を真っ赤にさせて走り去るように帰るネムリン。この二人が両想いになる日は近いかもしれない。
後日、ネムリンの差し入れクッキーをもらったルーベルトだがいくら口に入れてもくだけないクッキーを食べることは叶わず皿に入れて飾ることにした。
それを見ていたルドルクの一言。
「食べられない無傷なクッキーは果たしてクッキーなのだろうか」
ネムリンの手作りクッキーの謎は深まるばかりである。
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