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第4章 王立魔法学校一年目

290 王族って大変

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 物語の中に出てくるような薔薇のアーチを潜り抜けると程なく視界が開け、円状の広い場所に出る。王太子様とフェアレイ王子様は広場の中心で私達が来るのを待っていた。
 二人を見つけたフェアリス王女様はぱあっと顔を輝かせた。

「兄さま!レイっ!」
「お待ちなさいっ」

 眠たげだったフェアリス王女様の顔が一気に輝いた。フェアリス王女様は騎士様の腕の中からぴょんと飛び降りると、ラミエル王女様が呼びかける間もなく、二人に向かって駆け出した。

「もうっ、あの子ったら。ごめんなさいね」
「へ?」

 みんなのことが大好きなんだなぁと、フェアリス王女様の後姿をほっこりとした気分で見つめていたら、なぜだかラミエル王女様に謝られてしまった。
 謝ることなんてあったかなと首をかしげる私に、招待客を置いて先に行ってしまったことが問題なのだとラミエル王女様は話す。
 もてなす側が招待客をほったらかしにするなんてと本当に申し訳なさそうに謝るので、逆に恐縮してしまう。「気にしていない」と伝えれば、ラミエル王女様はほっとした様に顔をほころばせた。
 一方、フェアリス王女様は王太子様達の元にたどり着くと、そのままの勢いで王太子様に抱き着いた。王太子様は危なげなく王女様を受け止めた後、王女様に話しかけている。ここからでは何を話したのかはわからないけれど、フェアリス王女様がハッとした顔でこちらを振りむいたところを見ると、ラミエル王女様が私に言っていたようなことを王太子様に言われたみたいだ。私達がようやく追いついた時には、叱られてしょんぼりしているフェアリス王女様の頭をフェアレイ王子様がよしよしと撫でて慰めているところだった。
 「サラ、ごめんね」と眉を下げて謝るフェアリス王女様に、ラミエル王女様に行った時と同じように「気にしていない」と返す。
 よくできましたと言うように王太子様に頭を撫でられるフェアリス王女様を見て、王族って大変なんだなぁとしみじみと思った出来事だった。

「お茶会へようこそ、サラ」
「「ようこそ!」」
「ぜひ、楽しんでくださいね」
「ありがとうございます」
 
 落ち着いたところで、改めて本日のお茶会に招いてくれたことにお礼を述べる。お借りしたドレスは制服のスカートよりもボリュームがたっぷりなので、やや手間取りつつもなんとかカーテシーをすることができた。

「そのドレス、とても似合っているね。レイもそう思わないか?」
「うんっ」
「あ、ありがとうございます」

 王太子様とフェアレイ王子様から面と向かって褒められると、お世辞だとわかっていてもうれしくなる。

「二人もそう思うでしょう!なのに、ジークフリートったら一言もないのよ」

 ラミエル王女様はそう言って呆れたようにジークを見た。
 確かにジークはこの姿を最初に見た時、軽く目を見開いただけで、あとはいつも通りだ。驚いたように感じたのも私の気のせいだったかなと思うほどの落ち着きぶりに、ちょっと浮かれた気持ちでいた自分を恥ずかしく感じたほどだ。

 「職務中ですので」と答えるジークに、ラミエル王女様が「あなたは真面目すぎるのよ」と眉をひそめていたけれど、逆に私はなるほどと納得できた。
 よくよく考えてみれば、王太子様達がいる時にジークが話しかけてくることは一度もなかったもんね。

「…もういいわ」

 ラミエル王女様はまだまだ話したりなそうだったけれど、本来の目的であるお茶会を優先させたようだ。
 それにしても、ジークは王太子様だけでなく王女様達とも仲が良いみたいだ。
 王太子様とフェアレイ王子様は私達女性陣の椅子を引いてくれる。そんなことをされたのは初めてなので、すごく緊張したのだけれど、何とか粗相することなく椅子に座ることができた。
 テーブルにはサンドイッチのような軽食から、私が知っているようなお菓子や見たこともないお菓子まで並べられていて、とてもおいしそうだ。
 おいしそうな匂いに思わず生唾をごくりと飲み込んでしまう。

「どうぞ」

お菓子を凝視していると、目の前にお茶が差し出される。いつの間にかエンゲラさんがお茶を入れてくれていたようだ。そんなことにも気づかないほどに、お菓子に夢中になっていたのかと思うと、恥ずかしい。

「どうぞ召し上がれ」
「遠慮する必要はないからね」
「は、はい」

王太子様とラミエル王女様が微笑まし気にこちらを見ているのを見て、とりあえずお腹が鳴らなくて良かったと思った。
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