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08 異世界

知らない人の長話——不死鳥

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 最初の転移先は、巨大な大樹の目の前だった。

 それはわたしの何百倍も大きな幹。
 さっきまでいたビルよりも、遥かに大きかった。
 
 あまりにも巨大なので、それは幹というより壁みたいに見える。
 


「まずはそう、醤油のことからでいいかな?

 君も知っての通り、醤油は僕と共に同じ時を過ごす、君に受け入れやすく言うとなんだ。

 僕と共に何度も何度も転生を繰り返してる。
 永遠の輪廻に囚われてる。


 僕は醤油を必要としてる。

 僕の目的のために必要だし、醤油は僕が世界でたった1人、信頼できる味方だからね。


 なんで醤油が裏切らないのか、気になる?
 
 醤油が僕を裏切らない理由はいくつかあるんだけど、何よりも大きな理由は「裏切るだけ無駄で、疲れるから」ってことだ。

 裏切って僕を殺せば、自分も死ぬ。
 そして一緒に転生する。
 
 僕の大切なものを壊しても、いつかは忘れる。
 というかそんなことしなくたって僕は失う。

 僕がそれによって発狂しようが、僕は死なない。
 

 次の人生が始めるときには、いずれにしろ全てなくなる。
 

 どれだけ傷つこうと苦しもうと、また新しい生が始まるんだ。

 怒りもやがて時が癒し、憎しみも消えていく。
 だから多少気に入らないところがあっても、醤油は結局僕に忠実なんだよね。
 
 人間は嘘を吐くけど、嘘を考えるにも体力を使う。

 基本的には、ありのまま生きてた方が楽なんだ。
 醤油も同じだよ」



 大樹の幹は、少し触れただけでボロボロと崩れた。

 見上げると、普通の木と同じような緑の葉が見える。
 
 けれどそれは途中から空の色に変わり、そしてまるで青空みたいに真っ青に変わる。
 それは青い葉というよりは、透明の葉の向こうに空が見えていると言った方がいいのかもしれない。
 

 それは巨大な大樹と併せて、現実離れした不思議すぎる光景だった。
 
 足下のアスファルトとビル群と、まるで正反対。



「すると次に気になるのは僕の方でしょ。
 不死鳥という僕の種族。
 
 さっきも言った通り、僕は不死鳥の末裔。
 末裔というか、末端というか、生き残りというか、残り香というか。


 実は僕は、正確にはかつて『不死鳥』と呼ばれていた種族とは別の種族なんだ。

 だから『不死鳥モドキ』なんていうのがいれば、それが正解かもね。

 
 でもその『不死鳥』は全滅した。

 だから僕は『不死鳥モドキ』から『不死鳥』になったんだ」



 エナさんが大樹から離れて歩き始めたので、わたしもそれに従った。

 煙突もないのに、空は澄んでいる。
 この世界には、環境問題とかあるのかな。

 いや、そういえば深刻なエネルギー問題があったんだった。
 


「実は、不死鳥は不死鳥にしか殺せない。

 殺すっていうか、恐らく貪食どんしょくみたいなものだと思うんだけど、とにかく不死鳥って同族にしか殺されないし、使役されないっていう特性があるんだ。
 

 だから僕は誰にも殺されなかった。
 結構長い間、僕は死ななかった。

 でもあるとき、僕は死んでしまった。神様のせいだね。
 この世の理に外れた存在のせいだ」



 エナさんは歩きながら、話し続けている。
 その話し方は本当に淡々としていて、かなりの早足。

 そして、やっぱり街には小鳥一匹いなかった。


 
「でもね、僕は生き返った。
 転生した。君みたいに。

 いや、君は生まれたときから幼女だったと思うから、違うか。
 僕は普通に赤ん坊として生まれるからね。
 
 しかも、赤ん坊の頃から前世の、またはそれ以前の記憶があったわけじゃない。
 

 あ、いや、そのときだけじゃないな。
 僕、ほとんどの場合、何の記憶もないんだよね。特に幼い頃は。

 能力も不完全か、全く覚醒してない。

 
 あ、能力っていうのは不死鳥の能力のことね。

 僕って不老不死なの。しかも不死身の。

 だから記憶がなくても能力さえ覚醒させられれば、滅多なことでは死なないんだよ。


 でも、そうだな。

 だいたい15歳とか18歳、いや、12歳……10歳かな? 
 とにかく、早くても十代にしか能力って覚醒しないことがほとんどなんだよね。


 それでも確実ってわけじゃなくて、そのまま普通に何の覚醒も記憶もないまま、ごく普通の一般人として一生を終える可能性すらある。
 
 事実、記憶取り戻したときには、既に結婚してたとかいうこともあったし。

 能力を取り戻せば、姿形は今の姿に戻るから、現時点での年齢は関係なかったりするんだけど。
 

 そこで君に思い出して欲しいんだけど、僕ってやたらと人に嫌われるっていう才能があるじゃん?

 君は感じないみたいだけど、僕と相対する人ってかなり嫌な気分を感じるらしい。


 名前を聞くだけで殺意が湧いて、顔を見れば殺したくなる。
 
 ふと思い出す時でさえも、それは苦痛を伴う。
 視界に入れば、排除したくてたまらない。
 
 声も聞きたくない。気配を感じるだけでイライラする。

 そういう存在なんだ。


 そうなると、どうなると思う?

 何も知らない、記憶のない僕は、何も知らないまま周囲の人に虐待され続けるんだよ。

 ほとんどの場合、ロクな人生じゃない。
 まあ詳しくは言わないけどさ」



 エナさんは、おもむろに近くの建物に入った。
 そこには、さっき乗ってきた転移装置と同じものがたくさんあった。

「さ、行こっか」

 わたしは転移装置に踏み込んだ。

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