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借金1
しおりを挟む「借、金」
晴れた空が嫌味みたいだ。夕暮れに染まる邸へ帰ったアンリエッタを迎えたのは、いつも温かく迎えてくれる家族ではなく――いいや、確かにアンリエッタの家族なのだけれど――暗い顔でうなだれている両親と兄だった。
うちに借金ができた。それも莫大な額で、侯爵家の財産をすべてなげうっても賄いきれない借金だ、と告げられ、アンリエッタは驚きすぎて呆然とその言葉を繰り返すことしかできなかった。
「ああ、我が家は投資に失敗した。知り合いの伯爵が紹介してくれた投資先だったんだ……だが、新たな貿易先をと送り出した船が難破して、積み荷はおろか、乗組員も大勢失った」
父侯爵が青い顔で、アンリエッタを見つめる。
傍らに無造作に置かれた書類には、握りしめられた跡があった。アンリエッタは書類を手に取って、内容に目を走らせる。
「船が粗悪なものだったらしい。古い、もう誰も手入れしていない船を、外装ばかりよくした船で。紹介してくれた伯爵に相談もしたんだ。だが、伯爵はなにも知らないと私を見捨てた……」
「あなた……」
「爵位を返上することはできない。今我が家がなくなれば、領地の民は路頭に迷うだろう。新しい港を作ると言って働かせておいて、その賃金を払われる当てがないんだ」
アンリエッタは借金の契約書の、とある一文に目をとめて息を呑んだ。母が床に頽れる。オメガである母は体が弱い。早くベッドに連れて行かなければならないかもしれない。
「私を信頼してくれる民は、畑までつぶして、港にする土地を作ってくれたのに……。そんな彼らに、申し訳が立たない」
「それで、オーク様、ですか……」
アンリエッタは契約書の相手の欄に書かれた名前を読み上げた。
ルドルフ・オーク。オーク商会の会頭で、フレッド・オークの父。
契約書には、アンリエッタとの婚姻と引き換えに。借金を帳消しにするほどの融資をしようという旨が書かれていた。父が、アンリエッタが今読んだ部分の内容を口にする。
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