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夢のあと
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深い暗がりから意識が浮上して、瞼が自然と持ち上がる。目を覚ました真山は薄明るい寝室にいた。
ベッドサイドではルームランプが変わらず柔らかな光を放っていた。
どれくらい桐野に抱かれていたのかわからないが、何度も意識を攫っていった嵐のような熱はすっかり落ち着いていた。
身体の中で渦を巻いていた熱がなくなった代わりに、全身には重たい倦怠感がまとわりついている。
ろくに身体を動かせそうになくて、真山は頭だけ動かして部屋を見回した。
閉ざされたカーテンの向こうからは薄明かりが漏れている。どうやら今は朝のようだった。
背中には布団とは違う濃い温もりがあって、すぐに桐野のものだとわかった。真山は桐野に後ろから抱きしめられていた。隙間なくくっついた桐野の温もりが心地好く真山を包んでいる。
散々愛された後だというのに、こうやって身体を寄り添わせているだけで胸が暖かくなる。真山は頬を緩め、自分を抱きしめる腕をそっと撫でた。
「ん、慎くん?」
それで目を覚ましたのか、桐野は真山を抱き寄せて項に鼻先を擦り付ける。甘えるような桐野の声に笑みが零れた。
「そ、いちさん」
声が掠れて、少しだけ喉が痛む。散々啼かされたのを思い出して体温が上がった。
こうやって裸で抱き合う前は獣のように快感を貪り合っていたのが嘘のように、部屋には穏やかな空気が流れている。
「おはよう。飲み物を持ってこようか。慎くんはここにいてくれ」
桐野の身体が離れて、間に空気が流れてくるのが少し寂しい。
桐野は身体を起こすとベッドを降りて寝室を出ていった。
ベッドに残された真山は布団にくるまったまま、おそるおそる項に触れる。まだ淡く熱の残るそこには、生々しい歯型が僅かな痛みとともに残っていた。
桐野が真山にくれた証だ。
これからずっと残るであろう噛み跡がそこにあることが嬉しかった。
散々胎に注がれた熱はもうすっかり真山の体温と馴染んでいる。これも後で掻き出さないといけないのかと思うと少し寂しくて、真山はうっすらと張った腹を撫でた。
腹には散々吐き出した精液が乾いてこびりついている。残滓で汚れた身体は、桐野に抱かれたあの時間が夢ではなかったと、何より饒舌に物語っていた。抱かれていた間のことを思い出して、去ったはずの熱が戻ってくる気がする。
自分の身体から桐野の匂いがするのは、ずっと身体をくっつけていたからだろう。嬉しくてため息が漏れた。
「慎くん」
穏やかな声に呼ばれて顔を上げる。桐野がスポーツドリンクとミネラルウォーターのボトルを持って戻ってきた。
「痛いところはないか」
ベッドに乗り上げた桐野が真山の顔を覗き込む。
「うん」
「その、お腹も……?」
うっすらと張った真山の腹を、布団の上から労るように桐野が撫でる。
「うん」
「よかった」
「飲ませて、そーいちさん」
真山が手を伸ばして誘うと、桐野は口移しでスポーツドリンクとミネラルウォーターを交互に飲ませてくれた。
欲しがるまま何度も水分を与えてくれる桐野にたっぷり甘えると、痛みを感じるくらいに渇いた喉もすっかり潤った。
濡れた唇を拭ってくれる桐野の指先は優しい。
「ありがと」
うっとりと蕩けた真山の顔を桐野がまじまじと覗き込んだ。
「慎くん、オメガになったかもしれない」
「っえ、まじ、で?」
突然の桐野の言葉に、真山は思わず上擦った声を上げた。自分では何か変わったかと言われても何もわからない。
「今、離れてみてわかった。慎くんからいい匂いがする」
桐野にそう言われても、自分では何か匂いがしているのかわからなかった。オメガのフェロモンというやつだろうか。
「そう、なの?」
「ああ、自分ではわからないか」
桐野は真山に覆い被さると、首筋に鼻先を埋める。
桐野の温もりが濃くなって真山は慌てた。静かな吐息が首筋を撫でていくので、くすぐったい。
「そーいちさん?」
「すごく、いい匂いなんだ」
「ふふ、そんなに?」
「ああ。ずっとこうしていたい」
桐野は甘えるみたいにずっと鼻先を真山の首筋に擦り付けている。
それがなんだかかわいくて、真山は柔らかな桐野の髪を撫でる。
「そーいちさん、どれくらいしてたの」
時間の感覚は早くになくなってしまって、真山にはどれくらいの時間が経っているのかわからなかった。
「ん、四日、だな」
桐野がこともなげに言った日数に、真山は目を見開いた。
「よっ、か?」
二日くらいは記憶があるが、他はもう曖昧だった。散々桐野に抱かれ、啼かされ、甘い言葉を吹き込まれたのを思い出して頬が熱くなる。
未だ濃く残る重たい倦怠感も、桐野に愛された証だと思えばその重みも少しだけ軽くなった。
「お腹、減らないか?」
「ん、減った」
四日も食べていなければ、当たり前ながら胃は空っぽだ。さっき飲んだ水分のおかげで少しだけ胃も目を覚ましたようだった。
「お粥でも用意しようか」
「ありがと」
桐野は頭を優しく撫でてくれる。
「起きられるようになったら、検査に行こう」
「検査?」
「慎くんがオメガになってるか、検査する」
「っえ」
何か痛いことや恥ずかしいことをされるのではないかと身構えた真山に、桐野は眉を下げた笑みを返した。
「僕の知り合いの医者がいるんだ。大丈夫。怖いことはしないよ」
宥めるように言われて、真山は身体の力を抜いた。
桐野にあれこれと世話を焼かれ、真山がなんとかベッドから起き出したのは昼になってからだった。
ベッドサイドではルームランプが変わらず柔らかな光を放っていた。
どれくらい桐野に抱かれていたのかわからないが、何度も意識を攫っていった嵐のような熱はすっかり落ち着いていた。
身体の中で渦を巻いていた熱がなくなった代わりに、全身には重たい倦怠感がまとわりついている。
ろくに身体を動かせそうになくて、真山は頭だけ動かして部屋を見回した。
閉ざされたカーテンの向こうからは薄明かりが漏れている。どうやら今は朝のようだった。
背中には布団とは違う濃い温もりがあって、すぐに桐野のものだとわかった。真山は桐野に後ろから抱きしめられていた。隙間なくくっついた桐野の温もりが心地好く真山を包んでいる。
散々愛された後だというのに、こうやって身体を寄り添わせているだけで胸が暖かくなる。真山は頬を緩め、自分を抱きしめる腕をそっと撫でた。
「ん、慎くん?」
それで目を覚ましたのか、桐野は真山を抱き寄せて項に鼻先を擦り付ける。甘えるような桐野の声に笑みが零れた。
「そ、いちさん」
声が掠れて、少しだけ喉が痛む。散々啼かされたのを思い出して体温が上がった。
こうやって裸で抱き合う前は獣のように快感を貪り合っていたのが嘘のように、部屋には穏やかな空気が流れている。
「おはよう。飲み物を持ってこようか。慎くんはここにいてくれ」
桐野の身体が離れて、間に空気が流れてくるのが少し寂しい。
桐野は身体を起こすとベッドを降りて寝室を出ていった。
ベッドに残された真山は布団にくるまったまま、おそるおそる項に触れる。まだ淡く熱の残るそこには、生々しい歯型が僅かな痛みとともに残っていた。
桐野が真山にくれた証だ。
これからずっと残るであろう噛み跡がそこにあることが嬉しかった。
散々胎に注がれた熱はもうすっかり真山の体温と馴染んでいる。これも後で掻き出さないといけないのかと思うと少し寂しくて、真山はうっすらと張った腹を撫でた。
腹には散々吐き出した精液が乾いてこびりついている。残滓で汚れた身体は、桐野に抱かれたあの時間が夢ではなかったと、何より饒舌に物語っていた。抱かれていた間のことを思い出して、去ったはずの熱が戻ってくる気がする。
自分の身体から桐野の匂いがするのは、ずっと身体をくっつけていたからだろう。嬉しくてため息が漏れた。
「慎くん」
穏やかな声に呼ばれて顔を上げる。桐野がスポーツドリンクとミネラルウォーターのボトルを持って戻ってきた。
「痛いところはないか」
ベッドに乗り上げた桐野が真山の顔を覗き込む。
「うん」
「その、お腹も……?」
うっすらと張った真山の腹を、布団の上から労るように桐野が撫でる。
「うん」
「よかった」
「飲ませて、そーいちさん」
真山が手を伸ばして誘うと、桐野は口移しでスポーツドリンクとミネラルウォーターを交互に飲ませてくれた。
欲しがるまま何度も水分を与えてくれる桐野にたっぷり甘えると、痛みを感じるくらいに渇いた喉もすっかり潤った。
濡れた唇を拭ってくれる桐野の指先は優しい。
「ありがと」
うっとりと蕩けた真山の顔を桐野がまじまじと覗き込んだ。
「慎くん、オメガになったかもしれない」
「っえ、まじ、で?」
突然の桐野の言葉に、真山は思わず上擦った声を上げた。自分では何か変わったかと言われても何もわからない。
「今、離れてみてわかった。慎くんからいい匂いがする」
桐野にそう言われても、自分では何か匂いがしているのかわからなかった。オメガのフェロモンというやつだろうか。
「そう、なの?」
「ああ、自分ではわからないか」
桐野は真山に覆い被さると、首筋に鼻先を埋める。
桐野の温もりが濃くなって真山は慌てた。静かな吐息が首筋を撫でていくので、くすぐったい。
「そーいちさん?」
「すごく、いい匂いなんだ」
「ふふ、そんなに?」
「ああ。ずっとこうしていたい」
桐野は甘えるみたいにずっと鼻先を真山の首筋に擦り付けている。
それがなんだかかわいくて、真山は柔らかな桐野の髪を撫でる。
「そーいちさん、どれくらいしてたの」
時間の感覚は早くになくなってしまって、真山にはどれくらいの時間が経っているのかわからなかった。
「ん、四日、だな」
桐野がこともなげに言った日数に、真山は目を見開いた。
「よっ、か?」
二日くらいは記憶があるが、他はもう曖昧だった。散々桐野に抱かれ、啼かされ、甘い言葉を吹き込まれたのを思い出して頬が熱くなる。
未だ濃く残る重たい倦怠感も、桐野に愛された証だと思えばその重みも少しだけ軽くなった。
「お腹、減らないか?」
「ん、減った」
四日も食べていなければ、当たり前ながら胃は空っぽだ。さっき飲んだ水分のおかげで少しだけ胃も目を覚ましたようだった。
「お粥でも用意しようか」
「ありがと」
桐野は頭を優しく撫でてくれる。
「起きられるようになったら、検査に行こう」
「検査?」
「慎くんがオメガになってるか、検査する」
「っえ」
何か痛いことや恥ずかしいことをされるのではないかと身構えた真山に、桐野は眉を下げた笑みを返した。
「僕の知り合いの医者がいるんだ。大丈夫。怖いことはしないよ」
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