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病院
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起き出した真山が桐野の車で連れてこられたのは、大きな病院だった。
数日引きこもっていた真山には久々の外出だ。まだ身体が怠いのと首周りの痕が目立つので、オーバーサイズのプルオーバーパーカーにスウェットパンツ姿だった。桐野も今日はスーツではなく、カットソーに細身のパンツを合わせ、ジャケットを羽織った姿だった。
それでいきなり大病院に連れてこられて、車から降りた真山は呆然と目の前に聳える建物を見上げた。
「は、なに、ここ」
真山は滅多に風邪もひかないので、しばらく病院には世話になっていない。世話になったことがあるのは町医者くらいで、こんな大きな病院に来たことなどなかった。
「僕の知り合いがいる病院だ。予約は取れてる。行こうか」
桐野はいつの間にか予約を取っていたらしい。社長なら大病院に医者の知り合いがいても不思議じゃないと思いながら、真山は桐野に手を引かれるままエントランスへと連れられていった。
大病院に連れてこられてしまった真山は緊張していた。病院にマイナスのイメージがあるわけではないが、広くて綺麗な内装になんとなく尻込みしてしまう。
桐野に連れられて二階のカウンターで受付をした真山は、待合室で少し待った後、診察室に通された。
そこにいたのは、桐野よりもいくらか年上に見える男性医師だった。
短髪の黒髪に精悍な顔立ち。体格の良い男性医師は明らかにアルファだった。白衣の胸には最上と名札が出ている
「最上先生、真山くんです」
桐野が真山を紹介する。知り合いの医者とは彼のことらしく、どうやら桐野と最上は顔馴染みのようだった。
「お、君が宗一の恋人くん?」
「……はい」
優しそうだが随分と馴れ馴れしい最上という医師に、真山は声を硬くした。
警戒心を露わにする真山に気がついた桐野は、慌てて真山を宥めた。
「すまない、慎くん。最上先生は僕の古い馴染みで」
「っえ」
「すまない、宗一の兄の親友なんだ。宗一から話を聞いてたもんでつい」
最上は苦笑いして柔らかな声で言った。
それならこんな馴染みのような話し方なのも頷ける。まさかそんな親しい関係だと思っていなかった真山はようやく納得した。
「僕が宗一にモン・プレシューを紹介したんだ」
言われて真山はなるほどと思った。最上のおかげで真山は桐野に出会えたのだ。
「その節はありがとうございます」
真山は思わず頭を下げていた。最上が桐野にモン・プレシューを紹介してくれなければ、真山は桐野に出会うことはできなかった。
「はは、まさか宗一がアルファを捕まえるとは思ってなかったけどね」
真山が顔を上げると、最上は優しく笑った。
それは俺が言いくるめたからですと喉まで出かかってなんとか言葉を呑み込んだ。
「真山くんがいい子そうでよかった」
何も知らない最上にそう言われてしまうと、なんだか申し訳ないような気持ちになった。
そんな真山の様子には気付いていない最上は桐野に視線を向ける。
「宗一、ビッチングをしたのか」
耳慣れない言葉に真山は首を傾げる。あれはそう言う名前だったのかと真山は思う。
「はい」
桐野の答えを待って、最上は真山に向き直る。
「真山くん、ちょっと失礼。項を見せて」
「あ、はい」
真山は椅子を回転させて背を向ける。パーカーのフードを押し下げて項を出す。首周りには赤い痕が残っているので気まずかったが、最上は気にする様子はなかった。
最上の指先が触れただけで、疼くような痛みが走って真山は思わず声を上げた。
「っい!」
「あぁ、すまない、傷はもう塞がってるね」
最上はすぐに手を離してくれた。
「念のため消毒をしておこうか」
消毒液に浸されたピンク色の丸い綿で噛み跡を消毒される。ひやりと濡れる感触があって、少しだけ沁みて痛みはあったが、すぐに治まった。
「しっかり噛んであるから、これは問題ないだろう」
最上の穏やかな声を聴きながら、真山は自分から見えないその場所に、間違いなく証があることを噛み締める。
「じゃあ真山くん、血液検査と腹部エコー検査をするから、血液検査が終わったら戻ってきてくれるかな」
椅子を回して最上に向き直った真山はクリアファイルに入った書類を渡された。どうやらこれを持って採血に行けということのようだった。
「僕は」
「宗一はここで待っていてくれ」
桐野を診察室で待たせたまま、真山は看護師に案内されて別室で採血をした。採血も慣れないので少し緊張した。採血はすぐに終わり、真山は先ほどの最上のいる診察室に戻った。
数日引きこもっていた真山には久々の外出だ。まだ身体が怠いのと首周りの痕が目立つので、オーバーサイズのプルオーバーパーカーにスウェットパンツ姿だった。桐野も今日はスーツではなく、カットソーに細身のパンツを合わせ、ジャケットを羽織った姿だった。
それでいきなり大病院に連れてこられて、車から降りた真山は呆然と目の前に聳える建物を見上げた。
「は、なに、ここ」
真山は滅多に風邪もひかないので、しばらく病院には世話になっていない。世話になったことがあるのは町医者くらいで、こんな大きな病院に来たことなどなかった。
「僕の知り合いがいる病院だ。予約は取れてる。行こうか」
桐野はいつの間にか予約を取っていたらしい。社長なら大病院に医者の知り合いがいても不思議じゃないと思いながら、真山は桐野に手を引かれるままエントランスへと連れられていった。
大病院に連れてこられてしまった真山は緊張していた。病院にマイナスのイメージがあるわけではないが、広くて綺麗な内装になんとなく尻込みしてしまう。
桐野に連れられて二階のカウンターで受付をした真山は、待合室で少し待った後、診察室に通された。
そこにいたのは、桐野よりもいくらか年上に見える男性医師だった。
短髪の黒髪に精悍な顔立ち。体格の良い男性医師は明らかにアルファだった。白衣の胸には最上と名札が出ている
「最上先生、真山くんです」
桐野が真山を紹介する。知り合いの医者とは彼のことらしく、どうやら桐野と最上は顔馴染みのようだった。
「お、君が宗一の恋人くん?」
「……はい」
優しそうだが随分と馴れ馴れしい最上という医師に、真山は声を硬くした。
警戒心を露わにする真山に気がついた桐野は、慌てて真山を宥めた。
「すまない、慎くん。最上先生は僕の古い馴染みで」
「っえ」
「すまない、宗一の兄の親友なんだ。宗一から話を聞いてたもんでつい」
最上は苦笑いして柔らかな声で言った。
それならこんな馴染みのような話し方なのも頷ける。まさかそんな親しい関係だと思っていなかった真山はようやく納得した。
「僕が宗一にモン・プレシューを紹介したんだ」
言われて真山はなるほどと思った。最上のおかげで真山は桐野に出会えたのだ。
「その節はありがとうございます」
真山は思わず頭を下げていた。最上が桐野にモン・プレシューを紹介してくれなければ、真山は桐野に出会うことはできなかった。
「はは、まさか宗一がアルファを捕まえるとは思ってなかったけどね」
真山が顔を上げると、最上は優しく笑った。
それは俺が言いくるめたからですと喉まで出かかってなんとか言葉を呑み込んだ。
「真山くんがいい子そうでよかった」
何も知らない最上にそう言われてしまうと、なんだか申し訳ないような気持ちになった。
そんな真山の様子には気付いていない最上は桐野に視線を向ける。
「宗一、ビッチングをしたのか」
耳慣れない言葉に真山は首を傾げる。あれはそう言う名前だったのかと真山は思う。
「はい」
桐野の答えを待って、最上は真山に向き直る。
「真山くん、ちょっと失礼。項を見せて」
「あ、はい」
真山は椅子を回転させて背を向ける。パーカーのフードを押し下げて項を出す。首周りには赤い痕が残っているので気まずかったが、最上は気にする様子はなかった。
最上の指先が触れただけで、疼くような痛みが走って真山は思わず声を上げた。
「っい!」
「あぁ、すまない、傷はもう塞がってるね」
最上はすぐに手を離してくれた。
「念のため消毒をしておこうか」
消毒液に浸されたピンク色の丸い綿で噛み跡を消毒される。ひやりと濡れる感触があって、少しだけ沁みて痛みはあったが、すぐに治まった。
「しっかり噛んであるから、これは問題ないだろう」
最上の穏やかな声を聴きながら、真山は自分から見えないその場所に、間違いなく証があることを噛み締める。
「じゃあ真山くん、血液検査と腹部エコー検査をするから、血液検査が終わったら戻ってきてくれるかな」
椅子を回して最上に向き直った真山はクリアファイルに入った書類を渡された。どうやらこれを持って採血に行けということのようだった。
「僕は」
「宗一はここで待っていてくれ」
桐野を診察室で待たせたまま、真山は看護師に案内されて別室で採血をした。採血も慣れないので少し緊張した。採血はすぐに終わり、真山は先ほどの最上のいる診察室に戻った。
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