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5.ただの後輩君のはずなのに(前編)

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 私は悩んでいた。相良が思いのほかちゃんとデートできていたことに、だ。

 私はてっきり、おずおずしてたり、自分の意見をはっきり言わなかったり、気が利くことが言えなかったり、とにかく、「THE 女の子慣れしていない理系男子です!」っていう感じだと思っていたのだ。少なくとも学生時代の相良はそういうイメージだったから、私の中での相良のイメージがそこで止まっていることに気が付いた。

 しかし、さりげなくランチはご馳走できるし、先輩の私が楽しめそうなお店にも付き合ってくれたし、ちゃんと歩くときも車道側を歩いてくれたし、手・・・・・・手も繋ぎたいなんて言って来ちゃって、ちょっとときめいちゃったし、とにかく全く何も問題がなさそうに思えるのだ。

 今までの相良の元彼女に聞いて回りたい。うちの相良、何がダメでしたか?と。

 私1人では限界があると思い、私はハルカに応援を頼むことにした。さっそくSNSのアプリを開き、ハルカとのトークを開始する。

 まずは先日相良とデートしたことを報告。そして相良にはダメなところが見つからなかったことも伝える。さすがに恥ずかしいので手を繋いだことと、名前で呼ばれたことは言えなかった。

 ハルカからは『デートしたんだ~?』というからかいのトークがすぐに届いた。ニマニマしている顔が浮かぶ。

 『実は相良、酒癖悪いとか?』
 学生時代飲んだ時の思い出では、そんなに酒癖が悪い感じはしなかったが、あくまであれは先輩と飲んでいるからセーブしていたのではないか、ということか。なるほど。

 『それとも・・・夜の方になにか問題があるのかも~?リコ、確かめてみれば~?』
 
 「ってそんなわけいくかー!!」と、思わず1人でスマートフォンを見ながら声に出してしまった。

  でも、もし万が一その可能性で今までの彼女となかなかうまくいかなかったというのであれば、私にできることはもうない。相良には「悪い所なんかない、今までの人は運命の相手じゃなかっただけだよ」としか言いようが無くなる。

 でもそれじゃ、相良は自分の運命の人に出会うまでこの先もずっと悲しい思いをし続けなければならないのだろうか?あんなにいい子なのに。相良にはどうにか幸せになってもらいたいという気持ちでいっぱいになっていた。


 ♢♢♢

 「いらっしゃいませ」

 「あ、待ち合わせをしておりまして。20時から予約の相良です」

 「相良様ですね、お待ちしておりました」

 今日は金曜日。会社帰りに相良と1杯飲む約束をしていた。
 お店は相良が予約してくれていた。比較的リーズナブルな割烹料理屋さんだった。

 相良に会うのは、あのデートから2週間後だった。先週はお互い仕事や先約の都合で約束ができなかったのだ。

 通された扉を店員さんに開けていただくと、そこに相良が扉を背にして座っていた。

 「お待たせ~!ごめんごめん」

 「・・・・・・あ、先輩。お疲れ様です。」

 相良がスマートフォンから顔を上げる。
 
 私は相良の私の呼び方が「先輩」に戻っているのを少し残念な気持ちで受け止めた。ん?残念ってなんでだろ?と一瞬自分の気持ちに戸惑ったが、そこはそれ以上気にしないことにして、最初のビールを注文した。

 私達は適当におばんざい盛り合わせや出し巻き玉子、イカの一夜干しなどを頼む。

 「で、さ~?この間の、その、デートの感想なんだけど、さ?」

 自分は一体何様のつもりで相良のデートの感想なんて伝えようとしてるのだろうかと思いつつ、でもお酒が入るよりは先に伝えておかねばならぬと自分を奮い立たせた。

 「正直、すごく良かった。あのー・・・・・・全く問題ないと思ったんだよね、前回。」

 私はお通しで出されたホウレンソウのお浸しをつまみながら相良に先日のデートの感想を伝えてみた。

 「だからその、なんだろ、今までうまくいかなかったのって、本当にただ単に相性よくなかっただけっていうか。運命の相手じゃなかったっていうか?そんな感じなんじゃないかな」

 「・・・・・・運命の相手」

 相良がポツリと呟く。 

 「そうそう、だって私は相良といてすっごく楽しかったし!」

 「・・・・・・そう、ですか」

 相良はほんの少し嬉しそうに口角をあげたが、すぐにじっと考えるように目線を下げてしまった。

  「まーまー、ほらほら、またきっといい出会いあるって!お互いがんばろーよ!ね!」

 私はなるべく明るい声で相良を応援してみた。相良は目線を上げて、私を見てにこっと笑ってくれた。

 その後も数杯飲んだ私たちはいい感じにほろ酔いになっていた。ちゃんと歩けるし、ちゃんと話もできるけど、頭の中はフワフワしてる感じ。

 金曜日の夜の池袋は人が多く、普通に歩いていたのに人にぶつかってしまいそうだった。

 「・・・・・・先輩、危ないですよ」

 相良が私の隣に立って、ぎゅっと私の肩を抱き寄せてくれた。

 「あああああ、ありがとう、相良!」

 「・・・・・・先輩、地下鉄ですよね?改札まで送って行きますよ」

 相良はそう言うと地下鉄の方に向かってさりげなく歩きだしてくれた。さっき抱きしめてくれた肩はもう解放されていて、なんだか少し物足りない。

 「・・・・・・あれ、なんでだろう、地下鉄の方から人が出てくるんですけど・・・・・・。」

 地下鉄に乗るためにエスカレーターで下っていた私達だが、どうもその地下鉄の改札口から人がたくさん降りて来る。

 相良がスマートフォンをいじるとすぐに「・・・・・・あ、リコ先輩、地下鉄、故障があったみたいで運転再開の目途がたってないって出てますよ」と教えてくれた。

 私の住む駅は、地下鉄を乗り継いで行くのだが、この路線が使えないとなるとかなり遠回りをして乗り継ぎの駅まで行かなければならないことになる。

 今は夜の22時半、終電にはならないけれど、ぎゅうぎゅうの電車を遠回りして帰るのは少しだけ大変だな、と落ち込んだ。

 「・・・・・・先輩、少しウチ寄って行きます?」

 「えっ!な、なんで」

 「・・・・・・故障って言っても、案外30分もすれば動くかもしれないじゃないですか。僕の家、実は池袋なんです。電車動いたってネットで見たらすぐ戻って来れますし」

 相良のお家に呼ばれてしまったが、ここで断ったら「何意識してるんですか」って思われてしまうだろうか、でもそんな、後輩とはいえ男性の部屋に行くなんて・・・・・・!という心の葛藤があったものの、結局相良の部屋を見てみたいという気持ちが勝ってしまって、ちょっとだけお邪魔することにしてしまった。

 
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