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第2章……迷宮都市編

29話……いざ迷宮

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「じゃあ行きましょうか。隊列は先頭にアンナとソフィア、中衛があたしとサーシャちゃん、殿にクリードで進むわよ」

 殿か……後方警戒だな!

「サーシャちゃんは光源お願い、ここは明るいけどこの先は真っ暗だからね」
「わかりました、任せてください!」

 隊列を組みリンの指示で進むこと数分、迷宮に入って初めての魔物を発見した。当然発見したのはウルトだ。
 サーシャが魔法で照らしてくれているがやはり遠くまでは見通せないのでウルトの【生命感知】の恩恵は計り知れない。

 現れた魔物は短い角の生えたウサギだった。

「ふっ!」

 接敵したと同時にソフィアの突きで終了、実に呆気ない。

「角ウサギね、クリードこのまま収納して貰える?」
「いいけどこれ売れるの?」
「えぇ、討伐証明部位の角は使い道ほとんど無いから売れないけど皮と肉は売れるのよ」
「ふーん、わかった」
「ちなみに迷宮では討伐系の常設依頼は無いからね。素材と魔石の買取だけよ」
「そうなんだ……わかったよ」

 隊列を組んだまま進みウサギの近くに来たらウルトの能力で積み込んで進む。
 いちいち立ち止まらなくていいのでとても楽だ。

『前方より生命反応、数は2、先程と同じ角ウサギです』
「了解!」

 ウルトの感知範囲にまたしても魔物が入った。

『距離200……150……100……50……』

 50メートルまで迫ってきたのでソフィアが槍を構え待ち構える。

 角を突き出して突進してくる角ウサギをあっさりと撃破して回収。簡単なお仕事だ。

「これくらいならレベル1桁の新人でも問題無さそうですね」
「まぁ1階層はお試しみたいなものらしいし……本番は2階層からかしらね?」

 前でサーシャとリンが会話しているが確かに角ウサギは弱そうだ。
 ゴブリンの方がまだ強いと思う。

 そのまましばらく角ウサギを倒しながら2時間ほど進むと大きな扉を発見した。

「ここが1階層のボス部屋ね。ボスを倒すと次の階層への扉が開くらしいわよ」
「不思議ですねぇ……」

 ファンタジー小説を読んでいるとよくある設定ではあるけど、実際に目の当たりにすると不思議なものだ。
 倒さずに奥の扉にたどり着いても開かないと言うのだからどういう仕組みなんだろう?

「中に入ったらまずあたしが先制するから。魔法が消えたらソフィア、クリードは突撃、アンナはあたしとサーシャちゃんの護衛。いい?」

 リンがそう言うと、全員が頷いたのでアンナが扉に手をかけて押し開く。
 中に入ってみると、ここまで真っ暗だったのにこの部屋だけは明るかった。
 中で待ち構えていたのは今までにも倒してきた角ウサギが5匹、それよりも一回り体の大きい角ウサギが1匹だった。

「行くわよ!」

 リンがそう叫び杖を掲げると拳大の岩が6つ出現、ウサギたちに向かってすごい速さで飛んで行った。

 岩は全てウサギに直撃、俺たちは何もすることなく5秒でボス戦が終了してしまった。

「あら……1匹くらい避けるかと思ったんだけど……」

 魔法を放ったリンも驚いているようだ。
 角ウサギは思っていたよりはるかに弱かったんだな……

「先に進みましょう」

 改めて隊列を組み直して奥の扉へ向かう。

「クリード、これは売り物にならないから魔石の回収だけでいいわよ」
「だろうね。ぐっちゃぐちゃだもの」

 リンの魔法が直撃したウサギは見るも無惨な状態だった。

「そういえばこれは燃やさなくていいの?」
「大丈夫よ。迷宮には掃除屋が居るから放っておけばそのうち片付けてくれるのよ」
「掃除屋?」

 そんな便利なのが居るのか、興味深いな。

「ほらあそこ、見える?」

 リンの指差す方向を見るが誰かが居るようには見えない。

「どこ?」
「あそこよ、スライムが染み出して来てるのが見えない?」

 スライム?
 目を凝らして見てみると、半透明のゼリー状の物体が壁から染み出して来る姿を発見することが出来た。

「あれが迷宮の掃除屋よ。こっちから攻撃しない限り襲ってこないから放っておいていいわよ」

 スライムが掃除屋……ってことは溶かして消化するってことか。
 見てみたい気持ちもあるけど半透明だと溶ける姿バッチリ見えそうでグロそうだから止めておこう。

 ウサギもスライムも無視して奥の扉へ。
 ボスを倒したことにより扉が開くようになっているので押し開けて潜るとそこは体育館くらいの広さの部屋だった。
 ボス部屋と同じようにここも明るい。

「ここが安全地帯ね、ボス部屋の奥の部屋は魔物が一切出現しないそうよ」
「迷宮内にはそんな場所もあるのですね」
「これ、戻る時またボスと戦うんスか?」
「いいえ、安全地帯側から扉を潜るとボス部屋を経由せずそのまま階層側の扉に通じてるの。どうしてそうなるのかは分かってないからそういうものだと覚えておいて」
「へぇ……不思議ッスねぇ……」

 実に不思議だが解明されてないのか……

「さて、みんな休憩は必要?」
「私は大丈夫です」
「自分も問題無いッスよ」

 主に戦っていた前衛2人が必要無いというのでそのまま進むことにした。
 これで1階層クリアだ。


 ~リバーク迷宮第2階層~

 2階層も地図があるので迷うことは無い。
 サクサク進んでいるとウルトから警告、5匹のウルフが接近中のようだ。
 1階層は角ウサギで2階層はウルフ、獣系の魔物が多い迷宮なのだろうか?

 すぐにウルフが駆け込んで来たのでまずはリンが魔法で攻撃。
 先程と同じように岩を飛ばして3匹仕留めたが2匹回避したようだ。

「行かせないッス!」

 盾を構えたアンナが前に出てウルフ2匹の突進を受け止めた。
 勢いの止まったウルフにソフィアがトドメを刺して戦闘は終了した。

「この辺りじゃ手応え無いわね……5階層までは手早く攻略しましょうか」

 ウルフの魔石と毛皮を回収、剥ぎ取られてグロい死体はそのまま放置して先を急ぐ。
 ウルトの【無限積載】で一瞬で毛皮まで剥ぎ取れるとか便利すぎて依存してしまいそうだ。

 最短ルートを辿って進んでいると、ウルトがまたなにかを感知したようだ。

『前方より多数の生命反応。人間が3、ウルフ23です。どうやら人間がウルフに追われているようです』
「20……多いですね」
「面倒な数ッスね」

 足を止めて槍を構えるソフィアと盾を構えるアンナ。
 前方を注意深く見ていると、大急ぎで逃げる3人組が視界に入ってきた。

「おい!  アンタらも急いで逃げろ!  ウルフが大量発生してやがる、数が尋常じゃねぇ!」
「早くしろ!」

 3人は口々に叫びながら俺たちの横を抜けていく。

『ウルフ来ます』

 3人組みが通り過ぎて数秒、大量のウルフたちがこちらに向けて走ってきた。

「まずはあたしがやるわ」

 リンがウルフに向け杖を構える。
 今回は岩ではなく5つの火球を生み出してウルフに向けて飛ばす。

 火球は着弾すると弾けて周りのウルフにも火の粉を撒き散らした。

 ギャンギャンと大慌てで火の粉を避けようとするウルフの集団にソフィアが単騎で突っ込み槍を振るい次々にトドメを刺していく。

『さらにウルフの増援、50を超えています』

 まだ視界には入っていないがさらに50か……

「多いわね……オーバーフローの前触れかしら?  それとも変異種?」
「オーバーフローって……迷宮から魔物が溢れる現象ですよね?  それって不味いんじゃ……ほ、補助魔法掛けましょうか!?」
「サーシャちゃん落ち着いて。今補助魔法使ったら光源消えちゃうでしょ?  それにそうと決まったわけじゃないわ」

 リンは冷静だがサーシャはかなりテンパっているようだ。

『ウルフ間もなく視界に入ります。その後方よりさらに35、内1匹はウルフより大きな反応です』

 まだ追加されるのか……

『マスター、私が行きましょうか?』
「そうだな……それが一番手っ取り早いし安全かな」

 戦って倒せないことは無いだろうがこう数が多いと不測の事態があるかもしれないし。

「リン、ウルトを出してもいい?」
「そうね……ウルフとは違う反応があるなら多分変異種ね、頼らせてもらうわ」

 リンの許可も出たのでウルトを地面に下ろす。

 ウルトはすぐに加速してソフィアたちの前に出て巨大化、通常サイズに戻って走り出した。

 次々とウルフを撥ね飛ばし、踏み潰しウルトは進む。

『マスター申し訳ありません、数体抜けました』
「ソフィア!  アンナ!  数体抜けてくるから構えて!」

 ウルトから謝罪の言葉がイヤホン越しに伝えられたのですぐに前衛2人に注意を促す。

 すぐに数体のウルフが走り込んできたが万全の体制で構えていた前衛2人があっさりと処理してくれた。

 俺何もしてないな……

『殲滅完了しました。戻ります』
「了解、お疲れ様」

 ウルトは通信からすぐに戻ってきた。
 ソフィアとアンナが倒したウルフの素材を回収、ウルトが倒したウルフの分は既に回収済みらしく本当によく働くトラックだ。

「これは……ウルフリーダーね」

 殲滅が完了したので先へ進んでいると、リンが一際大きなウルフの死体の前で足を止めた。
 ウルフリーダー?  そういえば1匹だけ大きな生命反応があるってウルトも言ってたな。

「ウルフリーダーってさっき言ってた変異種って?」
「そうよ。名前の通りウルフを統率する魔物ね」

 それは上位種では無いのだろうか?  細かい分類があるのかな?

「こういう変異種って存在ほかの魔物にも居るの?」
「居るわよ。一口に魔物と言っても様々ってことね」

 魔物にもやっぱり色々あるんだな……
 今度時間がある時にでも詳しく教えてもらおうかな。

 それから先のウルフはあのリーダーが纏め上げていたのかボスの扉まで1匹も出会うことは無かった。

「多分中にもウルフリーダーが居ると思う。入ったらすぐ広域魔法使うから打ち漏らしはお願いね?  それと1階層の時と同じようにアンナはあたしたちの護衛をお願いね」
「お任せください」
「了解ッス!」
「わかった」

 今回は戦えるかな?
 迷宮入ってから俺まだ剣も抜いてないからな……

 扉を開くと中にはリンの予想通りウルフリーダーと多数のウルフが待ち構えていた。

 予定通りリンが炎の魔法を放ち攻撃と撹乱を行う。
 魔法ほウルフリーダーに着弾、火の粉が飛び散りウルフたちを襲う。

「クリード殿、行きましょう」
「はいよ!」

 俺とソフィアは武器を構え突撃、火の粉を避けることに必死でウルフたちはこちらに気付いていない。これは火を避ける動物的な本能なのかね?

 容易くウルフに近付き一閃、首を落として次のウルフに斬り掛かる。
 ソフィアと2人であっさりとウルフの群れを全滅させることに成功した。

 危なげなく2階層もクリア、開かれた扉をくぐって安全地帯に入った。
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