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S執事でいてください

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「謝らなくてもいいですよ、そもそも挿れたのは私ですし」
 お茶を飲みながら、彼女は普通に笑っている。
「それより、良かったんじゃないですか? ちゃんと勃ったし、全然早くもなかったですし」
 最初に会ったオフ会で自分の性癖の話をしていたときのような、あっけらかんとした調子で話す彼女は、僕が中出しをしてしまったことについて本当に、まったく気にしていないようだった。
「今日はたぶんできないですよ。ちゃんとアプリで生理周期の管理はしてますから。心配なら確認します?」
「いや、うん、大丈夫」
 暢気にふふ、と笑う。
「だったら、そろそろ立ち直ってくださいよ。専属執事失格です」

 時計は、午前一時を回ったところだ。
「さて、今日はどうしましょうね。私の方は寝てもいいんですけど……」
 彼女は、「んー、」と少し考えを巡らせて、
「でも、ソウさんはこのままやめちゃうと、たぶんトラウマ抱えちゃうのでダメですね」
「トラウマ?」
「『またやっちゃったらどうしよう』って、ブレーキかかっちゃうと思うんですよ。それじゃ、S執事になってもらえないじゃないですか。それに……」
「それに?」
「たぶん、ソウさんって自分の性癖に気付いてないだけなんじゃないかなって。ソウさんは自分が思ってるよりだいぶサディストなんじゃないかと思うんですよね。ちゃんと自分の性癖がわかれば、普通に勃つんじゃないかとも思うし」
 自分がわりとサドっぽいという自覚は、正直なところかなりある。でも、これまでかなりな内容をしてきた気がするのに、姫に勃ったのはさっきの一度だけだ。それに、妙な性癖でしか勃たないとなると、僕の悩みはむしろ深刻化しやしないだろうか。
「ほらもう、ソウさんはすぐそうやって後ろ向き思考しちゃうんですから! やっぱり、今日はきっちり教育します」
「教育するって……僕がM側?」
 「そんなわけないじゃないですか」と冷たく一蹴すると、彼女は僕に向き直って言う。
「執事の教育は、主の務めです。で、S執事ソウさんのお仕事は、私を気持ちよくさせることです。だから、なにか困ったり悩んだら、私が悦んでいるかどうかを観察してください。ただし、私はMです。ソウさんにいろいろしてもらって、実は自分が思っているよりもだいぶ、痛いのも苦しいのも好きだとわかっちゃったMです。痛くても気持ちいいし、苦しくても嬉しい。そういう女性です。ここまで、いいですか?」
 一気に言われて、僕は「はい」と返事をする。
「じゃあ、私は嫌そうにソウさんのを挿入しましたか?」
「いいえ……」
「終わった後、嫌がってましたか?」
「いいえ」
「じゃあ、執事さんのお仕事は、あれも含めて正解、です」
 ちょっと恥ずかしそうに目を逸らし、僕の手をきゅっと握る。
「私のS執事、続けてもらえますか?」
「……イエス・マイロード」
 彼女が好きだと言っていた漫画のセリフを返すと、彼女はふふ、と笑った。

 彼女は、ひとつ大きく息を吸い込んで、
「じゃあ……続き、してください。まだ、実験の途中、です」
と言った。
 そして、着ていたYシャツのボタンを外して、胸をあらわにする。
「先生……私、先生のが欲しくなっちゃって、乳首から手を、放してしまいました……」
 彼女の顔は赤く、期待と不安の入り混じった扇情的な表情を浮かべている。
 その顔を見て、僕の中でカチリ、とスイッチが入った。
「ああ……いけませんね。これでは、実験データの取り直しです。まずは……しっかり乳首を立てるところからですね」
 乳首を触ると、彼女は「んっ、」と気持ち良さそうに哭く。
「しっかり立てないといけませんから……重りを載せるところから」
 ただ洗濯ばさみを留めるところからの再開だと思っていたのだろう。「あ……」と声を漏らして、身体をぴくりと強張らせた。
 僕は、彼女を床に膝立ちにして、まだ緩くしか立っていない乳首に洗濯ばさみを留め、S字フックをかけ、袋をひっかける。さらに、「そうそう、手は縛っておかないとね」と、後ろ手にネクタイで縛った。
 取ってあったメモを見て、ゼリー飲料を六つ用意する。ひとつずつ、ゆっくりと載せていくと、彼女は前かがみになりながら苦しそうに喘いだ。一キログラム余りの重さが、容赦なく彼女の乳首を引っ張る。乳首の根元に留めてあった洗濯ばさみは、重さに耐えかねて少しだけ敏感な尖端に向かって移動していた。
 前回は、「いくつ載せられるか」の実験だったために七つ目を載せたところで終了したが、今回は六つが限界ギリギリだとわかっているので、七つ目を載せない。それは、このギリギリの状態がなかなか終わらないということだった。彼女は、短い呼吸を繰り返し、痛みを必死に耐えている。また少し、洗濯ばさみは尖端に向かって移動したようだ。もう相当痛いだろう。
「痛いですか?」
「痛い、です……」
「姫が悪いんですよ。言いつけを守らないから」
「んんっ、は、い……」
「ああ、そうか……悪い子には、お仕置きが必要なんでしたね」
 僕は、左手で軽く彼女の身体を支えながら、右手でお尻をバチン、と打った。
 その振動で、ギリギリを保っていた洗濯ばさみは両方とも弾けるように飛び、彼女は「ああああ!」と、大きな声をあげた。
 彼女の前にまわり、膝立ちの彼女にあわせて床に座る。
「さあ、ちゃんと乳首は立ちましたかね」
 そう言って、彼女の乳首に舌を這わせた。刺激が強いらしく、喘ぎながら身を捩る。
 しばらく舐めてから胸を観察すると、乳首はぷっくりと腫れて、胸もほんのりと赤くなっていた。
「これで実験が始められそうですね。……これから、食事中も、寝ているときも、姫が自分で『もう無理』というまで、ずっと洗濯ばさみをしたまま過ごしてもらいます。外れても、付け直して継続します。きっと、かなり痛いです。……実験、してもいいですか?」
 すっかりマゾの顔になっている姫に問うと、彼女は「実験、してください……」と答えた。
 腫れた乳首を摘み上げ、根元に洗濯ばさみを留める。彼女ができるだけ長く楽しめるように、しっかり根元だ。反対側も同じようにする。手の拘束を解き、服を着せようとして、「そうだ、」と思いつく。
 押入れをごそごそ探ると、目当てのものが出てきた。彼女の前にぶら下げて見せる。
 それは、直径二センチほどの鈴だった。ずいぶん前に、ペットボトルのお茶に付録としてついていたもので、友人がコンプリートを目指していたから協力して買っていた。僕の手元にあるのは、種類が被ってしまった四つだ。
「自分が『洗濯ばさみを付けている』って感じられる方が楽しいでしょ?」
 洗濯ばさみにS字フックをひっかけ、そこに鈴を二つずつぶら下げる。チリリ、といい音が鳴った。
「猫みたいだね」
 Yシャツを羽織らせて、ボタンを閉じる。鈴はそこまで重くないが、S字フックの重さもあって洗濯ばさみが少し下を向いているので、服はそこまで擦れないだろう。とはいえ、そのくらい負荷がかかっているのだから、楽ではないか。
 彼女を立たせ、ソファに座らせる。
 時刻はもう午前二時になっていた。
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