推しも萌えもございませんので、モブな私を放っておいてください……って、メインキャラのみなさんっ、聞いてますっ⁉

藍川 東

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聞くは一時の恥、ではすまないようで⑤*

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 ん~?
 なんかよろしくないことなのかな? 
 王族からブローチをもらうことって。
 はっ
 もしかして、これを手切れ金に王宮から去れってことっ?(喜んでっ)

 残念ながら、それは私の妄想っぽいけど。
 なにしろ『返しに』来るようにいってたし。
 それに、女官のラクロアさんも、侍女さんたちも、レリア王女にも王女宮から出て行くようにはいわれてないし。
 「レリア殿下にも、いったのか?」
 「うん。
  もしかしたら兄妹同士で返してきてくれるかな、と思ったから」
 『こう』なってから、二人きりの時のイスリオの口調はかなりフラット。
 外での丁寧な口調とのギャップが、またメインキャラの魅力ってやつね。うん。
 「いや、兄妹はまずいだろう」
 私はイスリオの体をずり上がって、視線を合わせた。
 「どうして?
  私みたいな下っ端より、皇太子殿下とその妹君が会う機会が多いでしょ?
  その時返してもらえば」
 はっ
 もしかして。
 王族を使いっ端にしようとしてるように見えてしまうっ?
 「そうじゃないんだが……本当に知らないんだな」
 だからそういってるでしょ。
 むっとして私は、イスリオの肩をガブガブ噛んでみた。
 「おい。顎を痛めるぞ」
 騎士として鍛えられているイスリオの肩は分厚くて、目一杯口を開けてもかじりつくしかできない。
 効いてないっぽいし。
 悔しくなって、耳を噛んでみた。
 「こら、」
 今度はちゃんと効いたっぽい。
 私の腰を抱いていた腕が、一瞬こわばった。
 ちょっと満足して噛んだ耳を見ると、結構赤くなってるし、歯型が着いちゃったかも。
 睨んでくるイスリオにヘラって笑って、自分の歯型の跡をペロッと舐めた。
 イスリオがなんだか満足げなので、唇でハムハムもしてみた。
 明日、部下の騎士さん方にからかわれても、まぁ、なんとか乗り切って。

 「それで?
  もういい加減、教えてほしい」
 なんだかずいぶん焦らされてる気がする。
 「あぁ。
  知らないんなら、俺からいいたくないのを察してくれといっても、わからないか」
 なぜだか上に向かってため息をつくイスリオ。
 もうっ。
 さっきからなんなのよっ。
 さわやか系イケメンキャラでしょうが。
 さっさと教えなさいって。
 イスリオの上でバタバタ暴れてみるけど、子猫をあやすみたいに、簡単に抑え込まれてしまう。
 ヒロインキャラたちと違って、華奢でもない平均的な体型女子なんだけど。
 そんなムキムキっぽく見えない細マッチョなのに(いや、今、ほんと『肌で感じてる』から)、騎士さんてみんなこんな感じなの?
 「団員とまで、お前を分け合う気はないぞ」
 いえいえ。
 分け合うもなにも、私は私のものですよ?
 というか、『団員まで』?
 「王族が、公の場で身に着けている物を渡すのは、多くはその者の功績を称えるためのものだ。
  下賜だ。わかるだろ?」
 よく剣とかもらうやつね。了解。
 あ、じゃあ、あのブローチは私にくれたもので、生活費のために売っ払ってもいいってことっ?
 えぇっ、臨時収入!
 城下の流行りのお店に、ケーキとか食べに行っちゃうっ?
 「下賜された物をそんなに簡単に手放したと知れたら、不敬罪に問われるぞ」
 だめかぁ。
 じゃあ、しばらく持っておこうかな。
 「でも、『返しに』来いって」
 「あぁ、そうだ。
  そういわれたときは、意味が異なる」 
 それはそうか。
 私、称えられるようなことしてないし。
 「その考え方は、改まらないんだな……」
 いやいやいや。
 メインストーリーでは、魔王を(一時的に)退けたり、魔物に襲撃された村を助けたりして、主人公たちは勲章とかもらってたし、イスリオも剣を下賜されてた。
 そんなメインストーリーにからむようなこと、私、してないから。
 「とにかく、王族が公の場で『返しに来るように』と渡した物は、『寝室への鍵』ってことだ」

 …………。
 ん??
 『寝室への鍵』?
 ファンタジー的に、あのブローチが鍵に変化する、とか?
 わかってない私に焦れたのか、イスリオが少し乱暴に言った。

 「お前が気に入ったから、寝屋の相手をしに来いってことだ」
 
 …………。
 「え。ムリ」
 とっさに出た一言。
 私は小説のキャラとしてサルファス王子のこと知ってるけど、実際会ったのって、この間の園遊会と、男爵の叙任のときの2回だけ。
 全部合わせても2時間もないと思う。
 なんでそんな相手と、って発想になるのかなっ。
 王族、謎すぎるっ。
 「もちろん、愛妾になるかどうかは成り行きだろうけど、とりあえず一回来いってことだ」
 って、イスリオ。
 なに冷静にいってるのーーっ。
 「俺としては、ブローチを受け取ってから、今の今まで普通に過ごしていた方が謎だ。
  きっと日取りや準備が進んでるぞ」
 そういえば、最近お風呂で使う石鹸や乳液が更にグレードアップしている気がしてた。
 マッサージとかも入念、って感じだったし。
 サイズも測り直されたけど、もしや体型変わった?くらいにしか思ってなかった。

 「え……これってことわ
 「断れるわけないだろう」
 かなり被せてイスリオに断言された。
 えーー。
 中世では『初夜権』なんてわけのわかんないものあるって聞いたことあったけど、ファンタジーでもありですかー。
 たしかにこの世界では、処女性はあまり重要視されてない。
 結婚の時、処女だったらラッキー、くらいでそのあたり結構自由。
 っていってもっ。
 まさかの王子様からの強制呼び出しっ。
 しかも。
 「私、園遊会で、結構たくさんの人の前で受けとったんだけど……」
 「『結構たくさんの人』が、お前がサルファス殿下から寝室に誘われてるのを見てたぞ」
 なにその羞恥プレイーーっ。
 「俺にもわざわざ、伝えに来た奴らがいたからな」
 へ?
 なんで?
  「それはまぁ、気遣いからのいらぬ注進と、やっかみと妬みとからかいの告げ口、といったところだ」
 イスリオってば、実は嫌われてる?
 メインキャラも大変だねぇ。
 「そんな他人事のようにいうか。
  『かの』魔法士アン殿と、寝台のある部屋で朝まで二人きりで過ごすことのできる男、だからな。
  やっかみも集まる」
 ごめん。
 言葉はわかるけど、意味がまったくわからない。
 「まぁ、それがお前の魅力のひとつだから、仕方がないが」
 イスリオは私を腰の上に乗せたまま、腹筋だけで起き上がった(バキバキの腹筋シックスパック!)。
 「独占できないなら、せめて刻みつけさせてもらうとしよう」
 この状況での、さわやかイケメンメインキャラの笑顔って、なんかちょっと、怖い気がするのは私だけ?
 「お付き合いいただけますか、アン殿?」


  
 「やだっ。
  こんな格好っ……恥ずかしっ」
 「あぁ、そうだな。
  アンの全部が丸見えだ」
 なんかっ。
 今までなかったサッドっ気が入ってるんですけどっ。
 「俺はこっちを抑えてるから、手が離せないだろ? 
  自分でやってみろ、ほら。こうやって」
 イスリオは私の指を舐めて濡らすと私の胸に……
 「やあっ。
  そんな、みんな一緒になんてっ」
 「そうか?
  すごく気持ちよさそうじゃないか。
  ほら、もっと指を動かせよ……っ。
  あぁ、そんなに締めないでくれ。
  もっと楽しみたいだろう?」
 イスリオが腰を動かすたびに、根粘着質の水音が響く。
 もう、どっちのものだかもわからない。
 「……ふあっ………っんっ……ひゃぁっっんんっ」
 手も足も、どこにも力が入らない。
 口も閉じられない。
 イスリオの肩越しに、自分の足が頼りなく揺れているのが見える。
 「あぁ、可愛いな。
  どこもかしこも溶けてるのに、っ……ココ、だけは俺を頬張って離さない」
 なんでか視界が歪んで、イスリオが見えなくなる。
 するとイスリオが唇を目元にあてて、チュッと可愛らしい音をたてた。
 また、イスリオが見えるようになる。
 鍛錬場で見たどの時よりも、熱そうな顔をして、ギラギラした目で私を見下ろしてる。
 「独占したかったのを、送り出してやるんだ。
  ちゃんと戻ってこいよ」
 イスリオが上半身を起こした。
 天井からの光越しに、たくましい騎士のシルエットが浮かぶ。
 肉食獣さながらに、いっそ下品と見えそうに、イスリオが唇を舐めた。
 もうそんな体力もないはずなのに、私の体の奥がキュッと鳴いた気がした。
 さわやかイケメンメインキャラに似つかわしくない笑みを浮かべると、イスリオはいった。
 「ちゃんと帰ってこられるように、きっちり刻みつけてやるからな」

 もう無理ーーっ。

 キャラブックのイスリオの欄には『絶倫』って書いとくべきだと思うっ。

 結局私はイスリオに揺さぶられたまま、朝焼けを見ることになった。
 起き上がれなくなった私を迎えに来てくれたラクロアさんと侍女さんたちがイスリオに、『厳しめの申し入れ』しているのを、なんとなく覚えてる。
 メインストーリーに関係ないところで、モブも結構ハードです。
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