推しも萌えもございませんので、モブな私を放っておいてください……って、メインキャラのみなさんっ、聞いてますっ⁉

藍川 東

文字の大きさ
15 / 39

返却も退却も、速やかに行いましょう①

しおりを挟む
 イスリオの宿舎から救出(?)された私は、女官のラクロアさんと侍女さんたちに、日課のように湯殿でのピカピカに磨き上げられ、乳液やらオイルやらでグネグネとマッサージされて。
 ぐったりするけど、夢心地。
 王女宮に来る前は、モブらしく身なりにはそれほどかまわなかったから、モブ的に行き届いてないとこもあった。
 それが今は、全身ツルッツルのぷにぷに。
 ほんとお貴族サマみたい。
 でも、忘れてはいけないモブの立場。
 レリア王女の気が変われば、あっという間に元の魔法士寮に戻るわけで。
 メインキャラのひとりとの大、というか超というか、深々した接近も、一時の夢として楽しんじゃおうかな、なんて緩いことを考えてたモブ思考を粉々に粉砕したのは、一切の悪意のない女官のラクロアさんと侍女さん達だった。

 「アン様。サルファス殿下の御元に伺うためのお衣装が出来上がりましたの。
  ご覧くださいませ」
 珍しくラクロアさんがテンション高めにいう。
 「素材も意匠も、最上のものをご用意させていただきました」
 「どれもアン様にお似合いだと思ってしまって、わたくし共では決めきれなくて」
 「ぜひ、アン様のご意見もいただきたく」 

 …………、うわぁ。

 目の前には四つのトルソー胴体だけのマネキン
 これを作るために、採寸し直されたのかぁ、と現実逃避したくなるけど、現実ってモブにはそう簡単に逃避させてくれないの。

 とにかく共通してるのが、透け透けでぎりぎりの、あざとエロイってことっ。
 かつての記憶で、ネットでアダルトランジェリーなんか見たら、きっとこんな感じ。
 それならネタで、まさか本気で着る人なんかいないでしょ、で終わらせられるんだけど。
 目の前にあるのは、素材や縫いが高級なのが一目瞭然。
 質感も、冗談ジョークグッズなら、化繊のぺらい感じだろうけど、どう見てもシルクの光沢で、しなっとしているのに崩れていない。
 きっと触ったら、手に吸い付くんだろうねー。
 シルクの下着なんて、誰が着るんだろうって思ってたら、私が着るはめになりそうです。


 左から順に。
 その1 エロかわテイスト
  全体が上品な桃色。
  キャミの丈は足の付け根ぎりぎりくらいまでしかなくて、裾にふわふわしたモヘアがついてる。
  同じくモヘアの、実用性ゼロのリストバンド。
  可愛くしてあります、って感じなのに、胸元は大きく開いていて裾と同じくモヘアがあるから乳首が隠れてる、ってほど。
  あちこちふわふわさせて、少女っぽさを出しながらも、胸元も丈もきわどく攻めてる。
  パンティだって、正面はかろうじて布面積があるけど、お尻なんてTバックだしっ。
  しかもふわふわモヘアでっ。
 「女性の中の愛らしさを出してみましたっ。アン様の可愛らしさがあふれ出てしまいわすわっ」
 …………、いえ、それ、枯れ井戸です。

 その2 エロアダルティ路線
  色は黒。
  キャミは一番長くてすねくらいまである。
  だからといって、露出度が少ないわけじゃなく、ももの深いところから下まで大胆なスリット。
  きっと少し動くだけで、太ももからすべて丸見え。
  胸元も詰まっているように見せかけて、深いスリットが入ってる。
  同じくちょっと身じろいだだけで、隙間から胸が見えちゃう。
  そしてここが見どころ、と教えるように、スリットには深紅のバラの刺繍がしてあって、簡単に割れてしまうようになってる。
 「アン様の白いお肌と、大胆な妖艶さを引き出せる意匠にいたしましたっ」
 …………、いえ、その引き出しは空です。

 その3 エロ清楚系
  エロティックと清純って、両立することを教えてくれる意匠。
  色は淡い水色。
  今までの生足見せとは逆に、爪先から太ももまで、繊細なレースのストッキングをガーターで留める形。
  もちろん正しいガーターとして、ベルトはパンティの下。
  つまり。したまま、まぁ、いたせるわけです。
  その分他はシンプルなデザイン。
  ここでいう『シンプルなデザイン』っていうのは、ひたすらに透け感があって、布面積が少ないことを指すわけで。
 「アン様の高潔さと飾らないお人柄を表してみましたっ」
 …………、下半身に膨張色で攻めていい身分ではございません。

 その4 これは新婚用でしょ
  白。
  これでもかというくらいのレース。
  繊細に重なっていて、重ねられているのに重さは感じなくて、ひたすら繊細。
  この世界のレースってことは、全部職人さんたちが作った手縫いってことで。
  その素晴らしい技術が、私ごときの衣装になるなんて、なんだか申し訳なさすぎる。
  でも、これがいいか、な?
  なにより評価したいのは、キャミ、ブラ、パンティと3点セットなのこと。(他のは2点セット……ブラ、ないんだもん)
  ブラのトップのところや、パンティのセンターのところ。
  いたるところにリボンがついているんだけど、ひとつひとつは細くてシンプルな形。
 「これも、アン様の魅力を表しているものかとは思うのですが…………」
 なぜかラクロアさんも侍女さんたちも、あまり推してこない。
 確かに新婚初夜っぽいけど、総布面積はこれが一番あるし。
 「いろいろ用意してくれてありがとう。これにするわ」
 今回は『ちょっと声かけられたくらいで勘違いしてるイタイモブ』作戦でいくつもり。
 なら、これくらい意識しちゃってる系でいいでしょ。

 と、いうことで。
 レースたっぷりなのに着心地最高、っていうエロカワ新婚用だろっ、って下着を着こんで、サルファス王子の寝台に座ってるわけで。
 あぁ。
 平凡なモブへの道って険しいものなのね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...