推しも萌えもございませんので、モブな私を放っておいてください……って、メインキャラのみなさんっ、聞いてますっ⁉

藍川 東

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ピンチはチャンス? でもやっぱりピンチでしょっ!⑥

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 にもかくにも。
 メインストーリー的には順調(?)に進み、メインキャラたちはクリシャのしごき、というかイタズラ(?)も含めた修行で、順調にパワーアップ。
 確かに、血の滲むような修行を若い子たちにさせるっていうのは、正直気が引ける。
 クリシャの修行は平常心を保ちつつ、潜在的な力を自由に開放するための修行……ってことなんだけど、クリシャが繰り出すイタズラをかわしつつ、課題をクリアしなくちゃならなかった。
 一般モブが考える『イタズラ』と腐っても古の大魔導士が考える『イタズラ』って、規模も大きさも深さも違うのよね。
 よく生き残ってるぞ、メインキャラのみんなっ。
 魔法具についてもーーこっちはまともに対応してくれたーー得意な魔法士たちと喧々諤々けんけんがくがくやり合って、かなり改良されたみたい。
 サルファス王子は自分の修行もやりながら、魔法具改良の指揮も取っていた。
 さすがは総士団長。
 ハイスペック。
 って小説なら済ませちゃうんだけど、こちらは現実なので。
 キラキライケメンが、キラキラしたままやつれて、目の下にうっすらクマなんて作ってるもんだから、それを見かけた貴族のご令嬢とかかつてのご令嬢とか女官とかそれ以外の普通の審美眼を持っている人たちは、
 『あぁ…………っ』
 っておいたわしいでも美しいのでため息が出てしまうがお声がけしてもうわぁ、って具合で身もだえしてた。
 モブごときができることもないと、やや遠くからご健勝をお祈り申し上げていたら、レリア王女から熱烈に進められてしまった。
 『アンよ、兄上様に届け物をして欲しいのじゃ。
  支度をしてからでいいからの。
  お渡しした後は、すぐに戻ってこなくてもよいぞ。
  ゆるりとしてまいれ』
 っていわれて、何か包的なものをお預かりしたんだけど、『支度』としてラクロアさんと侍女さんたちに湯殿に放り込まれ、髪の毛からつま先まで磨き上げられ、ほわほわした状態で王子宮に送られた。
 王子宮ではいろいろと『お世話』になっている王子宮の女官さんに連れられ、サルファス王子の執務室へ直行。
 『これで殿下も、執務室の仮眠台から、寝室へ移っていただけますわ。
  よろしくお願いいたしますわね、アン様』
 えー、手に持ってる『お届け物』が雑な扱い受けてますけど、大丈夫ですかー?
 『サルファス様。レリア様より『お届け物』でございます』
 どよん、と澱んだ空気の執務室に放り込まれた。
 結構力強いですよ、王子宮の女官さん。
 普段ではありえない、机に突っ伏し気味で書類仕事をしているサルファス王子が目を上げて、私を見た。
 上から下まで、往復2回。
 私も見返したけど、かなりボロボロ。
 本人の魔法士としての修行 + 魔法具の開発・増産体制の整備 + 王太子としての仕事 は、さすがの超ハイスペックキラキライケメンメインキャラをもってしても、ぎりっぎりらしい。
 『…………『お届け物』、か』と、サルファス王子。
 『そのように承っております』と、女官さん。
 『…………返却は?』と、サルファス王子。
 『少なくとも、本日はそのままこちらに、とのことでございます』と、女官さん。
 『…………わかった』
 サルファス王子は立ち上がると、私の手を取り寝室へと向かい…………。
 え~。
 先日来、何回かあったのと同じく『とても親密に』過ごさせていただきました。はい。
 翌日、なぜか自力では寝台から起き上がれなくなった私を、王太子殿下御自らが甲斐甲斐しくお世話いただき、寝台に上で二人で朝食をとるなんて不作法をしたうえで、キラキラを復活させて業務に戻ったサルファス王子。
 先に気絶した(……)私より、睡眠時間は短いはずなのに、どんな形状記憶合金でございましょうか。
 結局昼過ぎまで王太子殿下の寝台を不法占拠したにもかかわらず、王子宮の女官さんからは大変感謝されてしまった次第。
 『流石ですわ、アン様。
  わたくし共がなんと申し上げてもお休みにならなかったサルファス様に、こうもあっさりとお休みいただけるなんて。
  これからもぜひ、いらしてくださいませ』
 …………流石に、いたたまれません。
 ついでに、あの包的なものの中身、なんだったのでしょう?

 そんなことがあった数日後、今度は王宮騎士団から私を指名でお手伝いの要請が入ったんだけど。
 ちょっと身構えてしまうのは、モブとしては超絶自意識過剰だったんだよねー。
 って、後で笑っていえるといいな? 
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