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白い魔女とアレン

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テレージアの祖母は魔女で、母もまた、魔女だった

魔女の血は受け継がれる


母が兵士に捕まって、城の広場で公開処刑された

当時の王は魔女を嫌い、悪き存在だと魔女を捕まえては処刑した
 
いい魔女も悪い魔女も関係なく
見つかれば殺された

魔法を得意とする魔女達が少なくなり、魔法もだんだん廃れていく

魔女の作る魔法薬も魔法書も貴重なものは魔女から魔女へ受け継がれていくもの

減っていく魔女たちは、姿を若く保ち長く生きながらえる術を身につけた

今生き残るのは魔女の中の魔女

その血には、いにしえから繋がれた魔力で不思議な力を持ち、

生き物に飲ませれば不老とは言えずとも、命を長く保つことのできる存在、眷属として体を作り変えることが可能となった


テレージアは母を失い
祖母と二人、森の中で暮らしていた
母を失って50年

祖母はすでに150年生きている
若さを保つことをやめ、

見た目も老婆のようになった
いつまでも若いままだと疑われる


祖母は昔から人の為に病気や怪我を治す薬を作って人を助けてきた

いい魔女だった


祖母はいつものように街へ薬を卸しに行くと言っていつものように出かけて行った

それが最後だった

夜になっても帰らない祖母を心配して
テレージアは街へ探しに行く

散々探し、もしかして森の家に帰っているかもと思った 

すれ違ったのかも知れない

胸がザワザワしていた

「おねーさん、、薬のおばーちゃんの家族だよね?」

子供の声に振り返る

その男の子はいつも祖母が、薬を渡していた家の子だ、母親が病気で一度その家について行った事があった

「おばーちゃん、兵士に連れて行かれちゃったよ」
涙が男の子の瞳から溢れた

「お母さんに薬を届けてくれただけなのに」

ポロポロと涙が地面に落ちる

「おねーさん、おばーちゃんが捕まる時にこれを、おねーさんに渡してって」

子供の手から、指輪が手渡された

母の指輪だ、ずっと祖母が持っていた

その指輪は魔女の家系に受け継がれる記憶と魔力が蓄積された魔法の指輪だった

テレージアは子供にお礼を言って

王城へ向かった

まだ間に合うかも知れない

おばーちゃんを助けて、この国を出ればいい!

テレージアが王城の広場に着いたとき
辺りは静まり返っていた

すでに人はない

どうして

変わり果てた祖母の姿はテレージアを憎しみに染める

握りしめた指輪から魔力が弾け

まるでテレージアの感情を具現したように辺りが振動した
城の一部が崩れ落ち、辺りが騒がしくなる

テレージアの叫びが響き渡る

叫び続ける体に衝撃を受け
涙が飛び散る

テレージアの体は槍で貫かれていた

ひと槍が心臓を貫き
次々とテレージアの体は何本もの槍に貫かれた

血が流れ、血溜まりが広がる





暗い

あんなに痛かった体は
今は何も感じない

目を開くと薄暗い空間に美しい女が立っていた

美しいと思うのに顔が認識できない

女はテレージアの黒く美しい髪を撫でた

「何を思う?」

「?」

「ミレニアもフリージアもいい魔女だった」

「おばぁちゃんと母さんを知っているの?」

「ええ、知っているわ
あの国は魔女を殺しすぎた」

テレージアに再び怒りが憎しみが戻る

「何を思うかって?あの国の王と魔女達を処刑した奴らを殺してやりたい!」

「そうか、、、復讐がしたいのだね」

いいだろう
そう言って、女がテレージアの頬を撫でる

「あなたは神なの?」
女は微笑む
美しいのに顔が見えない女が言った

「ひとつギフトをあげよう」



気がつくとそこは
王城の広場だった

崩れ落ちた城の壁も、瓦礫も、彼女の血溜まりもない
あれは夢だったのか

わけもわからず立ち上がる
昼間
王城の広場
人だかり

テレージアははっとした
この状況は!

立ち上がり、人混みを掻き分けて
中央を見る

これはなに?
母が磔にされ
今にも火をつけられそうだ

そんなことさせない

テレージアは魔法で火を消そうとした
しかし魔法は発動しない
 
『それは過去だから、介入できない』

あの女神の声がした

『確定された過去は変えられない』

「ただ見ていることしかできないって言うの?」

テレージアは苦しむ母の横で笑いながら火をつける兵士の顔を記憶に刻む

まだ若い兵士だった

前にみたこの処刑では母しか見えていなかった、おばあちゃんが途中から私の手を引いたから

兵士の顔なんて見ていない


サアっと黒い霧が流れて
夕方になった

「今度は祖母の処刑を見ろって言うの?」

おばあちゃんは泣きも叫びもしなかった
ただ、私の方を見て微笑む

これは過去なんじゃないの?
こんなの見てないのに

「おばあちゃん!」
私の声は誰にも聞こえていない

なのに
祖母は私を見ていた

見覚えのある男がまた火を放つ

だいぶ歳をとったその男はまた静かに笑った


辺りがサァッと暗くなる

『過去を見る力、未来を見る力』

テレージアが振り返ると


遠くに

ウサギと銀狼

メガネをかけた少年
 

黒い髪の少年

金髪の少年


美しい金髪の女性


茶色い髪の少年


桃色の髪の少女


黒髪の青年

いろいろな人が見えた



未来も見えるって?

その一つに手を伸ばす

過去は変えられない
でも未来は変えられる


一際輝く女性に触れた

人を癒し、魔法で人を助けていく
美しい金の瞳の少女

この子はわたしの光だ

廃れた魔法が蘇り、そのチカラをもって人を救う未来が見えた




目が覚めるとそこは森の家だった


体に違和感を覚え鏡を見る

大人だったテレージアは少女のような見た目になっていた、黒く美しい髪は真っ白に

「神の仕業か?」

死んだ体は作り替えられたのか?

『あなたはこの国の最後の魔女』

女神が囁く

『だからあなたには特別なギフトを与えて生き返らせた』

『修復した体がそこまで成長するのに長い年月を眠って過ごした』

『未来も過去も、触れた時見える』


あの少女を思い出す

あの子に行き着く前に、夢で見た人々に触れなければあの子に辿り着けないだろう

あの子はかなり先の未来に奇跡的に現れる

今から出会う人々の未来を見て、よりよく変えていく

しかし、その前に

テレージアは指を見る


その指輪は記憶と魔力の塊だ

森を出て、街へ 歩いていると
青年とすれ違った
なんだか懐かしい面影が、過去の男の子を思い出させた

城へいくと、すでに処刑場はない
騎士が訓練をしていて
年配の男性が団長と呼ばれていた

そいつが歳を取ったとしても
見間違いはしない
処刑人のあの顔

テレージアは姿を変えた
死んだ祖母に

ゆっくり、団長と呼ばれる男の前に立つ

男は目の前の老婆を見た

すこし首を傾げ、目を見開く

「なんだ、覚えているのだね、殺した魔女の顔を」

老婆は若い女の声で小さく囁く

老婆の目が赤く光り氷の刃が振り下ろされた

処刑人だった男は一瞬で真っ二つになり左右に倒れた

老婆がスゥっと消える

姿を隠す魔法を唱え、城に入る

背後は混乱し辺りは騒がしくなっていく


誰にも見られることなく城の奥へ入り

王座に座る
年老いた王を見上げる

この男のせいで、この国に魔女は
テレージアが最後のひとりとなった

「なぜ、魔女を殺した」


王はいつのまにか立っていた白い髪の少女を見下ろす

「魔女は忌まわしき存在だ」

赤い瞳を王に向けると
王は怯えた

「魔女は全て殺したはず!」

「最後の魔女に殺される気分はどんなだろうな」

王座が魔法陣に囲まれ
炎が王に襲いかかる

「ギャァ」

テレージアは、王の間の大きな窓から出ると空に浮き上がった
上昇し、見下ろす

城の外では騎士団長が血まみれで殺害され、

王座は火の海

場は混乱して騒がしい

テレージアは笑って涙を流していた




それから、いろいろな出会い、別れを繰り返して、テレージアは二人の人物の未来からからアレンを見つける

未来の少女に触れた時、見た彼女の過去と未来

前世の記憶のアレンを見つけ

孤児院に足繁く通い、影から見守り

あの冬の日

酔っ払いを魔法で操り
けしかけた


あの日、酔っ払いに絡まれなければ
アレンはレアードに会うことはなく

医者になって多くの命を救う

しかし、レアードに会った先で、

あの子はより多くを救う

あの少女になって




アレンはレアードと出会う

神よ

私が捻じ曲げた彼の運命に

光を
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