紳士は若女将がお好き

LUKA

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 あの後、夕貴からの着信は幾度もあった。

だがしかし、香は携帯を鳴らせたまま、取ろうとはしなかった。

今更何を弁解しようというのか。

ジクジク傷む胸につける薬もないため、半ば自棄になった香は、もう酒でも飲んで寝てしまおうと考えた。

その時だった。

ドンドンと、玄関の引き戸を強めに叩く音が聴こえ、何事かと、香は椅子から立ち上がると、玄関へ向かった。

入り口で、施錠された建具から進入を阻まれている夕貴が目に飛び込み、びっくりした香はあっと息をのんだ。

「香さん!」

夕貴は香を呼び、戸を開けて中へ入れてくれと、ガラス越しに訴えた。

このまま玄関先で騒がれるのも宿の威信に関わるため、香は恋人の方へ近づくと、解錠した後、戸をガラガラと開けた。

そして、夕貴はすかさず中へ入ると、説明を試みた。

「香さん、シンシアのことですが―――」

「知ってます」

「俺は彼女の婚約者フィアンセではありません。彼女はあなたに嘘をついたんです。彼女の婚約者フィアンセは他にいます」

「・・・どう信じていいのか分かりません・・・」

「先日、彼女の婚約者フィアンセへ連絡を入れたので、彼はちょうど今頃、彼女のもとへ到着しているはずです」

「・・・でもシンシアさんは・・・『昨夜も激しかった』って―――」

青ざめた香の肩がブルブルと震えた。

「それも彼女の嘘で、俺は誓って、彼女とベッドを共になどしていません!」

夕貴は恋人の華奢な肩を掴むと、必死になって主張した。

束の間、押し殺していた感情が溢れ、香の目から涙がポロリと零れた。

「あっ・・・」

すると、次から次へと、まるで堰が切れて溢れたように、涙がとめどなく目から零れ落ちた。

「――ッ香さん・・・!」

夕貴は苦しそうに呼ぶと、上等なスーツが汚れるのも構わず、掴んでいた双肩をグイと引き寄せ、腕一杯に香を抱きしめた。

「・・・!」

息がつけなくなるほどきつい抱擁に、香はこの上ない幸福を感じた。

「夕貴さん・・・。ごめんなさい・・・」

「謝るのはこちらの方です。あなたを不安にさせてしまい、申し訳ありません」

それから、夕貴は抱擁を緩めると、唇を他方の唇へゆっくり近づけ、最後に優しく押し当てたのだった。


 キンコンと呼び鈴が鳴り、呆然と佇んでいたシンシアは、ドアへ急いで駆けつけた。

「夕貴!?」

半刻前に出て行った夕貴が戻ってきたのだと思い、彼女は嬉しさから、ドアをバタンと開け開いた。

「・・・ジム・・・」

しかしながら、希望はついええ、シンディは本当の婚約者フィアンセの名前を呟きつつ、廊下に立つ彼を見上げた。

「シンディ、やっぱりここにいたのか!探したよ!」

焦ったジムの顔に安堵の色が浮き出た。

「・・・どうしてここが分かったの」

ジムは、目を合わせるのははばかられるといったふうに視線を外すと、質問に答えた。

「そりゃ、夕貴がいる場所にきみがいると思ったからさ」

「・・・夕貴が教えたのね?」

「確かに、夕貴はきみの居場所を伝えてくれはしたけど、僕はその前から、きみがこの国へ訪れたに違いないと考えていたよ」

婚約者フィアンセが彼女の心の内を彼女と同じくらい、もしかすると、彼女以上に知り尽くしているだろう現実に触れ、シンシアは苦々しくも、同時にほんのり喜んだ。

「・・・怒ってないの?」

「きみが誰にも告げずに合衆国ステイツを出国した点は、家の者共々心配したけど、僕は実にきみらしいと思ったよ。だけどマギーだけは、休暇には早すぎるって、首筋を青くしていたよ!」

「・・・・・・ごめんなさい。後で彼女にも電話を入れるわ」

「・・・シンディ、そろそろ中へ入れてくれないか!フライトでクタクタだよ!部屋で一緒にビールでも飲もう」

ジムは明るく提言すると、婚約者フィアンセと共に室内へ入っていったのだった。


 「落ち着かれましたか?」

恋人の小さな肩を抱き、箱詰めのティッシュを持った夕貴は、鼻をかむ香を柔和に見下ろした。

「はい・・・」

涙が切れた目の際を押さえ、香は答えた。

「・・・目が腫れてしまいましたね」

香の赤い目蓋をそっと撫で、夕貴は優しく語り掛けた。

次いで、彼の目鼻立ちの整った顔がそのまま落ちてくると、二人は再び口づけを交わした。

「もし良ければ、一緒に風呂へ入りませんか?」

すっきりするからと説明する夕貴の表情にはやましい色など一片も見られず、昂った神経を完全に鎮めたい香は、頷いて了承した。

先に脱衣所で着物を脱ぎ、香は後から来た恋人を露天風呂で待った。

「待ちましたか?」

夕貴は恋人へ問いかけ、温泉へ浸かった。

「相変わらず良い湯ですね」

それから、束の間の沈黙の後、意を決した香は、夕貴の逞しい肩へしな垂れかかった。

「・・・泣いちゃってごめんなさい・・・。弱いですよね・・・」

「・・・あなたは弱くなどありません・・・。思うに、泣いてしまうほど、シンシアの嘘がショックだったということは、それほどまで強く、俺を想ってくれているからでしょう?」

真実だったが、改めて言葉にされると、香は大いに照れ、源泉から上気した頬がより一層紅潮した。

「あなたのような素敵なひとに想われて、俺は世界一幸せな男です」

並外れた歓喜のために、破顔した夕貴は自慢すると、香を抱き寄せ、ゆったりと甘いキスを施した。

「・・・ん・・・っ♡♡は・・・ぁ♡♡」

香もまた、唇の様々な動きへ応じて、顔を積極的に近づけては、熱い口づけを幾度も交わした。

いつの間にか、彼女の細い腕が夕貴の太い首へ回され、絡みついていた。

密着は磁石のようにピッタリと続き、上がった息のせいで胸が苦しいにも拘わらず、舌を延々と絡ませ合い、唾液を啜り、遂に十分な酸素が足りず、涙が一筋、香の眦から零れ落ちるまで、じっくりと情熱的に、かつ一心不乱に、彼らは互いを貪った・・・

やがて、取られた手が湯中の勃興・・へ触れると、行為を予期した心臓がドキドキと跳躍するのを覚えつつ、恥じらいから目を伏せた香は、何も言わずに湯船から上がり、石畳の上で寝そべると、はしたなくとも、両脚を自ら開いた。

白いもやのかかった薄闇の中、滴に濡れ、ほんのり桜色に染まった女体と、妖しい紅色に熟した女陰が眼前に晒され、逸る興奮から喉を鳴らし、血が殊更下肢の間へ落ちる事象を感じた夕貴は、手前へ近づき、雄具を入り口・・・へ突き立てていった。

「あ・・・ッ♡♡」

既に内部・・はたっぷりと潤い、を容易く受け入れた。

「あん・・・♡♡!あふ・・・っ♡♡」

接吻キスだけでとろけてしまうなんて。

香はふしだらな自分を恥じた。

「ん・・・、そう。力まないで・・・。良い子です」

「――うぅッ♡♡!」

がゆとりのない彼女の狭い空間を最果てまで貫くと、甘美な衝撃のために、堪らず呻いた香は、境を軽々と越えた。

「ふふ。歓迎・・してくださって嬉しいです」

「あッ、夕貴さ・・・♡♡!そこ・・・っ♡♡!だめ・・・ッ♡♡!奥・・・っ♡♡!だめ・・・ッ♡♡!」

「だめですか」

秘孔でもあるのか、深奥を精力的に小突かれると、心地好さから腰は自然とくねり、香は善がった。

「~~だめ・・・ッ♡♡!あッ♡♡!いい・・・ッ♡♡!奥♡♡んッ♡♡!いい・・・ッ♡♡!」

「ふふ。こちら・・・はどうでしょうか?」

夕貴は小突くのを止め、代わりに、上手い腰使いで、香のをねっとりとかき回した・・・・・

「んん・・・ッ♡♡!!~~だめ・・・っ♡♡!あッ♡♡混ぜる・・・の・・・♡♡!んッ♡♡だめ・・・っ♡♡!」

「あれもだめ、これもだめと、随分と我儘な方ですね、あなたは」

「あッ♡♡だって・・・♡♡!んんッ・・・♡♡!~~ッ・・・♡♡!ごめんなさい・・・♡♡!」

「ふふ・・・。別に責めた訳じゃありません・・・。俺は我儘なあなたも好きです」

「~~わたしも・・・っ♡♡!あッ♡♡好き・・・♡♡!あうッ♡♡~~キスして・・・っ♡♡!」

男の広い上体が女の華奢な肉体へ被さり、唇が一縷の隙なく塞がれると、またしても、赤い柔らかな舌を濃密に絡ませ合い、二人は惜し気もない愛を交感・・した。

「少し激しくしますので、しっかり掴まっていてください」

言われた通り、香が恋人へ精一杯しがみつくと、反動で湯面が勢いよく波立つくらい熾烈な快楽を、彼女は送り込まれた。

「~~~♡♡!!」

せわしい抽挿は無限に繰り返され、粘膜が擦れて上がる、耳にするには甚だ淫らな媚濁音が、恋人たちの荒れた息遣いと混ざり合い、湯けむり立つ露天の中、鮮明に聴きとれた。

「~~ッ・・・♡♡!!いい・・・ッ♡♡!イク・・・ッ♡♡!夕貴さ・・・♡♡!イっちゃう・・・ッ♡♡!!」

「~~香さん・・・!」

「~~あ、だめ、イク♡♡!イク・・・♡♡!!ッッ♡♡!!――ッ・・・♡♡!!~~・・・♡♡!」
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