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79.両立する想い② ※

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 ぐっと圧がかかり、指とは違う質量がおれを押し上げてくる。
 ぐっぐっ、と何度か押し付けられて、めいっぱいに広がっているであろう後孔に、さらに先へ進んでくる。


「ん……んぅ、うぅぅ…っ」
「シリル兄さん……息を吸って」
「はっ…あ、あぁ……は、はいった?」
「……ごめんね、まだ先……半分、かな」

 半分?半分って、半分?
 ……その前に、先、て聞こえたのは、聞こえないことにする。

 内側からの圧迫感が、ずっしりと重たくて、みちみちと音がする。
 おれの体感としては、ぱんぱんにはちきれそうで、これ以上、何も入りそうもない。

 息が、できない。吸えないし、吐けない。
 お尻がぴりぴり、じんじんして、ひきつれて、動けない。

「んっ……ふ、はぁ……あ、もう…いい、から…はやく、ぜんぶ、いれて」

 おれが、これだけ違和感があるということは、テオドールだってきっとツラいはずだ。
 もう、一思いに、ぐっと一気に──

「僕のことは、いいから」

 いつの間にかぎゅっと瞑ってた瞼に、柔らかな感触が落ちる。はっとして目を開けると、間近にテオドールの顔が見えた。

 テオドールは、見たことのない、欲情した顔をしていて。銀色の瞳はいつもより、ぎらりと強い欲望を滲ませ、蒸気した頬はうっすらと赤い。 
 どこか、憂いを帯びた表情が、色っぽくて、素敵だった。
 身体だって、湯気が立ち上るくらいに、熱く汗ばんでいる。

 それなのに。

「嫌なことは、したくない。正直に、言って?」

 声はどこまでも甘くて、やっぱり優しい。

 正直に……。

「テオの……嘘つき……」

 大丈夫って言ったのに。

「ふぅ……うぅ、めちゃくちゃ、いたい」

 全然、大丈夫じゃない。

「すごく、…くるし…い」

 涙が滲んできて、視界がぼやける。

「うん。そうだよね」

 おれは、苦しい、痛いと言ってるのに。どうして、テオはそんなに嬉しそうなんだ。

 額に汗を滲ませながら、それでも目を細め、ひっそりと微笑むテオに、おれの心臓がぎゅっと痛む。

 おれは、全然上手くできていないのに。テオは、なんでそんなに喜んでるんだよ。

 テオドールの嬉しそうな顔を見たいのに、視界が歪んで、はっきりとわからない。きっと瞬き一つで水面が溢れてしまうから、おれはただ目を見開いて耐えた。

「シリル兄さんはこれまで、つらかったんだよね。僕に触れられるのが」
「っ…ん…ちがうっ…そんなこと…」

 じっと、動かずにいてくれるテオドールは、おれの顔のあちこちにキスをする。こめかみに、鼻先に、頬に、顎に、そして唇に。

「これまでは、僕が触れるとき………僕の名前、呼ばないようにしていたものね」
「だって、……名前なんて呼んだら」

 ぜんぶ、我慢できなくなるから。

「絶対に、僕に触れなかったじゃない」

 そうだ。

 おれは、どんなに掴みたくても、縋りたくても、ただひたすらにシーツやクッションを抱き締めて、握りしめて、耐えた。

 テオドールがキスをしないだとか、必要以上におれを望まないと言っておいて、おれはテオに触れることも、その名を呼ぶことすらしなかったのだ。

「テオ……ごめん……ごめんなさっ……」
「いいよ。わかってるから」

 だって。

「んっ…怖かった。
 テオを好きな気持ちが、溢れてしまいそうで……」

 自分の気持ちが抑えきれなくなりそうで。

「テオに愛されることも、拒まれることも怖かった…っ。
 でも、テオに触れてもらうのが、嬉しくて……おれ…怖いのに……嬉しくて…っ」

 自部勝手な思いを言葉にしながら、それと一緒に涙がぼろぼろと溢れてくる。
 次から次へと零れる涙が頬を伝っていく。

 みっともない、ぐちゃぐちゃな顔になってしまう。今すぐにでも涙を止めたいのに、涙腺は全く、いうことを聞いてくれない。

 一度、想いが決壊してしまえば、二度と戻れないことはわかっていた。
 ずっと一緒にいるためには、兄弟としての、兄としての何かを絶対に手放してはいけないのだと、頑なになっていた。

 おれは、愛されてはいけないと、決めつけていた。

「うん。全部、知っていたよ」

 テオドールが、優しく目元に口づけて涙を拭う。

「シリル兄さんが逃れられないくらい、僕のことでいっぱいになって、たくさん悩んで、僕は嬉しかったよ」
「んっ……あ、テオ…テオ…っ」
「それに、僕がシリル兄さんの初めてを全部もらって、僕の手でどんどん変わっていくのはすごく嬉しかったし」

 そして、頬に顎に伝う涙を舐め取って、涙で冷えたおれを全部温めてくれる。

「苦しいのも、痛いのも、汚いのも……これからは、全部丸ごと僕に見せて」

 そう言って、テオドールがゆっくりと腰を引くから、おれはぐっと足でテオの腰を挟んだ。

 おれが、痛いって、苦しいって言ったから。

「やだぁ、……やめたら、いやだよ…」

 確かに、苦しくて、痛いけど。それと一緒に……いや、それ以上の強く大切な気持ちが、欲求がある。

「テオとこうしてるだけで、すごく、嬉しい」

「おれ…今、幸せ……だよ」

「……だから、やめないで…」

 喘ぐ、呼吸の合間に、何とか気持ちを言葉にする。ぼろぼろと、涙が嘘のように零れ落ちていって、どうしても止められない。

「ああ、ダメだ……無理」
「え……?」
「だって、可愛い……泣いた顔が、可愛すぎて……すごく、興奮する」

 そんなことを訴えるテオが、中でぐっとしなって、圧迫感がさらにます。

「あっ……テオ、もう…これ以上、おっきくするな…っ」

 ムリって……こっちがムリだから…っ。

「もっとゆっくり……慣らして、シリル兄さんを、たくさん気持ち良くしてあげるつもりだったのに」
「ひぁっ……急に、ぬいたら…っ」

 おれの足の拘束をものともせずに、テオドールは身を引いて、ずるりと中を擦りながら埋まっていたものを抜き去ってしまう。

「…っ…なんで…」

 やめないって、言ったのに。

 涙目のまま、テオドールを上目に睨みつけて、どう言えば、気持ちが伝わるのか、必死に考える。

「……ああ、だからその目が……すごく、そそるんだよ」

 そんなこと言う、テオの方が、ずっと色気がすごい。どこか切羽詰まって、必死な様子が、ひしひしと伝わってきて。それが、余計に色っぽくて。

「やめないから、安心して。だから、これ以上は、僕を煽らないで」

 切実な様が、色っぽいのに、とても可愛い。可愛くて、そして、心からおれを求めてくれているのだと、今更ながら実感してしまう。

 おれが思っているより、テオも余裕なんて、無いのかもしれない。

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