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「あんたたちは、泥の中を這うスッポンや」  昭和三十年、秋。広島。戦争の焼け跡がまだ残る漁村で、三人はそう呼ばれていた。  目が見えない勇。  耳が聞こえない幸子。  言葉を持たない老犬、ポチ。  勇は指先で幸子の手のひらに文字を書く。幸子は震動で危険を知らせる。ポチは体温でそっと寄り添う。誰も欠けた部分を口にしないまま、三人は互いを支え合って生きてきた。  だが、ある新月の夜。  海が、音もなく銀色に発光した。光は三人を包み込み、気づけばそこは、色彩と音に満ちた不思議な場所だった。 「見える……。幸子、お前の顔が、見えるぞ!」 「音が……勇さんの声が、聞こえる……!」  生まれて初めて、三人は「完璧な体」を手に入れる。  だがその歓喜の裏で、これまで誰にも明かせずにいた「醜い過去」が、静かな湖面に一つずつ映し出されていく――。  このまま、完璧な世界にとどまるか。  それとも、不完全な自分を抱えたまま、泥の中の日常へ戻るか。  欠けていることは、本当に不幸なのだろうか。  たった一夜だけ与えられた奇跡の果てに、三人が選んだ答えとは。  指先だけで交わす愛と、静かな覚悟の物語。全7話・完結済み。
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