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検査

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 「前から気になってたんだ。オレ……もしかしたら……子供ができない身体なのかもしれないって……それで検査しようと思うんだけど……」

 仕事が落ち着いた数日後、仕事から帰ってきた泉にとうとう我慢ができなくなって不妊検査をしたいと伝えた。

 泉はかなり驚いたような顔をしていた。

 「私は別に……できたら透にちゃんと家族を作ってあげたいとは思うけど……透がいてくれたらそれでいいよ?血筋とかが大事って言うんなら、そういうのは真実達に任せればいいと思うし……」

 不安そうな顔をした泉はオレの手を握る。

 「私は本当に……透といられたらそれで幸せだよ?」

 そう言ってくれた泉は泣き出しそうな顔をしていた。



 ……泉を泣かせたいわけじゃない……

 ……でもやっぱりオレのせいで子供ができないんだとしたら……

 このまま泉と一緒にいていいのだろうか?

 ……他の誰かと結婚すればできたであろう泉の遺伝子を継ぐ子供……

 オレの子じゃなかったとしても、離婚したとしても泉の子供が見たかった。

 オレだけじゃない。

 泉の両親だって、爺ちゃんだって泉の子供を見たい筈だ。

 幸いなことに泉はまだ若いし可愛くて美人だ。

 もう一度誰かとやり直すことだって可能だろう。

 そのためにはやはり検査を……


 
 オレは泉を見つめたままそっと首を振った。

 今回ばかりは引きつもりはない。

 泉はそんなオレを見てふうっとため息をつく。

 そうしてゆっくり口を開いた。

 「検査するんなら私も一緒にするよ。ただ……一つ約束して?どんな結果が出ても……別れるなんて言わないでね?」

 泉の震える声を聞きながら、オレはなんとか頷くことしかできなかった。

 何ともいえない顔でオレを見つめる泉。

 でもこのまま検査をしないでいることはできなかった。




 別れるなんて言わないでね……そう言われたが、おそらく無理だろう。

 泉とお揃いでつけているペアリングに触れる。

 ……思えば泉と出会って約10年……幸せだったな……

 ぼんやりとそう思った。


 ★



 その週の週末に泉と病院に行くことになった。

 泉はその間も変わらず接していてくれたがオレは余り元気になれず、でもなんとかいつも通りに家事をこなす。

 その最中に密かに家にある私物の片付けを進めていた。

 
 
 結婚してから貯めていた貯金や義両親が遺してくれたお金も全て泉に渡そうと思っていた。

 ただ泉と真実に出会ってから残し始めた写真と、2人に貰ったものは持っていきたい。

 そっと分けて、鞄に詰め込む。

 



 木曜の昼間に真実が突然家にきた。

 ちょうど昼ごはんを作っていたので真実の分も一緒に作った。

 その最中すずしろが足元をうろつく。

 「すずしろ、危ないぞ?しっぽ踏んじゃうからやめてって」

 そう言いながら足元に注意しながら歩くがすずしろは離れようとしない。

 ーニャーン!!

 「すずってばもうっ……」

 一人ですずしろに文句を言いながら二人分の昼食を作っているのを真実は眺めていた。

 
 「真実、できたよ。どうぞっ」

 突然の訪問だったので余り豪華ではないがオムライスにサラダを添えた。

 その間もすずしろはニャーニャーと何かを訴えてくる。

 「んっ、どうしたんだよすずしろ、オヤツ欲しいのか?」

 そっとしゃがみ込んですずしろを撫でる。

 それでもすずしろは鳴き止まなかった。

 「すずしろあんまり騒ぐんなら……」

 少しの間別の部屋に行っててもらうか。

 そう思ってすずしろを抱き上げようとした。

 するとすずしろはするりと真実の足元に擦り寄っていった。

 「あっ、こらっ!真実のスーツに毛がつくだろっ」

 そう言いかけた瞬間真実がすずしろを抱き上げた。

 すずしろは真実に向かってニャオンと低い声で鳴いた。

 「……どうしたんだよ」

 つい悪態を吐きそうになる。

 「お前こそどうしたんだよ?何があった?」

 唐突に真実に言われて驚いてしまう。

 何も言えずにいると真実はそのまま続ける。

 「さっきからずっとどうしてどうしてって不思議がってるぞ?なんだろうと思ったが、今分かった。どうしてすずしろを置いて行くのってこいつ言ってるぞ?」

 真実はそっとすずしろを足元に降ろした。

 すずしろはオレに向かってニャーンと鳴き、しっぽをピンと立てた。

 そのまましっぽをプルプルと震わせながら足踏みをして、オレを見つめる。

 ……すずしろには分かったんだな……


 そう思った瞬間、今までずっと我慢してきたものが溢れ出して、思わず真実の前で泣いてしまった。

 

 正直不妊の検査は怖い。

 自分が原因なら泉とはもうこれ以上一緒にはいられない。

 それでも泉の子供を見てみたいことや今の幸せを失う怖さ。

 一度その不安を口に出してしまったらとめられなかった。



 いつの間にかにそばに来たのか真実はオレの背を撫で続けていてくれた。

 すずしろはすずしろでそんなオレにピッタリ寄り添うようにそばに居てくれた。

 

 不安で仕方なかった気持ちも、少しづつ緩んでいくのがわかる。

 気がついたら少しだけ眠ってしまっていたようだ。


 
 「もし結果が悪くて、泉と一緒に居られなくなったら透……俺の嫁にこいよ。浅川には俺が話すから……」

 真実の声で目を覚ます。

 目が合うと真実は優しい瞳で微笑んでくれた。

 ……やっぱり泉に似てるなあ……

 そう思うながら起きあがろうとして、すずしろがお腹の上で眠っているのに気づく。

 「コイツやっぱりあの時の猫だったんだな……」

 真実は1人納得したふうにすずしろを撫でた。

 「……?」

 ワケが分からず真実を見つめるが真実はただそっと首を振った。

 そうしてオレを見つめる真実。

 「お前泉といるのが辛いんなら俺のとこに来いよ。一生お前を養って行くぐらいの用意はできてるし。浅川だってお前ならそんなに文句は言わないだろ。近くに部屋買ってやるから、だからお願いだから黙っていなくなるなよ?」

 「……!!」

 私物を処分していたことがどうやら真実には分かったらしい。

 真実はふっと周りを見渡す。

 「部屋は相変わらず綺麗に片付いてるな。でもあの棚に置いてあったお前の本はどこにやったんだよ?それにキッチン周りだって、物が無くなったな。もう処分したのか?」

 「……片付けただけだよ」

 何とか言い返す。

 「すずしろのご飯やらオヤツの場所も細かく解るように棚に分別シールまでつけて……泉のためか?すずしろはおいて行かないでって言ってるぞ?」

 ……。

 何も言えずに黙ってしまう。

 そんなオレに真実は言った。

 「すずしろも一緒で構わないから、俺の所に来いよ。一生養ってやるから、代わりに時々美味い飯でも食わせてくれればいい。ただなあ、泉はそんなことでお前と別れるなんて言わないと思うぞ?」

 

 
 
 
 
 


 
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