春夏秋冬

いろは

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イチャモメ編

お気に召すまま ※R18

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 大河が寝室に上がると、すでに照明は落とされていた。
 ベッドサイドライトの明かりだけが、枕元に座ったルカを照らしている。
 深夜の来訪者を眼鏡越しに一瞥して、パジャマ姿のルカは読んでいた本を閉じ、傍らに置いた。
 ベッドに片ひざをつき、大河がルカに顔を寄せると、レンズの下で金の睫毛が伏せられる。
「ただいま」
 大河はこの屋敷に住んでいるわけではないけれど、いつの間にかルカの元へ戻ると、この言葉が口をつくようになった。
 言いながら唇を合わせると、ちゅっとリップ音が静かな室内に響く。
 すん、と鼻腔を掠める匂いに、ルカは閉じたままの目尻を歪めた。
「酒臭い」
「あんま飲んでねぇよ」
 微かなアルコールを感じたルカは、至近距離で大河をじとりと睨む。
 言い訳は嘘ではなく、仕事終わりに結斗がスタッフらを誘った酒の席へ付き合いで顔を出し、生ビールをグラスで数杯ほど口にしただけだ。
 タダ酒にありつけるなら浴びるほど飲む大河にとって、この程度では飲んだうちに入らない。
 離れた唇をもう一度奪ってやると、薄く開いた口内から舌が侵入する。
 吸いついて舌を絡めれば、もうそれは帰宅の挨拶ではなく、キスの先にある行為を予感させた。
 情欲を含んだ熱のやり取りに、大河の腕は無意識にルカの腰を抱く。
「先に、風呂……」
「後でいい」
 屋敷に着いてすぐ寝室に向かったため、酒の匂い以外もベッドに持ち込んでしまった。
 汚れた体でベッドに上がればルカが嫌がるかと思ったけれど、このまま先へ進んでも良いとの許可がおりる。
 待ちわびたとでも言うように、ルカが自ら唇を合わせてくるのが嬉しい。
 唾液を混じり合わせて深い口づけを味わっていると、ルカの眼鏡が顔に当たった。
 つめたいグリーンの瞳を見つめるのに邪魔な物は取り去って、傍らのチェストへ静かに置いてやる。
 首筋に唇を寄せ、ゆっくりとルカを押し倒し、布越しに胸をするりと撫でた。
 ルカの纏う黒のシルクは柔らかく、手触りだけで上等なものと知れる。
 サテンの光沢が気品を感じさせ、ルカによく似合っていた。
 絹の上から触れた胸に突起を見つけて指先で擦る。
 くにくにと刺激を与えると次第に芯を持ち、ルカの吐息に甘い声が混じった。
 もう片方も同じようにしてやると、つんと布を押し上げるふたつの膨らみが薄衣の下で主張する。
 胸元にキスをしながら、大河はパジャマのボタンをひとつずつはずした。
 絹に包まれたからだを暴くことが許された身であることに、喜びと興奮を覚えて鼓動は高鳴る。
 これは大河だけに与えられた特権だ。
 前身頃を開いて現れた直肌に手のひらを這わせた。
 白くうつくしい素肌は、絹にも劣らぬほどなめらかで艶めかしい。
 橙色の明かりに照らされるからだの上で、ぷくりと立ち上がる乳首が大河を誘惑する。
 舌で押しつぶすように舐め、口に含んでちゅうっと吸った。
「んっ……」
 口元を手で押さえたルカからくぐもった声が漏れる。
 乳首に軽く歯を立て舌先でなぶり、片方は指で摘み上げて爪先で弾くと、ルカは身をよじって刺激に感じ入った。
 唇を胸元から腹に移動させて、するすると下半身からもパジャマも脱がしながら下着越しの性器に口づける。
 乳首からの刺激でそこはすでに熱を持ち始め、下着の中でぴくんと反応するのがかわいい。
 大河は自らもシャツを脱いで、ルカの隣に寝転んだ。
 体を横に向かせたルカと正面から向き合ってキスを繰り返し、下着に手を差し入れる。
 性器から徐々に奥をまさぐると、ルカも大河の股ぐらに手を伸ばした。
 ルカの指先がベルトをバックルから引き抜き、まだおとなしくしている大河のものを撫であげる。
 互いの下肢を絡め、合わせた口元からとろりと唾液が溢れた。
 大河を求めて積極的なからだにうずうずと心が跳ね、ルカの手が育てていく劣情を、早く中にうずめたくてたまらない。
「乗る?」
 唇が重なる距離で色素の薄い双眼を真っ直ぐ見つめる。
 問われたルカは、一瞬大河から視線を外して逡巡した。
「いや、」
 心を決めてから首を横に振ったルカがぽつりと呟く。
「好きにされたい」
 伏し目がちな仕草も相まって、大河はぐっと胸を締めつけられた。
 いとしい想いが溢れ、思わずルカをぎゅうっと抱き締める。
「なんだってしてやる……」
「お前の好きにしろと言っている」
 力加減を忘れて抱く大河に、ルカは苦しいと顔を歪めた。
 皺の寄る目尻にちゅ、とキスをして、大河は仰向けにしたルカへ覆いかぶさるように腕を立てる。
「好きに、って言われてもな」
 普段から特に何かを我慢しているというわけでもなく、好きに抱いていると思うのだけど。
 改めてお好きにどうぞ、と差し出されたからだに、大河はどうしたものかと思案した。
 行為の際に、ルカは自らで大河の上に乗り上げることがある。
 自分のものをルカの好きなように嬲られて、乱れる姿は何度見ても刺激的で、欲情を煽られる光景だ。
 かと思えば大河のすべてを受け入れるように組み敷かれ、快楽に身を任せ存分に喘ぐことも多い。
 されるがままだとしても、しおらしく受け身になっているわけではなく、大河が何をするのかと行動を泳がせてもてあそび、愉悦で心を満たしているのだ。
 どちらにしてもルカが愉しんでいるのなら、それでいいと思っている。
 大河はルカを良くしてやりたいし、快楽にとろけたルカが見たいという己の欲望でもあった。
「普通じゃつまんねぇ?」
 いつも何かと仕掛けてくるルカには、どこで欲情させられるかもわからない。
 スリルのある誘惑に、大河もつい乗ってしまうのが日常だった。
 大河を飽きさせないための策を練り、あの手この手で気を引くルカに、悪い気がするはずもない。
 けれど大河としては、特別なことなどなくても、隣にいるだけで、触れ合えるだけで良いというのも本心だ。
「お前がそれで良いならそれがいい」
 率直に大河の好きなことをされたいと望むルカに、心臓がどきりと跳ねる。
「ん、なら、おまえもふつうにしてろ」
 どちらも下着まで脱いだ裸のからだを重ねた。
 キスをして、ルカの中に大河の熱を飲みこませていく。
 半分ほど埋めると、大河はゆるゆると抜き差しを繰り返しながら挿入を深めた。
 中が大河を根本まで受け入れ、抽送の速度を上げる。
 腰の律動に合わせて、ルカの嬌声が室内に響いた。
 抱き合って、ただ純粋に繋がるだけの行為で、はあはあと大河の息も徐々に荒くなっていく。
 夢中になって奥を穿ちながら視線を落とすと、目を閉じたルカが、ぎゅっと奥歯を噛みしめて顔を顰めていた。
 大河は咄嗟に腰を止める。以前にも、硬すぎて痛い、と言われたことを思い出した。
 男としては喜びたいような、申し訳ないような、複雑な想いを抱いた記憶がよみがえる。
「っ、やめないで、」
 けれど、目尻に涙を滲ませながら懇願するように呟いたルカの言葉に煽られ、ねじ込んだ熱がどくどく脈打つと、もう気遣いたくても止まってやれない。
「やめられるか!!!!!」
「うるさい、酔っ払いが」
 ルカはやめないでいい、と言いたかっただけなのだが、茹だる頭の大河には快楽に縋っているようにでも聞こえたのだろう。
 無自覚にほろ酔いな言動を見せる大河に呆れながら、ルカは抽送を再開する腰に腕を回した。
「あっ、ぁん……ッ」
 内壁を擦るように動くと徐々にルカの声が甘くなる。
 大河にしがみつく手の力がぐっと強まって、中が迎えた快感に震えていた。
 ルカがぎゅうぎゅうと全身を絡めて抱きついてくるのは無意識で、心地の良い束縛に大河は口元が緩んでしかたない。
「ルカ」
 紅潮した頬に、涙で濡れたまつ毛。
 呼べば潤む瞳で見上げる仕草も、薄く開いた唇がキスをねだるのも。きもちよくとろけたルカが、膨張した欲望をダイレクトに刺激する。
「いろいろしてくれんのもイイけど、これが一番クる」
 裸で抱き合い、キスをして。ルカの悦びが一番の幸いだと大河は目尻を下げた。
 繋がった熱が自分の中で爆ぜるのを感じながら、単純な男だな、とルカの口角が微かに上がる。
 もう少しこのままで、と望むのは、どちらも同じだ。
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