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1、再会
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首都ロンドンの中心駅を出発した列車は三十分足らずで郊外に突入し田園風景の中を突き進む。スマートフォンの最新メッセージには、母からのものが表示されていた。
シェーンは、車窓の外を眺めながら後半刻程で着く予定の故郷を想った。小ぢんまりとした駅のホームとそれにそぐわない大きなカーパーク。ほどほどに栄えた駅前の商店街。
実際に駅に降り立ったときは、想像以上にすべてが色褪せていた。
「シェーン、こっち」
短いクラクションの後、こちらを呼ぶ声は母のものだ。見慣れた青い車がロータリーに停車されていた。さっと乗り込むと、一気に実家に帰った感覚に襲われる。成人ではなく、子供になった感覚に。
「暑いでしょう? 窓開けなさいね」
母は久々に息子に再会できて、少々興奮気味に世話を焼こうとした。気候変動はイギリスも例外ではなく夏の気温はどんどん上がり雨はほとんど降らない。降ったとしてもこの時期の雨は大洪水となり街を浸水させるほど厄介なものだった。カラカラに干上がった地表は突然の雨量に耐え切れずあふれ出すのだと、何の記事で読んだだろうかとシェーンは思い出そうとして止めた。
「思っていたより元気そうね」
「まぁね。母さんも元気そうだ」
歩けるようになったからここにこうして居られるのだと、シェーンは頭の中で付け加えた。実家は駅から十分ほどドライブした先にある。母の運転はこんなに荒かったかと思うほどには、久々に再会した母は老いていた。白髪を赤く染めていても端々に感じられる老いに、シェーンは不器用に前を向き直ることで目を逸らした。
本当はそのようなことに構う余裕なんてない。身体的な体調は、仕事を辞めてしばらくしたら回復した。シェアしているアパートメントを引き揚げる気力はまだない。色々と落ち着いたら、片付けに行くか、住み続けるか今後のことを決めようと思っていた。
シェーンは、専門学校を出た後、十年ほど勤めた企業を先月退職した。理由は、部署異動をきっかけに起きた理不尽な出来事のせいで、耐え続けるうちに体調を崩してしまい、終いにはドクターストップがかかったのだ。頼れるところは無かったが、大家が実家へ連絡してしまい、ロンドンへ来るという親の申し出を断り、自らが顔を出すことにした。
「アスターは居るかな?」
「居るわよ。ルーシーも元気よ。相手してあげて」
猫のアスターとルーシーは十五を超える長寿猫だ。シェーンが十三歳のころに捨て猫だった二匹を引き取った。
緑の煌めく街路樹の中を車は進む。茶色いレンガ造りの塀が長々と並ぶ通りを過ぎ、同じような作りの家が並ぶエリアが現れる。幼い自分がまだその歩道を歩いているような錯覚に捕らわれているうちに、実家の家構えが目に入った。車がその目の前に停車され、一瞬の躊躇いの後、シェーンは車から降りた。玄関横の一階の出窓からふさふさの白猫の姿が見えた。アスターだ。
そのすぐ後ろに、厳格そうな表情を崩さない白髪の老人が立っていた。シェーンの記憶の中の姿からは程遠い、年老いた父だった。
「ただいまー」
玄関に入り明るい声を掛ける母。返事も出迎えもない。今のところは予想通りの展開に、シェーンはここに戻ってきたのが果たして正しかったのかどうか、判じかねた。心はひとつ重くなった気がしたが、母の明るい振る舞いが空気の均衡を保っていた。
「シェーン、冷蔵庫にアイスあるからね。あなたの好きなメロンもあるし」
「ああ、ありがとう。後で食べるよ」
階段を上がり、子供部屋に入る。家具はそのままだが、何年も使われていなかったので主に洋服の物置と化していた。シェーンが家を出て行ってからは母が寝室に使っていたと聞いていた通り、ベッド周りは綺麗に整えられていた。自分の子供時代の物と、母が今使っているものがごちゃまぜになった、何とも違和感満載の部屋を見回し、リネンの取り換えられたベッドに寝転んだ。開け放たれている頭上の窓から弱弱しい風が入り込む。数時間前までロンドンに居たのが不思議なほどに、そこは異世界感に満ちていた。
重い体が浮上するような感覚を覚え、シェーンは数時間ほど眠ったことを知った。まだ外は明るいが、腕時計は六時過ぎを示していた。起き上がり、いくらか見慣れた室内の足元に置いたカバンから水を取り出して全て飲み干す。
大都会から避難してきたつもりが、もうそこへ帰りたいと思った。まだ数時間しかここに居ないのに。階段を下りてリビングを覗き込むと父と母が夕食をとっていた。お馴染みの国営放送をつけながら母が一方的に話している風だった。シェーンが降りてきたことに気付いた母がシェーンに席を勧めた。シェーンは父の表情を見ることができないまま、席に着いた。恐る恐るといった風に、黒猫のルーシーが足元に近寄り、匂いをかぐ。アスターは出窓で寝ていた。
実家の味のしない料理は、久々だった。母は料理上手な方だが、無口な父の発する張り詰めた空気の中、詰め込むだけ詰め込んで逃げるように部屋に戻った。明日にはロンドンに帰ろうと心に決めながら、シェーンはまだ明るい街へ繰り出すことにした。家に居ると気が狂いそうだった。
出かけるなら買い物を頼まれてくれと母に言われて、昔から変わらないスーパーマーケットに入ったところで心臓が跳ねる。懐かしい人がそこに居た。ちょうど買い物を済ませて出てきたところという出で立ちで、記憶に残る十代の頃よりも背が伸び肉厚さを感じさせる胸板から存在感のある肩、輪郭がはっきりとした顔立ちを見るに、成人男性として成長した旧友の姿があった。向こうもこちらの姿を目にして、数拍の後、驚いたような表情をした。間を置かず間違いないと、互いに認め合った瞬間。
「シェーン!?」
「ベン!?」
「どうしてここに? 戻ったのか?」
興奮気味に聞いてくる男は、口を開けば懐かしさの中に、シェーンの知らない大人の気配も伺える何とも不思議な感じがした。彼はベンだが、シェーンの知らない他人のベンなのだと。店の入口で騒ぐものじゃないと、周囲へ視線をやったシェーンと同じことを考えたのか、ベンはシェーンに口早に誘った。
「一杯どうだ?」
ベンと疎遠になっていた理由を思い出して少々の気まずさが胸の内にわだかまったが、今更蒸し返して断ることもないとシェーンは頷き返し、カゴを戻した。彼との間にあったことに時効と言うものがあるとするならばそう言うに値するほどに、時は流れていた。
二人でパブに入り、ベンはラガーを、シェーンはエールを手に外のテラスに座った。
「本当に久しぶりだな。どうしたんだ? どこに泊まっているんだ?」
「今日、ちょうど実家に戻ってきたんだ」
シェーンは、明日には帰ろうとしていることは言わなかった。再会したばかりのベンにそこまで話す必要は無い。
「実は昼間、駅で君を見かけたような気がしたんだが、人違いかと思って声を掛けなかったんだ。やっぱり君だったんだな」
「そうだったのか? ところでベンはどうしてここに? トミーから少し聞いていたが、今はこっちに居るんだな」
トミーは、ベンとシェーンの共通の友人で、ベンとは同い年だ。シェーンがこの街に越してきてからの、かれこれ十数年の仲になる男で今はロンドンに住んでいる。ベンとの交流が断たれた後もたまにやり取りを交わしており、今でもふと思い出した頃に気軽に飲みに行ける仲だった。
「俺の話、聞いていたんだな」
「まあ。あいつは情報通だから。よく喋るし」
トミーのことだからベンにも自分の情報を流しているかもしれないと、シェーンは勘ぐりながらも、あまり詮索されたくなくてグラスを口に持って行った。ベンは、それを察したのかそれ以上は聞かず、天気の話や最近見た映画の話などをした。シェーンはそれに受け答えながら、とはいえ自分自身、トミーから聞いていた話はあまり多くなく、浅い知識しかないのだと思っていた。ベンは大学に入ったが中退し、仕事も直ぐに辞めて今はアートをやっているとか。彼の実家はそれなりに裕福な方だと聞いているが、成人した彼自身がどうやって生計を立てているか不明だ。トミーから話を聞いた当時はシェーンも私生活が忙しく、酒のアテ程度に聞き流していただけだった。
当たり障りのない話を挟んだ後、ベンが酒を一口煽りまた話を戻した。
「今はロンドンとここを行き来する生活を送っている。親戚の家業を手伝いにロンドンに行ったり、こっちでは制作活動をしたり」
トミーの話にいくつか合致する点があり、シェーンはあまり驚かなかった。ふと笑みがこぼれる。
「まだアートを続けてるんだな」
「そうだ、一度アトリエに来ないか?」
「アトリエ? もしかしてあのコテージのことか?」
シェーンの記憶の中に緑の芝の中に佇む小さな小屋の風景が浮かんだ。あの場所を最後に二人の縁は終わってしまったのをベンも分かっている筈なのに、と表情を硬くすると、ベンは神妙な面持ちで頷き返し、意を決したように答えた。
「見せたいものがあるんだ」
「ふうん。見るまでの秘密か?」
「勿体ぶるほどのものじゃあないんだが」
そう言って少々嬉しそうな表情を浮かべるベンに、今からと言い出しかねない勢いを感じてシェーンはとっさに口を挟んだ。昔の彼にはそういうフットワークの軽さや勢いが彼にはあったからだ。
「あまり遅くなると高齢の両親に悪いから、今日は無理だ」
「もちろん。シェーンの都合のいいときに。俺は明日だって構わない。水曜日まではこっちに居る予定なんだ。次は土曜日に戻ってくるんだけど、来週から二週間ほどは留守にする」
今日は月曜日。ベンの前のめり気味な誘いに乗って、翌日の約束を取り付けた後は、きっちりグラスの中のアルコールを飲み干し、約束の握手をと差し出された手を握り返してしてそのまま別れた。
シェーンは、車窓の外を眺めながら後半刻程で着く予定の故郷を想った。小ぢんまりとした駅のホームとそれにそぐわない大きなカーパーク。ほどほどに栄えた駅前の商店街。
実際に駅に降り立ったときは、想像以上にすべてが色褪せていた。
「シェーン、こっち」
短いクラクションの後、こちらを呼ぶ声は母のものだ。見慣れた青い車がロータリーに停車されていた。さっと乗り込むと、一気に実家に帰った感覚に襲われる。成人ではなく、子供になった感覚に。
「暑いでしょう? 窓開けなさいね」
母は久々に息子に再会できて、少々興奮気味に世話を焼こうとした。気候変動はイギリスも例外ではなく夏の気温はどんどん上がり雨はほとんど降らない。降ったとしてもこの時期の雨は大洪水となり街を浸水させるほど厄介なものだった。カラカラに干上がった地表は突然の雨量に耐え切れずあふれ出すのだと、何の記事で読んだだろうかとシェーンは思い出そうとして止めた。
「思っていたより元気そうね」
「まぁね。母さんも元気そうだ」
歩けるようになったからここにこうして居られるのだと、シェーンは頭の中で付け加えた。実家は駅から十分ほどドライブした先にある。母の運転はこんなに荒かったかと思うほどには、久々に再会した母は老いていた。白髪を赤く染めていても端々に感じられる老いに、シェーンは不器用に前を向き直ることで目を逸らした。
本当はそのようなことに構う余裕なんてない。身体的な体調は、仕事を辞めてしばらくしたら回復した。シェアしているアパートメントを引き揚げる気力はまだない。色々と落ち着いたら、片付けに行くか、住み続けるか今後のことを決めようと思っていた。
シェーンは、専門学校を出た後、十年ほど勤めた企業を先月退職した。理由は、部署異動をきっかけに起きた理不尽な出来事のせいで、耐え続けるうちに体調を崩してしまい、終いにはドクターストップがかかったのだ。頼れるところは無かったが、大家が実家へ連絡してしまい、ロンドンへ来るという親の申し出を断り、自らが顔を出すことにした。
「アスターは居るかな?」
「居るわよ。ルーシーも元気よ。相手してあげて」
猫のアスターとルーシーは十五を超える長寿猫だ。シェーンが十三歳のころに捨て猫だった二匹を引き取った。
緑の煌めく街路樹の中を車は進む。茶色いレンガ造りの塀が長々と並ぶ通りを過ぎ、同じような作りの家が並ぶエリアが現れる。幼い自分がまだその歩道を歩いているような錯覚に捕らわれているうちに、実家の家構えが目に入った。車がその目の前に停車され、一瞬の躊躇いの後、シェーンは車から降りた。玄関横の一階の出窓からふさふさの白猫の姿が見えた。アスターだ。
そのすぐ後ろに、厳格そうな表情を崩さない白髪の老人が立っていた。シェーンの記憶の中の姿からは程遠い、年老いた父だった。
「ただいまー」
玄関に入り明るい声を掛ける母。返事も出迎えもない。今のところは予想通りの展開に、シェーンはここに戻ってきたのが果たして正しかったのかどうか、判じかねた。心はひとつ重くなった気がしたが、母の明るい振る舞いが空気の均衡を保っていた。
「シェーン、冷蔵庫にアイスあるからね。あなたの好きなメロンもあるし」
「ああ、ありがとう。後で食べるよ」
階段を上がり、子供部屋に入る。家具はそのままだが、何年も使われていなかったので主に洋服の物置と化していた。シェーンが家を出て行ってからは母が寝室に使っていたと聞いていた通り、ベッド周りは綺麗に整えられていた。自分の子供時代の物と、母が今使っているものがごちゃまぜになった、何とも違和感満載の部屋を見回し、リネンの取り換えられたベッドに寝転んだ。開け放たれている頭上の窓から弱弱しい風が入り込む。数時間前までロンドンに居たのが不思議なほどに、そこは異世界感に満ちていた。
重い体が浮上するような感覚を覚え、シェーンは数時間ほど眠ったことを知った。まだ外は明るいが、腕時計は六時過ぎを示していた。起き上がり、いくらか見慣れた室内の足元に置いたカバンから水を取り出して全て飲み干す。
大都会から避難してきたつもりが、もうそこへ帰りたいと思った。まだ数時間しかここに居ないのに。階段を下りてリビングを覗き込むと父と母が夕食をとっていた。お馴染みの国営放送をつけながら母が一方的に話している風だった。シェーンが降りてきたことに気付いた母がシェーンに席を勧めた。シェーンは父の表情を見ることができないまま、席に着いた。恐る恐るといった風に、黒猫のルーシーが足元に近寄り、匂いをかぐ。アスターは出窓で寝ていた。
実家の味のしない料理は、久々だった。母は料理上手な方だが、無口な父の発する張り詰めた空気の中、詰め込むだけ詰め込んで逃げるように部屋に戻った。明日にはロンドンに帰ろうと心に決めながら、シェーンはまだ明るい街へ繰り出すことにした。家に居ると気が狂いそうだった。
出かけるなら買い物を頼まれてくれと母に言われて、昔から変わらないスーパーマーケットに入ったところで心臓が跳ねる。懐かしい人がそこに居た。ちょうど買い物を済ませて出てきたところという出で立ちで、記憶に残る十代の頃よりも背が伸び肉厚さを感じさせる胸板から存在感のある肩、輪郭がはっきりとした顔立ちを見るに、成人男性として成長した旧友の姿があった。向こうもこちらの姿を目にして、数拍の後、驚いたような表情をした。間を置かず間違いないと、互いに認め合った瞬間。
「シェーン!?」
「ベン!?」
「どうしてここに? 戻ったのか?」
興奮気味に聞いてくる男は、口を開けば懐かしさの中に、シェーンの知らない大人の気配も伺える何とも不思議な感じがした。彼はベンだが、シェーンの知らない他人のベンなのだと。店の入口で騒ぐものじゃないと、周囲へ視線をやったシェーンと同じことを考えたのか、ベンはシェーンに口早に誘った。
「一杯どうだ?」
ベンと疎遠になっていた理由を思い出して少々の気まずさが胸の内にわだかまったが、今更蒸し返して断ることもないとシェーンは頷き返し、カゴを戻した。彼との間にあったことに時効と言うものがあるとするならばそう言うに値するほどに、時は流れていた。
二人でパブに入り、ベンはラガーを、シェーンはエールを手に外のテラスに座った。
「本当に久しぶりだな。どうしたんだ? どこに泊まっているんだ?」
「今日、ちょうど実家に戻ってきたんだ」
シェーンは、明日には帰ろうとしていることは言わなかった。再会したばかりのベンにそこまで話す必要は無い。
「実は昼間、駅で君を見かけたような気がしたんだが、人違いかと思って声を掛けなかったんだ。やっぱり君だったんだな」
「そうだったのか? ところでベンはどうしてここに? トミーから少し聞いていたが、今はこっちに居るんだな」
トミーは、ベンとシェーンの共通の友人で、ベンとは同い年だ。シェーンがこの街に越してきてからの、かれこれ十数年の仲になる男で今はロンドンに住んでいる。ベンとの交流が断たれた後もたまにやり取りを交わしており、今でもふと思い出した頃に気軽に飲みに行ける仲だった。
「俺の話、聞いていたんだな」
「まあ。あいつは情報通だから。よく喋るし」
トミーのことだからベンにも自分の情報を流しているかもしれないと、シェーンは勘ぐりながらも、あまり詮索されたくなくてグラスを口に持って行った。ベンは、それを察したのかそれ以上は聞かず、天気の話や最近見た映画の話などをした。シェーンはそれに受け答えながら、とはいえ自分自身、トミーから聞いていた話はあまり多くなく、浅い知識しかないのだと思っていた。ベンは大学に入ったが中退し、仕事も直ぐに辞めて今はアートをやっているとか。彼の実家はそれなりに裕福な方だと聞いているが、成人した彼自身がどうやって生計を立てているか不明だ。トミーから話を聞いた当時はシェーンも私生活が忙しく、酒のアテ程度に聞き流していただけだった。
当たり障りのない話を挟んだ後、ベンが酒を一口煽りまた話を戻した。
「今はロンドンとここを行き来する生活を送っている。親戚の家業を手伝いにロンドンに行ったり、こっちでは制作活動をしたり」
トミーの話にいくつか合致する点があり、シェーンはあまり驚かなかった。ふと笑みがこぼれる。
「まだアートを続けてるんだな」
「そうだ、一度アトリエに来ないか?」
「アトリエ? もしかしてあのコテージのことか?」
シェーンの記憶の中に緑の芝の中に佇む小さな小屋の風景が浮かんだ。あの場所を最後に二人の縁は終わってしまったのをベンも分かっている筈なのに、と表情を硬くすると、ベンは神妙な面持ちで頷き返し、意を決したように答えた。
「見せたいものがあるんだ」
「ふうん。見るまでの秘密か?」
「勿体ぶるほどのものじゃあないんだが」
そう言って少々嬉しそうな表情を浮かべるベンに、今からと言い出しかねない勢いを感じてシェーンはとっさに口を挟んだ。昔の彼にはそういうフットワークの軽さや勢いが彼にはあったからだ。
「あまり遅くなると高齢の両親に悪いから、今日は無理だ」
「もちろん。シェーンの都合のいいときに。俺は明日だって構わない。水曜日まではこっちに居る予定なんだ。次は土曜日に戻ってくるんだけど、来週から二週間ほどは留守にする」
今日は月曜日。ベンの前のめり気味な誘いに乗って、翌日の約束を取り付けた後は、きっちりグラスの中のアルコールを飲み干し、約束の握手をと差し出された手を握り返してしてそのまま別れた。
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