ノー・ウォリーズ

H.Honjo

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3、マルベージャの夜明け

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 最寄り駅からタクシーに乗り、数分足らずで白い壁がまぶしい建物の前で車が止まった。白い壁に赤みの強いピンク色の花が咲き誇っている。チャイムを鳴らすとすぐに、古めかしく重厚な玄関扉が開いた。長身の男性がまずはベンを迎え入れた。握手を交わし親し気に挨拶を交わす。促されるように前に出たシェーンはハンサムな顔に一瞬見惚れ、握手した。大きくて肉厚な手は、握手しただけで男性らしさを感じるし、その顔面と等しく自信が伝わってくるようだった。ベンはその様子を慣れたように見守った後、シェーンに紹介した。

「この別荘の主、エドワード」

「ゆっくりしてってくれ」

 軽く背中を押されて入った室内は外観からは想像もつかない広いホールと、ゆったりとしたリビングが広がっていた。極めつきはその奥に見える青い空。暗い室内とのコントラストが相まって天然の明かり取りになっていた。外からの自然光は眩しくいかにも高温な様子が伺えるが、反して内部はひんやりとしていた。

 リビングでくつろいでいたらしい男女二人がこちらへ近づいて握手の手を差し出してくる。一人はふくよかな体つきの優しい雰囲気の女性で、もう一人は大人しそうな男性だ。シェーンはどこかほっとしながら握手を交わした。

「オリヴィアと、ポールだ。オリヴィア、ハリーはまだなのか?」

「夕方には到着するって」

「オリヴィアとハリーは夫婦なんだ。なんで別行動かっていうのはまぁ、分かるよな? ともかく、後で紹介するよ」

「分かるよな、で分かるかしらね。まぁ、話は長くなるからいいわ」

「ベン、君たちの部屋は手前のいつものところを準備してある。荷物置いてこいよ」

 荷物を持ったままだったのでエドワードの言葉に甘え、ベンはまた後でと言って二階へ上がった。一戸建ての、ゲストルームが数部屋ある別荘はシェーンの見たことのないものだった。足を踏み入れてすぐに、素人でも分かるほどにセンスのいい家具があつらえられた、広々とした部屋が目に入った。大き目のアンティーク窓に、これまたホテルのように整えられたセミダブルベッドが二台。ベンからの事前情報で、エドワードがそれなりの金持ちであることは聞いていた。自信に満ちた、若手の御曹司と言った風体だったが実際のところイギリスで名の知れた伯爵家の長男坊だそうだ。そして、先ほど紹介されたポールという男とパートナーだと言うことも。ポールはどちらかというとシェーンと同じ庶民の感じがする。雲の上の人間であるエドワードとの接点が分からない。ベンか、もしくは仲が良くなったら本人たちから聞けるかもしれない。

 その夜は全員で飲みに出かけた。ハリーも夜には到着した。人好きのする笑顔が印象的な熊のように大柄の男性だ。

「シェーン。ああ、聞いてるよ。今は無職だって聞いたけど、以前は何していたの?」

「ハリー」

 オリヴィアがハリーの腕を小突いた。その場の空気が一瞬凍り付いたが、シェーンは短く咳払いをしたベンを制した。

「ベンから聞いているかもしれないけど、今は無職だ。先月までは会社員だった。経理をしてた。そんな気を遣わなくていい」

「シェーンの自由な時間に乾杯」

 エドワードの静かな声が響き渡ると、はじかれたように皆で乾杯した。

「しばらく羽を伸ばして、休んでいくといい」

「すまん、失言した」

「私は言ったのよ。この人、こういうところあるの。バカなのよ」

「バカとはなんだ」

「良いから、気にしていない。エドワード、お言葉に甘えさせてもらうよ。ありがとう」

 悪い人たちではない。このくらいの気安さが、今の自分には必要だとシェーンは思った。暗い夜道を六人でそぞろ歩く。エドワードとベンを前に見ながら、ポールが話しかけてきた。

「ベン、今日はしゃいでる」

「そうなのか?」

「ベンは今まで女の子としか付き合っているのを見たことが無かったんだけど、君は別みたいだ」

「俺? 俺たちはただの友達だ」

「そうなの? 違った? 気分を害したらごめん。てっきり勘違いしてしまった」

「ベンはいつもあんな感じなのか?」

「え? それ僕に聞く? 君たち友達じゃないの?」

「そうだな。ベンとは昔、短期間だけつるんでいたくらいでつい最近、偶然再会したんだ。だから最近の彼を知らない」

「そうだったんだ。うーん、僕もベンとは大学生時代に出会ったんだけど、ベンはあの時からあんな感じかなぁ。優しいし、紳士的だし、でもちょっと突っ走る時もあるのが面白いし困る」

「それは昔と変わらないな」

 ポールは、ふふと柔らかに笑った。シェーンもつられて頬が緩む。
 彼は不思議な男だ。初対面の時から少し印象が変わり、エドワードのような男と付き合えるのだろうと思わせる、包み込むような魅力があった。ふと涼しい夜気が肌を撫でた。アルコールで火照った体をそっと冷ましてくれる。そんなふうに、心地良さを与えてくれる男だと思えた。

「何かあれば僕に言って。実は、ここしばらくはあの別荘に住んでいるんだ」

「そうなのか? ……エドワードは難しそうな男そうだ。君は色々と乗り越えてきた感じがするな」

「分かる? と言っても、エドのステータスとは違ってエド本人は単純だから。そのうち分かるよ。君もきっと好きになる。あ、そういう意味じゃなく」

「大丈夫だよ、それは」

「君は、男の人を好きになったことはある?」

「……」

「あ、変なこと聞いたね。ごめん。僕のことを話すと、僕は女の人がダメでさ」

「あるよ。昔ね。十五歳だったかな。あの頃は恋愛病みたいなやつで、恋に恋していた感じ。分かる?」

「分かるかも」

「でも相手は異性愛者で、あっけなく終わった」

「そっか」

 前を行くベンがこちらを振り返った気がしたが、勘違いかもしれないとシェーンは思った。別荘に戻り、それぞれに挨拶をして各々ゲストルームに引っ込んだ。読みかけの小説の続きが気になったが、明日は街を案内してくれるというポールと約束をしたので、あまり夜更かしする気にもならない。ベンがシャワーを浴びているよそで、シェーンはベッドに寝転がり先ほどのポールとのやり取りを思い返していた。ウィリアムのことを思い出したのは久しぶりだ。あの時は、人生で一番他人に執着したと思う。自分とは思えないほど狂おしいほどに。あれは、恋だったとしてよいのか今でも分からないが、二人で夜出かけたときの胸の高鳴りは確かに恋だったのだと思う。夢の中で見た、それに不随する欲も……。そういう意味ではベンがどういうつもりでシェーンに近付いたのかがはっきりしない。女性としか付き合っていないという先ほどの話もあるし、男が好きだと言うわけではなさそうだ。ただの、気分だろうか。

「シェーン、シャワーどうぞ」

「うーん」

 返事はしたものの体から力が抜けて、起き上がる気力が湧かない。今日はこのまま寝てしまおうかなどとぼんやりした頭で考えているとベッドがきしりと音を立てて重みが加わった方へ少し沈んだ。

「寝そう?」

「うん……」

 静かに聞くものだから、シェーンはまた一段と眠りに近づきながら口をもごつかせた。ふと微かに息を吐く声が聞こえ、笑っているのだとシェーンは思った。頭の脇が重みで沈み、額にかかる髪を触られた気がして、うっすら目を開けようとするとそっと手で覆われる。

「夜は冷えるから、掛けたほうがいい」

 ベッドが音を立て、ついで体を覆うように布が被せられ、明かりも落とされた。

「おやすみ、シェーン」

 シェーンは返事が出来なかった。確かにキスの感覚が唇に残っていた。

 それから二日後の昼過ぎ、短い午睡を取ったシェーンは階段を下りた。体は徐々にスペインのタイムテーブルに慣れ始めシエスタを取るようになってきていた。冷蔵庫から冷たい飲み物を取り出し、リビングの窓際のソファに腰かける。他人の別荘のリビングに一人、自分の体だけ切り取られて置かれたような居心地の悪さにはまだ慣れない。共有部でこんな風に過ごすのはここに来て初めてかもしれない。あの夜のキスの後、シェーンの勘違いだったのかもしれないと思えるほどにベンの態度は変わらなかった。どういうつもりなのかと思いめぐらせていると、玄関ベルの音が屋内に響きシェーンの心臓は飛び跳ねた。

 二階のドアが開く音が聞こえ、階段を下りてきたのはエドワードだ。彼も午睡を取っていたらしくリラックスした格好でいて、髪の毛を整えながらシェーンにやあと挨拶し、玄関扉を開けた。軽い挨拶と楽しそうなやり取りが開かれた扉の向こうから賑やかに聞こえ、窓越しにそれを見ていると、ポールもゆっくりとした足取りで階段を降りてくる。

「スチュが来たみたいだ」

「ああ、後から来るって言っていた?」

 賑やかな声は玄関ホールからリビングへ移動してきた。ポールが出迎え、シェーンも立ち上がる。聞いていた話によると、彼はイギリス出身で今はイタリアの建築関連の企業にデザイナーとして勤めているとか。どちらかというとエドワードのような雰囲気のある男だと思いながら、シェーンは握手の手を出した。彼は青い瞳でじっとシェーンを見つめた後、にっこりと笑いその手を握った。何か値踏みをされたような気分がしたが、勘違いだろう。

「男は初めてだな。よろしく」

 シェーンが聞き返すより先に、ベンは居るのか? と聞かれ、シェーンはまだ寝ているんじゃないかなと答えた。またスチュに見られている様な居心地の悪さを感じたが、エドワードに声を掛けられた彼は二階へ荷物を置きに階段を上がっていった。

「オリヴィアとハリーはタッチの差で出かけてしまったよ。コンサート観に行くんだって。明後日には戻るらしいけど、今夜は俺達だけで先に食事会をしよう。良いよね?」

 エドワードが携帯を取り出し、ポールにあの店で良いかなどと相談している。先ほどスチュが言っていた、男は初めてだというくだりが気になったが、靄がかかったように頭がうまく働かない。


 
 スペインの長い昼が終わり始め夜の涼しい風が吹き始めるころ、エドワードが予約を取ったらしいレストランで食事会が開かれた。スペイン人にとっては少々早い時間かもしれないが、イギリス人にとっては遅めの夕食だ。

 スチュは同席したシェーンを数秒間見つめた。なんで遅れたんだとかいう話になり、スチュは仕事でトラブルがあって到着が三日遅れたとか、今はこんな仕事をしているとか語って聞かせた。酒が入り饒舌になったスチュはエドワードに絡み始めた。

「エド、君は金の心配をしなくていいから良いよな」

「そんなことは無い」

「よく言うよ。生まれてからずっと金持ちだろう。こんな高級リゾートにあんなバカに広い別荘も持っているし。家政婦も雇っているし」

 レストランで談笑する客たちを一瞥し、エドワードが声量の上がったスチュの肩に手を置いた。

「その話をしたいなら場所を変えよう」

「良いじゃないか。ああ、ベン、ベンだってそうだよな。実家のおかげでいまだにアーティストなんかやりながら良い生活をしている。不公平だ」

 ベンが困ったようにエドワードと視線を交わした。

「スチュ、」

 白熱しかけたその場で、シェーンはどうしようもない衝動に駆られた。言い合いを止めてと頭の中で誰かの声が聞こえた気がした。その場に耐えられず席を立って、それについて謝罪をしたかも覚えていないくらいに頭が真っ白だった。同席していた皆が驚いたようにシェーンを見たが、その視線が気にならないほどに動転していた。

「帰る」

 シェーンは自分でも驚くほど強い口調でそう言い残し、振り返ることもなくレストランを足早に出た。その後を追って来たベンが店を出たところで手首を掴んで引き止める。

「シェーン、帰るってどこへ帰るつもりだ?」

「一人にしてくれ」

「できない!」

 俯くシェーンの耳に、ベンの悲痛な声が響いた。ベンは、君が居なくなるのは辛いんだと絞り出すように続けた。その声を聴いて、昔、十五の頃、彼の元から逃げるように立ち去り、疎遠になったことを思い出したシェーンは、ベンがそれを恨んでいる訳ではないのだと分かった。同時に、自分がいかに酷いことをしたかが身に染みた。シェーンは離してくれと力一杯振り払い、あっけないほど簡単にほどけたそれをすり抜け夜の街へ駆け出した。
ただ、ひたすらに一人になりたいと思った。ショックを受けたようなベンの表情が脳裏に浮かび足がもつれる。何処でも良い。誰もいない、誰も来ない場所へ。そんな思いとは裏腹に土地勘の無い街をあてもなく走っても、後ろから駆けてくる足音にすぐに追いつかれてしまった。

 体をきつく抱きすくめられ、温かい体温が密着した途端、シェーンの目からは大粒の涙が溢れ出た。

「大丈夫、もう大丈夫だよ」

 そう言うポールの声が耳に入った気がした。
 成人男性としての見栄などかなぐり捨てて往来でしゃくりあげるシェーンの涙がポールの肩を濡らす間も、ポールは呪文のように何度も同じ言葉を告げ、背中をさすった。
後から追いついたベンとポールの二人に連れられるようにして別荘に戻ったシェーンは、泣きつかれて眠りたかった。先ほどのことがあったせいでシェーンはベンの目が見られなかったが、ベンはシェーンが布団にくるまる様子をじっと見ていた。

「今日は寝る」

「ああ、おやすみ。シェーン」

 ベンがそばを離れる音は聞こえなかったが、シェーンは引きずり込まれるように深い眠りに落ちていった。



 翌朝。目を覚ましたシェーンが部屋を見回すとポールがソファで本を読んでいたところだった。ポールもシェーンに気付き、おはようと小声で言う。

「ベン、昨夜からずっと起きてたんだけど、僕が君のこと見ておくって説得してさっきやっと寝たんだ」

 ベンは寝息を立てている。ぐっすり眠っている様だった。ポールがペットボトルの水を差しだしてくれる。

「ねぇ、ベンが起きるまでちょっと出かけない?」

「良いけど、……何?」

「僕のとっておきの場所へ案内するよ」

 そう言ってポールと二人、夜明け間近の薄明りの中、自転車を走らせた。朝霧に湿った空気はひんやりとしていて、ポールに勧められたジャケットを着ていなかったら風邪をひきかねないほどだ。最初は平たんな海岸沿いを走り、徐々に勾配がきつくなる丘をこいで登った。少しなだらかなになったところで、すでに営業を始めているカフェの前で止まると、自転車を降りて何とか人がすれ違えるほどの路地を通り店の裏手へ回った。裏手はテーブルが四つ置かれたパティオになっていて、両側は隣の建物に挟まれているが、その向こうを見てシェーンは息を飲んだ。視線の先には海が広がっていた。朝焼けに染まる静かな海が。

「すごい」

「でしょう? いつ来ても綺麗なんだけど今日は格別だなぁ」

 さわさわと涼やかな風が流れ、ポールの声も同じように穏やかに耳に入った。シェーンは初対面のころからポールには人を落ち着かせる不思議な魅力を感じていたが、今もそうだった。

「ちょっと待ってて」

 そう言って、店の裏から店内に入っていったポールはそれほど間を置かずに軽食をトレーに乗せて戻ってきた。ハムやチーズが挟まった一口サイズのサンドイッチを三種類ずつと大ぶりのパン・オ・ショコラとコーヒーがトレーに隙間なく乗せられていた。

「ここのおすすめのやつを見繕ってきたらいっぱいになっちゃった。ぜひ食べて欲しいな。僕、かなり腹ペコなんだけど、君は?」

 さっきから腹は減っていた。実を言うとあれだけ泣きはらしたせいで体力をかなり消費したようで昨夜から空腹だったが、食べ物を目の前にして食欲が再燃した。

「いくらでも食べられそう」

「そりゃいい。どうぞ」

 ふふと笑い、ポールは温かいパン・オ・ショコラを手に取りほおばった。そんな片意地張らない仕草に、シェーンの心のこわばりが解けるようだった。

 腹が満たされた二人は、日が高くなるにつれ表情を変える海を、時を忘れて眺めていた。シェーンは昨夜のことを断片的に思い出しては、居たたまれない気持ちになっていた。ベンやポールはなぜこんな自分に構うのだろうと疑問も湧く。

「今回のことって、初めて?」

「……ああ。取り乱してすまなかった。君たちには迷惑かけたよな」

「スチュのこと苦手? あの人はああいう性格と言うか。言い過ぎていつも後悔するんだ。知り合うと放っておけない奴に見えてくるはずなんだけど……。今回はまずかった」
そのことについては、シェーンも整理しきれなかった。返答に困っていると、ポールが続けて言う。

「昔、ベンが好きな子に逃げられたっていう話をしていたけど、もしかして君のこと? 十六歳の頃の話だって言ってた。一度しか話してくれなかったけど、すごく辛そうだったの覚えてる」

「多分、それは俺だと思う。当時の俺は、ベンが俺のことを好きだったとは、知らなかったけど。その、色々とあったんだ」

「大丈夫? 顔色が悪いよ。気分が悪かったら話さなくていい。ところでさ、君、カウンセリングを受けた方が良いと思うよ。多分だけど、あれはトラウマ反応だと思う」

「その必要性は薄々感じていたところだった。ありがとう」

 ミルクたっぷりのカフェオレを一口飲み、背もたれに背中を預ける。肩の力が抜けきった状態は久々だった。

「本気で治療するとなると、辛くて長い治療になると思う。それでもさ、世界は優しさで溢れているよ。怖がることは無い」

「何?」

「僕の、好きな言葉。お守りみたいなものなんだ」

「なんかの詩?」

「そんなものかな」

「……ポール、ありがとう」

「うん? どういたしまして」

 にっこり笑ったその表情は本当に裏が無くて、シェーンはまた気持ちが前向きになる。

「戻ろうか」

「うん」

 もうすっかり陽が昇りパティオの壁面にスペイン特有ともいえる光と影の強いコントラストを作り出していた。二人で腰を上げ、居心地のいいパティオから来た道へ戻る。自転車を押しながら通りに出たところでポールが立ち止まった。店の前には荷台付のバンが止まっており、ここ数日で見慣れた顔がこちらを見ていたのだ。

「エド!? 来なくていいって言ったのに」

 車を降りたエドワードは二人が引いていた自転車を掴み取ると、あっという間に荷台に担ぎ上げてしまった。

「君たちがゆっくりしているところには割り込まなかったよ」

 そう自慢げに言うものだからシェーンは少し笑った。遠慮しているのか、していないのか、距離感が絶妙な男だと思ったのだ。エドワードはシェーンを一瞥すると車のドアを開けた。

「シェーン、顔色が良くなったな。良かった。まぁ、狭いが乗ってくれ」

 促されるまま車に乗り込み、三人が横並びしたところで車は発車した。がたがたと揺れる石畳を越え、綺麗に舗装された道路へ。遠回りして海岸を眺めながら、車は別荘へ向かった。

 別荘の敷地にバンが入るやいなや玄関からベンが飛び出してきて、車から降りたシェーンを勢いのまま抱きしめた。スチュも後から出てきて、シェーンが昨日は取り乱してすまなかったと言うと、気にしていないから気にするなとか、そんな意味合いのことをぶっきらぼうに言いながら肩を叩いてくれた。

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