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<プロローグ>
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幼い頃は、良かった。
ただ、強さだけが正義だった時代。
「エディス、凄ぇじゃねぇか!一人で、角兎を倒したのか?」
六歳のエディスの頭を、八歳の兄ウォルトが撫でてくれる。
「やったな、エディス。もう、庭先までなら安心して出られるぞ」
十歳の兄イネスが角兎の死体を確認して、感心したように頷く。
「へぇ…魔核が一撃で破壊されてる。どうやったのか判らないけど、これなら、角も魔石も無傷だな。偉いぞ、エディス」
そして、最年長十二歳の兄アーサーが、にこにこと笑って合格のサインを証書に入れ、くしゃりと頭を撫でてくれた。
「姉さん、凄いや!」
四歳の弟オリバー、二歳の弟カーティスも、目をきらきらと輝かせて、エディスの成果を褒め称える。
命の危険と背中合わせの生活だからこそ、常に、思った事を伝えろ。
それが、父トマスの教え。
だから、ラングリード兄弟は、言葉を惜しまない。
「この間、教えた訓練法はどうだった?」
「まだちょっと、ぎこちないかなぁ?もう少し、慣れたら大丈夫かも」
「そっか。エディスは細かい魔力操作が得意だから、慣れたらもっと、上手く出来るようになるさ」
優しい兄達と、可愛い弟達。
考える事は、どうすれば領民の暮らしを安全に守れるか、と言う事ばかりで、男とか女とか、性別について話をされた記憶はない。
自分が『女』だと言う事は知っていたけれど、それがどう将来に関係してくるのかなんて、考えた事もなかった。
だから、成長と共に兄達と体格差が生まれ、筋肉が思うようについていかない事にも、月に一度、体が思うに任せない日々が訪れる事にも、貴族令嬢として兄達と異なる教育を受ける事にも、戸惑った。
何故、女の子は騎士団に入れないの?
何故、女の子は魔獣討伐をしないの?
何故、女の子はお嫁さんになって家を守るの?
父は、正式な騎士ではなくとも、団長権限で魔獣討伐に連れて行ってくれたし、いつまでだって家にいればいい、と言ってくれた。
その言葉に安心していたのは、社交界デビューを果たすまで。
自領しか知らなかったエディスは、その時、初めて父の考えが異端である事を知った。
末弟のキムを産んでからすっかり体が弱り、幼い弟を残して亡くなった母の代わりに、キムを育てながら、心に決める。
私らしく生きたい、と願っていたけれど、その結果、愛する家族が後ろ指を指され、迷惑を被るのならば、意味がない。
貴族令嬢に求められる力を、きちんと身に着けよう。
そうあれと望まれるのであれば、貴族令嬢らしく、生きてやろうじゃないか。
ただ、強さだけが正義だった時代。
「エディス、凄ぇじゃねぇか!一人で、角兎を倒したのか?」
六歳のエディスの頭を、八歳の兄ウォルトが撫でてくれる。
「やったな、エディス。もう、庭先までなら安心して出られるぞ」
十歳の兄イネスが角兎の死体を確認して、感心したように頷く。
「へぇ…魔核が一撃で破壊されてる。どうやったのか判らないけど、これなら、角も魔石も無傷だな。偉いぞ、エディス」
そして、最年長十二歳の兄アーサーが、にこにこと笑って合格のサインを証書に入れ、くしゃりと頭を撫でてくれた。
「姉さん、凄いや!」
四歳の弟オリバー、二歳の弟カーティスも、目をきらきらと輝かせて、エディスの成果を褒め称える。
命の危険と背中合わせの生活だからこそ、常に、思った事を伝えろ。
それが、父トマスの教え。
だから、ラングリード兄弟は、言葉を惜しまない。
「この間、教えた訓練法はどうだった?」
「まだちょっと、ぎこちないかなぁ?もう少し、慣れたら大丈夫かも」
「そっか。エディスは細かい魔力操作が得意だから、慣れたらもっと、上手く出来るようになるさ」
優しい兄達と、可愛い弟達。
考える事は、どうすれば領民の暮らしを安全に守れるか、と言う事ばかりで、男とか女とか、性別について話をされた記憶はない。
自分が『女』だと言う事は知っていたけれど、それがどう将来に関係してくるのかなんて、考えた事もなかった。
だから、成長と共に兄達と体格差が生まれ、筋肉が思うようについていかない事にも、月に一度、体が思うに任せない日々が訪れる事にも、貴族令嬢として兄達と異なる教育を受ける事にも、戸惑った。
何故、女の子は騎士団に入れないの?
何故、女の子は魔獣討伐をしないの?
何故、女の子はお嫁さんになって家を守るの?
父は、正式な騎士ではなくとも、団長権限で魔獣討伐に連れて行ってくれたし、いつまでだって家にいればいい、と言ってくれた。
その言葉に安心していたのは、社交界デビューを果たすまで。
自領しか知らなかったエディスは、その時、初めて父の考えが異端である事を知った。
末弟のキムを産んでからすっかり体が弱り、幼い弟を残して亡くなった母の代わりに、キムを育てながら、心に決める。
私らしく生きたい、と願っていたけれど、その結果、愛する家族が後ろ指を指され、迷惑を被るのならば、意味がない。
貴族令嬢に求められる力を、きちんと身に着けよう。
そうあれと望まれるのであれば、貴族令嬢らしく、生きてやろうじゃないか。
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