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悪役令嬢視点〜推しとお茶会〜
しおりを挟む悪役令嬢こと、ローズ・シャルダンである私は戸惑っていた。
リリィの様子を影から見るつもりだったのに、服の袖で乱暴に顔をこすっている。たまらず飛び出してハンカチを差し出してしまった。
そして、リリィは差し出したレースのハンカチを握りしめ、思いつめた表情で私を見つめている。
あぁ。真剣な顔なのに、なんて可愛らしいの……それにしても、リリィって意外と背が高いのね。小柄かと思っていたけど、ひょっとして私より背が高い? って、そうじゃない!
私は言い出しにくそうにしているリリィに助け舟を出した。
「どうかなさったの?」
「あ、あの……ローズ様にご相談したいことがありまして」
相談!? 私に!? リリィから!?
私は昇天しかけた魂を根性で引き戻した。努めて平静を装い訊ねる。
「誰にも聞かれなくない内容かしら?」
「は、はい……」
私は扇子で顔を半分隠して思案した。学園生活は残り半分。カメリアたち攻略者の動きも大きくなってきた。
私の断罪ルート回避のため、ここで保険をかけておきたい。
私は扇子をたたんで訊ねた。
「今日、これから予定はありまして?」
「あ、ありません。家に帰って勉強するだけです」
「まあ、勤勉でよろしいこと。でも、たまには息抜きも必要だと思いません?」
「いき……抜き?」
「我が家で一緒にお茶をしましょう」
私の提案にリリィが驚き慌てる。
「そ、そんな!? 私などがローズ様のお屋敷に足を踏み入れるなんて!?」
「あら、お嫌?」
「めっ、滅相もございません!」
「では、いきましょう。高位貴族のお茶会の勉強になりますわよ?」
勤勉なリリィは勉強という言葉にハッとしたような顔になり、控えめに頷いた。
「ありがとうございます」
あぁ! もぅ! なんて可愛らしいの!? もう、可愛らしい以外の言葉が出てこない! 語彙力消失!
リリィの存在が尊すぎ! 攻略対象は三日で見飽きたけど、リリィは飽きるどころか、いつまでも見ていられる!
なぁーんて感情は一切表に出さず、私は自家用馬車でリリィとともに屋敷へ帰宅した。
「おかえりなさいませ」
ずらりと並び頭を下げる使用人。そのうちの一人、執事長が私の前に進み出る。
「友人のリリィ・バーロット嬢よ。失礼がないように。あとサロンにお茶の準備を」
「かしこまりました」
私が指示を出している間に、メイドたちがリリィを囲んでいた。突然のことに驚いたのかリリィが顔を強張らせて下がる。
私はリリィが高位貴族の慣習を知らないことを思い出した。
「リリィのボディチェックはしなくてよろしくてよ」
私の一言でメイドたちの動きが止まる。私は改めてリリィに説明した。
「驚かせて、ごめんなさい。高位貴族は命を狙われることが多くて、来客はボディと荷物のチェックをする決まりなの。申し訳ないけど、荷物の確認だけさせていただけるかしら?」
「それなら、どうぞ」
リリィがホッとした様子で持っていたカバンをメイドに差し出す。メイドはカバンを受け取ると、素早く中身を出してチェックをし、元の位置に戻すという作業を繰り返した。
本当はリリィの私物を他の人に触らせたくない。ボディチェックなんて、もっての外。
あの神聖な体をメイドだろうが、同性だろうが、何人たりとも触れさせたくない。
しかし、公爵家という家柄のため、荷物のチェックだけは必要。できることなら、私がチェックしたかった。
心の中で叫び、怨嗟の念を送る。寒気がしたのか、リリィの荷物をチェックしているメイドの肩が震えた。
少しして荷物のチェックを終えたメイドがリリィにカバンを返す。
「こちらにいらして」
普段なら執事が案内するところだが、リリィと一緒に過ごせる貴重な時間を一分、一秒も無駄にしたくない。
私はリリィをサロンへ案内した。
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