フリッツ・パールズとローラ・パールズの夫妻が創始したゲシュタルト療法では、この「図と地」の概念が応用されています。
私たちは、落ち込んでいる時、悩んでいる時には、うまくいかないこと、分からないことに目がいきがちです。「自分には良いところがない」「自分は何が好きか分からない」とネガティブなことに意識を向け、こうした内容を「図」とし、焦点を向けていない、まだ気づいていない背景的な要素を「地」としています。この、普段見過ごして気がついていない「地」の部分にこそ、本人の潜在的な長所やその人らしさ、が隠れているのです。
「自分には良いところがない」のではなく、「良いところはまだ見つかっていない」だけで、「既に隠れてそこにある」ということです。ゲシュタルト療法は、「図」と「地」を柔軟に選択して入れ替えることで、適応的な認知や行動を取り戻していく、というアプローチ方法です。
自分を否定してばかりで、無意識のうちに自分らしさを「ない」ものととらえ違いしている人は、視点を変えてみましょう。気がつかないまま隠れていた「地」に目を向けてみるのです。「地」の部分には、本来の自分を知る「ヒント」が眠っていると考えてみましょう。「ない」のではなくて「ある」んです。ただ、見落としているだけ。そう思うと、思考の転換が働いて、今まで気づかなかった自分の姿に気づくことができるようになります。
ここで、先ほどの二つ目の例を取り上げてみましょう。
人混みが苦手な人が自分のことを「人がたくさんいると疲れる」「街中は苦手だ」と考えている時は、「疲れる」「苦手」という考えが「図」となり認識されていました。けれども次に、人通りの少ない自然豊かな公園のカフェでお茶をした時、「一人の時間が落ち着く」ということが「図」となり認識されました。すると、「人混みは苦手」という考えが「図」から「地」に転換し背景として沈んだのです。「図」と「地」が反転して、苦手な場面からくつろぐ場面に意識が向いたことが分かりますね。
一人でいると寂しく、誰かとつながりたいと感じて落ち込む人は、「一人だと寂しい」「自分は孤独だ」という方向に目が向いているかもしれません。その時は「自分は一人だ」という方に意識が向いているので、「自分はひとりぼっちだ」「友達が少ないのは寂しい」という考えを「図」として認識している状態です。
自分のことをネガティブな側面で認識するクセがある人は「図」と「地」を「ひっくり返し大作戦」してみましょう。
もしも「一人でいるとつまらない」という考えを「図」として認識しているなら、「図」と「地」をひっくり返し、「地」に隠れている要素に目を向けてみます。引っくり返しとらえ直してみると、「人と繋がりたい」ということなんだなぁ、と気づくでしょう。それならば、人の集まる場所に出かけてみよう、久しぶりに友達に連絡してみよう、と行動につながるかもしれません。
実際、気持ちが滅入っている時は、人に会う元気がなくなり、せっかくの友達の誘いも断ってしまうことが、ありますよね。
「自分には友達がいない」と思い込んでいたけれど、冷静に考えてみたら、自分が相手からの誘いを断っていただけかも、と気づいた人がいます。その人は、久しぶりに友達に連絡を取ってみると、気持ちが晴れやかになり、「やっぱり自分は人との会話が必要だ」と再認識した、と笑顔で報告してくれたのでした。この気づきを通じて「自分は人と会っている方が元気になれる」、つまり「自分にとって本当に大切なこと」に気づいた、という一例です。
このように、いったん「自分にとって大切なこと」が何かを「図」として見出すことができたら、それ以降は意識的に「定期的に人に連絡を取ってみる」「誘われたら会う」という行動を選択できるようになります。そうすることで、心の調子を安定させることもできるようになるでしょう。
さて、あなたは普段、どんな「図」を見ているでしょうか。「図」と「地」をひっくり返してみると、どんな気づきが得られるでしょうか。
これから、自己肯定感を上げる方法や、自分らしさの見つけ方についても一緒に探していきましょう。