目標の話をする前に、もう一つ欠かせない土台があります。それが「関係性」です。そして関係性の核心は、「見てくれている感」にあります。
コールセンターでこんな研究があります。モーションセンサーでオペレーターの幸福度を測ったところ(動きの多さで幸福度が測定できるようです)、幸福度の高さと生産性に明確な相関が見られて、なんと30%もの改善効果があったというのです。
じゃあ何が幸福度を左右したか。それは、スーパーバイザーが出勤時に30秒、声をかけるかどうかだけだったんです。「おはよう、最近どう?」――たったそれだけで、声をかけられた人の幸福度は変わったんです。
また、学級崩壊を立て直すプロの先生も同じことをやっているそうです。そのプロの先生曰く。荒れた学校の生徒に欠けているのは何か――目標でも規律でもなく、「自信」だそうです。自信のなさが他者への攻撃に転化されるらしいのです。
だからその先生はカメラで生徒のいい場面を撮り、帰りの会で共有しました。そうして「見てくれている」と感じさせることで、生徒たちは自信を少しずつ取り戻し、学級崩壊が収まったとのことでした。
私が支援した、荒れ果てた焼肉屋でも同様でした。立て直しを任された店長がやったことは、全員入れ替えでも、誰よりも働くでもありませんでした。毎日のワンオンワン朝礼で一人ひとりを褒め続けた。それだけで組織が変わったんです。
最後に。家庭でも同じです。旦那さんが奥さんに「最近肌つや良くない?」「ありがとう」「体調どう?」と一言かけるだけで、見てくれている感が生まれる。それが関係性を動かし始めます。
エグゼクティブコーチングの世界では、「社長を変えようとするとうまくいかない、できるのは問いを投げることだけだ」と言われています。質問には、強引な説得よりもはるかに深く人の思考を動かす力があるんです。
奥さんを変えようとするのは難しいものです。でも問いかけることはできます。「どんな人生を送りたいの?」「子供にどんな風に育ってほしい?」「一緒にやってみたいことある?」――こういう質問が、未来について考えるきっかけを相手に渡します。
ちなみに、主体性のある人は問いのレベルが高いんです。「どうしたらもっといい家族になれるか」「どうしたら奥さんにもっと喜んでもらえるか」――そういう問いを自分に向けられる人は、自然と行動が変わっていきます。
ここまでの話を整理すると、家庭をチームとして動かすための柱は二つです。一つは「関係性をつくること」、もう一つは「未来をすり合わせること」。そのための手段も二つで、「毎日の承認」と「質問」です。
コールセンターの研究が教えてくれたように、出勤時の30秒が幸福度を左右します。家庭でいえば、「おはようの次の一言」が関係性を決めるとも言えそうです。とはいえ、難しいことは何もいりません。プレゼントも長い話し合いも今は必要ない。ただ声をかければいいんです。
【奥さんへの声かけリスト(例)】
・「最近肌つや良くない? 何かやってるの?」
・「体調どう? 無理してない?」
・「息子、最近どんな感じ? 学校楽しそう?」
・「今度の連休、何かしたいことある?」
・「最近気になってることとか、ハマってることある?」
この程度の気軽な言葉で構いません。それだけで、相手は「見てくれている」と感じる。知らず知らずに失われていた自信が回復する。そうすると、関係性が少しずつ変わっていきます。
日本全体が、目標を持ちにくい時代になっています。平均世帯年収は下がり続け、若者の自己肯定感も低くなっている。仕事への熱意があふれる社員は6%しかいない、なんてデータもあります。家庭も仕事も「どこへ向かえばいいかわからない」という閉塞感が漂っている。だからこそ、家庭という最小のチームの中に、目標と関係性をつくることが大事だと思います。それはあなたがビジネスの世界でやってきたこととまったく同じことです。
夫婦の理想が一致していなくてもいい。目指すべきは目標を話すこと。そのためにまずやることは、毎日承認して、未来の質問を投げかける。それだけです。
明日の朝、「おはよう」の次の一言を変えてみてください。