仕事では、仲間やクライアントに合わせてスケジュールの調整をしたり、会話などでも気をつかったりして、関係性をていねいに作っていく。そうしたことは、ビジネスマンであればだれしもやっていると思います。
ところが、家に帰るとなぜかうまくいかなくなる。家族の関係性を大事にしているつもりなのに、奥さんとはかみ合わなくなってしまう。子供とは会話が続かない。気づいたら自分の部屋に逃げている――そんな経験、ありませんか。
今回お話ししたいのは、上記みたいな、仕事と家庭の違いがあったとしても、「家庭はビジネスとまったく同じフレームワークで動く」ということです。組織論でやっていることを家庭に転用すると、夫婦のすれ違いも、会話のなさも、ちゃんと解決できるのです。それを具体的なエピソードと一緒にお伝えしていきます。
では、なぜ、家では「ビジネスマン」が機能しないのか。
ちょっと考えてみてください。あなたは仕事で、リーダー職をしているとします。職場ではチームの関係性を大切にして、メンバーの目標を一緒に描いて、対話を重ねて信頼を積み上げていく。あなたはそれを毎日やっている。なのに家庭では、なんで同じことをやっていないのでしょうか。
いろんな経営者やビジネスマンをご支援していて感じるのは、家庭でうまくいっていないパターンに、共通点があるということです。「目標の共有ができていない」こと、そして「関係性の構築を後回しにしている」こと。この二点に尽きます。
家庭と組織は、構造が同じです。目標と関係性、この二つの軸でチームの強さが決まる――これは組織論の基本なんですけど、家庭というチームにも、まったく同じことが言えます。
よくある家庭内の対立の構図はこうです。旦那さんは「仕事7割・家庭3割」で動いている。その一方で、奥さんは「家庭7割・仕事3割」を望んでいる。そうして互いに相手の価値観を理解しないまま、同じ屋根の下で別々の方向を向いて生活している。
こうしたちょっとした違いが家庭内の意思決定の際に、ケンカの種になります。たとえば、旦那さんがお互いのためを思って「2人とも忙しいから、今日はベビーシッターを頼もう」と言ったら、奥さんが難色を示す。旦那さんは家庭を大事にする提案をしたつもりなのに、奥さんには家庭を他人任せにして軽視していると映ってしまう。
こうしたすれ違い、心当たりがある方、多いのではないかと思うんですよね。ただ、ここで強引に「すり合わせろ」と言っても無理なんです。価値観の違いは論破できるものではありません。
じゃあどうするか。答えはシンプルで、「理想の家族像が違ったとしても、互いの夢を語り合える関係になること」が先です。
私自身の話になりますが、私はただでさえ本業で忙しいのに、本を書いてみたり、YouTubeを始めてみたり、学校で講師をしたり、いろいろなことに手を出しては、忙しさで疲弊していました。そうした姿は、奥さんからしたら「理解できない」と思われていたようです。心配されることはあっても、とくに応援はされていませんでした。
そんなあるとき、ふとした会話のなかで「佐藤可士和さんみたいなポジションを目指している」と口をすべらせたことで、奥さんの態度ががらっと変わりました。ちなみに佐藤可士和さんとは、ユニクロや楽天のロゴデザインに関わっていて、デザインといえばこの人というポジションになっている、あの方です。
それで奥さんは、私が何を目指しているかはさておき、あれこれと奮闘している理由は理解してくれたようです。「だからいろいろやってるんだ」って腑に落ちてくれました。それまでは「なんでそんなお金かけてるの」だったのが、急に応援モードに変わったんです。
結論としては、夫婦で理想が一致しなくてもいいのです。「自分がどんな未来を生きたいか」を夫婦で語れているかどうか――そこが重要です。目指すべきゴールは二つあっても、話し合えることが、家族の健全な姿なのです。
とあるクライアント先で、こんな事例がありました。ステージランク制度――ステージ1から順にできることが増えていって、ランクが上がると給与も変わる評価制度――を設計したんですが、これを導入したら面白いことが起きたのです。それまでスタッフ同士の会話は「今日は~をやらなくてはいけない」といった現在やらなくてはいけない業務の話ばかりだったのが、「いつまでにどうなりたいか」という未来の目標の話が自然に生まれたのです。現在のタスクで疲弊していた組織が、未来を語り始めたというわけです。
家庭でも同じことが言えます。「今日の夕ごはん何にする?」「子供が学校でこんなことがあって」という現在の会話はあっても、「俺たちってどんな家族になりたいんだろう」「死ぬまでにやってみたいことある?」「もし1000万円自由に使えたら何する?」――こういう未来の会話の比率が、驚くほど少ない家庭が多いのです。
この「会話の未来比率を増やす」というのが、家族が目標を共有するための最初の一手です。難しいことは何もない。聞けばいいだけなんです。