ただし、地域展開には別の狙いがある。休日を部活動指導に割くことが長時間勤務につながっていた教員の働き方改革の一環でもある。学校=教員がほぼ無償で行っていた部活動の受け皿が地域へ移った場合、保護者には、新たな費用負担が生じる可能性があるのだ。
小学生以下の子ども向けのスポーツスクール事業を手掛け、7万人超の会員を抱えるリーフラス(東京都渋谷区)は、いち早く部活動の地域展開の担い手に名乗り出た。
東京都港区とは23年4月、区立中学の全10校の運動部、文化部の113部活で指導業務委託契約を締結。同社による運営の管理・監督のもと、指導者は公募で集まった教員志望の大学生や主婦、リタイア層に加え、働き世代も担う。港区教育委員会によれば、財源には税金が充てられ、地域展開に伴う新たな保護者負担はゼロとなっている。
地域展開の制度では、部活動指導にやりがいを感じ、休日も指導をいとわない教員は兼業という形で報酬を得て指導を続けることができる。
リーフラス代表取締役の伊藤清隆さんは「地域展開を、『部活の民営化』と捉えると、5000億円規模の巨大市場が新たに誕生することになる」と語る。その上で「参入する企業には、指導者のハラスメント防止などの研修実施や、生徒がけがを負った場合の保険などに対応するほか、指導者が体調不良などで休む場合には、教えるスキルを持った社員がカバーするなどの責任も生じる」と強調する。
一方、保護者の負担をめぐっては、自治体の財政状況などによって「格差」が生じかねない。支援団体の認定NPO法人キッズドア(東京都中央区)が26年5月に公表した調査では、困窮家庭の8割が、部費や送迎などで負担が増したと回答した。SSFが24年に行った自治体向けの調査でも、「スポーツ庁に取り組んでほしいこと」に回答した550の地方自治体のうち、86.2%が「財源確保・支援」を挙げた。
最近は物価の高騰が家計を直撃する中、国も予算を計上しているが、家庭からの支出を軽減するための財源の議論は避けられないだろう。
こうした中、プロ野球は7月の12球団オーナー会議で、地域展開に伴う財源確保を主目的に、プロ野球の試合を対象とした新たな「スポーツくじ」の導入に向けた検討開始を決めた。今後の行方が注目される。
ほかにも、山間部などの地方によっては、指導者が集まらない問題にも直面する。
また、地域展開がスムーズに進んでも、少子化という根本的な問題は解決されない。過疎化が進む地方では、競技によっては子どもたちの人数確保が困難となり、受け皿となるチームや部活が淘汰されかねない。実際に多くのスポーツで、高校生の競技人口がここ20年ほどで減少の一途をたどっている。
子どもたちの数が限られる中で、多様な競技が共存していくために、部活動が複数のスポーツを体験できたり、シーズン制を導入したりすることで、スポーツに触れる選択肢を広げることはできないのか。
豪雪地帯では野球やテニスなどは冬場にできず、近年の猛暑続きで夏場に屋外で行うスポーツには熱中症リスクが伴う。例えば、野球をやっている子どもたちが体力を培う冬場には陸上やサッカー、降雪地方では屋内でできるバスケットボールやバレーボールなどをするといった、中学からの部活をシーズンごとや曜日ごとに「複数選択」できる制度によって、子どもたちを複数のスポーツが〝シェア〟できるようになれば、競技人口を増やすことができるかもしれない。
それは子どもたちが得意な競技と巡り合える機会の増にもつながるだろう。少しでも経験したことのある競技ならば、プロリーグなどを観戦する動機も増し、市場が先細るのを防ぐこともできる。