銚子丸が「人が辞めない会社」に大転換できた訳

銚子丸の石田満社長を直撃しました(右は筆者、撮影:風間 仁一郎)
新型コロナウイルスの影響で、飲食店の廃業率は過去最高を更新しています。関東を中心に展開しているグルメ回転寿司「銚子丸」もまた、緊急事態宣言時は、全社的な営業時間の大幅短縮や一部店舗の休業を余儀なくされ、一時的に大きな損失を計上しましたが、6月以降は黒字転換したといいます。
大幅な改革に舵を切ったのは、2014年にカリスマ経営者から経営を引き継いだ石田満社長です。石田社長によると、コロナ危機を乗り切るヒントは、ピンチをチャンスに変える力、すなわち「働き方改革にある」といいます。具体的にどのような働き方改革を行ったのでしょうか。石田社長と株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長が語り合いました。

コロナ危機を「チャンス」に変える

小室 淑恵(以下、小室):世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響で多くの飲食店が経営の危機に瀕しています。「反転攻勢」という観点から、銚子丸はコロナという未曾有の事態にどう対応していっているのでしょうか。

石田 満(以下、石田):徹底して「遠隔リテラシーを高める」ことに挑戦しました。飲食業という特性から、今まではやはりかなりアナログな社風でしたが、今回は思い切って会議や研修、さらに魚の買い付けもオンラインで行ってみたら、買い付けのスピードが非常に上がりました。こうして今までのやり方を大幅に変えてみて驚いたのは、今までわれわれが問題視していた「長時間労働」の要因は、外的要因ではなく、内的要因によるところが大きかったという点です。

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小室:と言いますと? 外的要因、つまりお客様対応による残業が原因ではなかったということですか?

石田:そうなんです。たとえば今回、研修のオンライン化を図ったことで、今まで店長が研修で本部まで来る「長距離移動」が大きな非効率と苦労を産んでいたことがわかったのです。西は八王子、北は上尾、南は木更津から本部(千葉)に向かうとなると朝5時には家を出なくてはなりませんから。

小室:確かに移動に数時間かけていては、研修が始まる頃には疲れてしまいますし、各店舗は、まるまる1日、店長不在になってしまいますね。

石田:その点、オンライン研修であれば、実研修の2時間だけの拘束です。朝の仕込みも夜の売り込みも可能になります。店長が朝の仕込みと段取りをしっかり行えないと、店は1日中“追われ仕事”になり、結果として残業が増えてしまう。あるいは、店長不在のため、売り上げがなかなか上がらなかったんですね。これはオンライン研修を実践して、はじめて気がついたことです。

小室:当たり前のように対面で集合して行っていた研修が、各店舗の生産性を下げていたんですね。こういった自分たちが認識している残業理由と、現実に乖離があることはよくあります。

例えば、全国に80店舗を構えるアパレル・セレクトショップのシップスさん。弊社がコンサルさせていただく前は、「残業理由はお客様に最高の接客をするためです。お客様のために発生しているので、残業は苦ではないし減らしようもない」と全店長が口を揃えておっしゃっていたのですが、スタッフと店長で課題出しをしてみると、残業理由はお客様ではなかった。店長の指示の出し方や、スタッフ同士のコミュニケーション不足でたくさんのロスが生じていたことがわかったのです。

石田 満(いしだ・みつる)/銚子丸代表取締役社長。1978年、亀有信用金庫入庫、1998年オーケー入社。その後、ウェアハウス入社、社長を経て2014年、銚子丸入社。執行役員経営企画部長を経て同年8月より現職(撮影:風間 仁一郎)