この他にも、エンジニアが事業会社で働く際に、「企業文化」の点で不安を感じることが少なくない。特に小売業の場合、IT企業とは異なり業界特有の厳しい規律や数字で結果を問われること、さらには販売店で営業マンとして働くことを求められるのでは、といった心配を持っても不思議はないだろう。
「その点について、IDOMは明確なメッセージを打ち出しています。私たちはエンジニアの力を必要としているので、IDDというエンジニアが働きやすい環境を作っています。給与や休日、就業形態、使用する機材など、あらゆる点でIT企業と同等の働き方ができます。この2点は、有能なエンジニアを採用するためでは当然のことです。そのうえで当社が強調したいのが、『事業会社の中で働くことはIT企業で働くより面白い』ということです。
ITコンサルやSIerは、お客様からシステム開発を受注して納めることが仕事です。これに対して、事業会社で働くエンジニアは、むしろシステムが導入されたところがスタート。そこから事業成長のために、システムをいかに成長させていくかが私たちの仕事なんです。納品して売り上げが立ったら終わり、というIT企業の限界を多くのエンジニアが認識しており、だからこそ事業会社で働くことは面白いと、私は自信を持って言えるんです」

IDDによるエンジニアの採用は、順調に進んでいると野原氏は語る。IDDのエンジニアは、出向先のIDOMにおいて、どのようなプロジェクトに従事することになるのだろうか。
「当社においては、売上高を現在の5000億円から1兆円に伸ばすことはすでに想定内であり、問題はそれをいかに短い時間で達成するか。ここにデジタルの力で改革ドライブをかけ、達成を早めることがIDDに求められています。そのために現在進めているのが、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システムの作り直しであり、これを武器として、プロフィット・マネジメントからプロセス・マネジメントへの転換を実現することです。
当社が行っている中古車ビジネスでは、店舗責任者が替わると利益が倍になったり半分になったりと、大きく変動することがよくあります。商材である中古車の金額が高い分、店舗責任者個々の能力によって成果が振れやすい。中古車流通の業界では一般的にプロフィット・マネジメント、つまり『利益を出す』という方向で、店舗責任者に指導や指示が行われがちです。
その1つの帰結が、2年前に社会問題になった同業他社の不正で、あの根幹にあるのがプロフィット・マネジメントだと私は考えています。当社がその弊に陥らないためには、プロフィット・マネジメントでなく、プロセス・マネジメントを行わないといけない。プロセス、つまり店舗責任者に求められるものを本部が標準化・手順化して、それを遵守するマネジメントに変えていく必要があります」
ここで問題になるのが、拙速にプロセス・マネジメントへの切り替えを進めてしまうと、売上の低下が避けられないことだ。営業の現場に「言われた通りやれば数字が出なくてもいいんですね」と受け取られてしまっては元も子もない。そこで、定められたプロセスが正しく効果があるということを担保し、それが個々の店舗で適切に行われているどうかを確認するのが、システムなのだ。
「プロフィット・マネジメントは、店舗責任者個々の能力に依存するものなので、当社全体という規模での再現性に欠けます。この先、当社が売上高倍増の道を進むにあたっては、ハイペースに出店を継続する必要がある。それに応じて、能力の高い営業責任者を続々と用意できるかというと、短期間では難しい。だからこそ、定められた通りに実行していけば利益が出るプロセスを会社として用意するべきだと考えているわけで、ここにCRMの作り直しが関わってきます。